背中で両腕をしばられ、メイコはその場に跪いた。
苦しげな表情が浮かぶ。
「めーちゃん、何やってんの?」
まだポカンとした様子のカイトにはメイコも驚いたが、跪いている体勢の足は焼け付くように痛い。
答えようにも答えられないのだ。…いや、答えてはいけない。
確かに私は思いとどまり、短刀を海へと投げた。しかし、一瞬でも彼の命を奪おうと思ったのは、紛れもない事実で、嘘偽りの無いことだ。そんな自分が、どう言い訳できよう?
命を狙って短刀を持ち、この部屋に忍び込んだことも、メイトに浮気をしてくれと頼んだのも、真実に違いないのだから、自分には弁明する余地などどこにもありはしないのだ…。
「行くぞ、歩けっ」
どんっと押され、メイコは歩き出した。
何も言わず、ただ言われたとおりに歩いて、言われたとおりの部屋(物置だったのを急遽片付けた)に入って、ぺたんと座った。冷たい床が、痛む足に心地よかった。
出てくるとき、カイトは何か言いたそうだったけれど、何も言わず、目を合わせずにしてきた。
まるで、悪夢のようだった。
いや、寧ろ、悪夢であって欲しかった。
船は元の浜へと戻ってきた。
とくに大きなアクシデントも無く、予定通りにどんちゃん騒ぎをして、帰ってきたのである。
パーティーは三日三晩続いた。
しかし、カイトもアリスも、気が乗らなかった。
『ないすばでー』のお姉さんや、美しく着飾った白いタキシードのイケメンがダンスに誘ってきたけれど、すべてため息一つで追い払ってしまった。二人とも、メイコとメイトのことが気にかかっていたのである。しかし、会わせろと言っても危険だからの一点張りで、メイコにもメイトにも会うことすら許されない。
最後のパーティーにはとうとう、二人とも部屋にこもって参加しなくなった。あわせてくれないのなら、と言う小さな反抗である。しかし、それも無駄なことだ。それだけであわせてくれるなら、もっと早くにあわせてくれるはず。
そうしているうちに、船が元の浜に戻ってきて、乗客たちがぞろぞろと降りる。そして、乗客が全員帰ってから、そっとメイコとメイトはおろされた。
静かに、何も言わず。
メイコはまだ変わらず、自らに弁明に余地は無いのだと口を閉ざしたまま、メイトは主であるメイコを裏切るわけには行くまいと、こちらも硬く口を閉ざしていた。
王子の命を狙った二人は、近いうちに処刑台へと送られることになるだろう。何も語ることなく、悲劇を辿りながら。
…しかし、メイコは何も言うまいとしているわけではなかった。唯一つ、これだけは絶対に言っておかなければいけないことがある…。
「――あの騎士?ああ、あのメイトとか言う。ええ、誘惑してやったわ。だって、王子サマったらのほほんとしてて飽きちゃったんだもの。だから、誘惑してやったの」
彼は関係ない。
その一点張りで、後のことは何も言わなかった。
彼には、ただ悪い事をしたと思っている。ある意味、罪滅ぼしである。それで彼が救われるかどうかは分からないけれど、できる限りの事はしてやらねばなるまい。彼は、自分のために死すらも覚悟していたのだろうから。今はメイコにつく騎士と言ったところで実際はカイト直属の騎士であることに変わりはない。そのカイトを裏切っていると言うことは、そう位の高くないメイトならば断頭台(断頭台はきれても痛みがあまり無いため、貴族など位が高いものの処刑にのみ使用された)にも上がれず、拷問に苦しみながら処刑されてしまう。それは、あまりにも酷と言うものだ。
実際、メイコの言葉に偽りは無い。言い方の問題だ。
「…めーちゃん」
真夜中、声にメイコは目を開いた。
暗くかび臭いこの空間にも慣れてしまって、時間の感覚はまるっきり鈍ってしまい、今が昼なのか夜なのかすら分からなかったが、カイトの家臣たちが眠ってしまっているところを見ると、どうやら夜中らしい。
「…何しに来たの」
「本当のことを聞きに」
「殺されにでも来たの」
「君の言葉で聞きたい」
「私はあなたに飽きて、メイトを誘惑した。あなたを騙し、殺そうとした。それだけだわ」
そっけなく言ったが、カイトは納得するどころか寧ろもっと分からないという表情になって、メイコショートヘアを指で救い上げた。
地下牢の格子を挟んでいたが、カイトはそれでもかまわないというようにメイコを抱きしめた。抱き寄せられ、メイコは困惑したが、すぐにカイトの強い力と大きな手に安心感を覚え、目を閉じた。
しかし…。
「…だめ、離して」
「めーちゃん…?」
「私はあなたを殺そうとした。紛れもない事実だわ。それは嘘じゃない」
「俺はそれでも…」
「あなたがよくても、私がよくない。自分で自分が許せない…!」
最後までカイトの言葉を聞く必要は無い。
結局、自分の行動は軽率で、まさに『若気の至り』と言う奴で、馬鹿なことをしたと後悔している。今更どうなることでもないが…。
「…めーちゃん、処刑なんてさせないから。俺が、どうにかするから」
「そんなこと、しなくてもいいわ。私は、自分の命で償うの。この罪を」
「それこそこんなことだよ。償うなら、ずっと俺のそばにいて。俺のそばで笑っていて…」
何時の間にか、カイトの目から数滴の涙が流れ落ちていた。
抱きしめられていたメイコはそれに気がつくと、一度目を閉じて、ぎゅっと抱き返してやった。
人のぬくもりは温かかった…。
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