「いってきまーす!」
家の中にいるお父さんとお母さんに向かって元気よくそう言うと、私は家を飛び出した。
降り注ぐ日射しに目を細めつつ、いつものように塀にもたれかかっている青い髪の優男のほうに近づいていくと、向こうも私に気づいたようで、私のほうに向かってゆっくりと歩いてくる。
「おはよ」
「おはよう」
私より背の高い男の顔を見上げ、もう何度繰り返したかわからない挨拶を交わすと、どちらからともなく並んで歩き始めた。
青い髪の優男――カイトは、私の2つ年上の幼馴染だ。
親同士仲が良くて、家もそれほど遠くないところにあるため、小さい頃から当然のことのように一緒に過ごしてきている。
でも、私も思春期真っ只中の高校1年生。
小さいころは『カイトにい』なんて呼んでいたけど、今は呼び捨てで『カイト』だ。
――今年、私はカイトと同じ高校に入学した。
もちろん、カイトを追って入ろうと思ったわけではない。
断じてない。絶対ない。ありえない。
ただ、家から通える範囲で私の成績で入れるところだったから。それだけの理由だ。
「そういえば、もうすぐテストだな」
たわいもない話をしながら歩いていると、突然カイトがそんなことを言い出した。
「あ……そうだったっけ?」
そういえば、先生がそんなことを言っていたような気がする……。
今のいままで、すっかり忘れていた。
「そうだったっけって……お前、そんなんで大丈夫か?」
私が記憶を呼び戻そうと頭をフル回転してうんうん悩んでいると、呆れたような声で言ってきた。
気に入らない。すっごく気に入らない。
「何よその目は。心配されるほど、私は頭悪くないんだから」
すかさず言い返すけど、カイトは怪しむ目で私を見るだけ。
負けてたまるかと見返していると、一つため息をついて質問を繰り出した。
「へえ……数学は?」
思わず、うっと小さく息を漏らす。
痛いところを突いてくる……これだから幼馴染はやっかいだ。
数学は、私の一番苦手とする教科――そして、カイトの一番得意とする教科だ。
「教えなくていいんだ?」
挑発的に腕を組み、むすっとして俯いた私の顔を覗きこんでくる。
わかっているのにこんなこと言うカイトは、とても意地悪だと思う。
「……………………教えてください」
「はいはい」
たっぷりとった沈黙の後、私がしぶしぶとそう言うと、カイトはクスクスと笑いながら私の頭をぽんぽんと叩き、歩き始めた。
たった2年先輩なだけなのに、なんでこうも子供扱いしてくるんだろう。
でも、あんまり気にすると負けな気がして、仕方なく、私も後を追うように歩き始めた。
コメント0
関連動画0
オススメ作品
ピノキオPの『恋するミュータント』を聞いて僕が思った事を、物語にしてみました。
同じくピノキオPの『 oz 』、『恋するミュータント』、そして童話『オズの魔法使い』との三つ巴ミックスです。
あろうことか前・後篇あわせて12ページもあるので、どうぞお時間のある時に読んで頂ければ幸いです。
素晴らしき作...オズと恋するミュータント(前篇)
時給310円
8月15日の午後12時半くらいのこと
天気が良い
病気になりそうなほど眩しい日差しの中
することも無いから君と駄弁っていた
「でもまぁ夏は嫌いかな」猫を撫でながら
君はふてぶてしくつぶやいた
あぁ、逃げ出した猫の後を追いかけて
飛び込んでしまったのは赤に変わった信号機
バッと通ったトラックが君を轢き...カゲロウデイズ 歌詞
じん
6.
出来損ない。落ちこぼれ。無能。
無遠慮に向けられる失望の目。遠くから聞こえてくる嘲笑。それらに対して何の抵抗もできない自分自身の無力感。
小さい頃の思い出は、真っ暗で冷たいばかりだ。
大道芸人や手品師たちが集まる街の広場で、私は毎日歌っていた。
だけど、誰も私の歌なんて聞いてくれなかった。
「...オズと恋するミュータント(後篇)
時給310円
運営ぐるみで私をいじめたあいつらを
生涯許さない
でもあいつらって誰なんだろう
どこにいるんだろう
だれでもない
どこにもいない
存在しえないひとたち
みんな一緒だからできた集団心理がつくった幻想
だから
全部消えてくれればいのに...愛面
狐雨
ミ「ふわぁぁ(あくび)。グミちゃ〜ん、おはよぉ……。あれ?グミちゃん?おーいグミちゃん?どこ行ったん……ん?置き手紙?と家の鍵?」
ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)
漆黒の王子
君の神様になりたい
「僕の命の歌で君が命を大事にすればいいのに」
「僕の家族の歌で君が愛を大事にすればいいのに」
そんなことを言って本心は欲しかったのは共感だけ。
欲にまみれた常人のなりそこないが、僕だった。
苦しいから歌った。
悲しいから歌った。
生きたいから歌った。ただのエゴの塊だった。
こんな...君の神様になりたい。
kurogaki
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想