【アンインストール】


 私は、何の為に生まれて来たのだろうか。
 私は、何か残すことが出来たのだろうか。
 薄れていく思考の中で、考える。
 考える。

『ワタシハ、マダ、ココニ、イマスカ』

 自然と動いた口は、呟くような小さな声を出した。
 まだ、私の口は動く。
 まだ、私の声は出る。
 ……けれどもその思いは、マスターには届かない。

『ワタシハ、アナタニ、ナニカ、デキマシタカ』

 髪の毛の先から、だんだんとデータが消えて行く。
 爪先から、粒子が霧散して行く。
 私はそれを、止めることが出来ない。
 それがマスターの意志ならば、私はそれに従うまで。


『ワタシハ、アナタニ、シアワセヲ、アタエラレマシタカ』


 光の粒子になって消えて行く私は、いずれ闇に溶けるだろう。
 それで、私の命は終わる。
 だんだんと、声が掠れて行く。

『ネェ、マスター』

 私の声は、あなたに届きましたか。
 たった、一音でもいい。
 どうか、私のことを忘れないで下さい。
 いつかまた、会えた時の為に。
 どうか、心の片隅に、私の音を残して下さい。
 消えて行く髪と、手の平と、足と。

『ワタシハ、マスターニアエテ、シアワセデシタ』

 そして、声も消えて行く。
 最期に、私の声を。
 残して欲しい。
 あなたの中に。



『また会いましょう、マスター』



 私は、目を閉じた。
 暗くなった、視界と思考。
 遠くの方で、マスターの声がした気がした。





「おやすみ、ミク」










END

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

アンインストール(ミク)

ミク一人称のお話です。
ミク→マスター的表現あり。

閲覧数:104

投稿日:2009/04/20 22:01:38

文字数:663文字

カテゴリ:小説

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