「ねぇ? もしも、あ、もしも、だからね?」
 そう言って、あの人は話し出した。

 もしも、人のような見た目の、人と見間違うくらいの機械があったらどう思うかと。
 もしも、その機械が歌を歌ったらどうだろうかと。
 もしも、そんな機械が、感情を持ったらどうだろうかと。
 もしも、もしも、もしも、もしも。

 その質問全部答えて、
「何に使うんですか?」
 と聞いてみた私に、
「内緒」
 と指先を唇に押し付けたあなた。

 あなたの夢だった、そのもしもが叶った世界は、こんなに色んな音色にあふれた世界になりました。

「……すた……ます……マースーター! 起きて下さいってっば!」

 今、私のことを起こすこのヒトは、ボーカロイドKAITO。
 人間ではなく、あの人が作り出した機械だ。
 現在は、どこにでもある、ありふれたものになったボーカロイド。
 あの人が、死の直前まで研究して、作り上げた成果がKAITOだった。

「……マスター? どうかしたんですか?」

 私の顔を見て驚くKAITO。

「私がどうかしたのかい? KAITO」

 そういいつつ、KAITOに手を伸ばす私。

「だってマスター」


 笑ってるのに、涙が流れてるんです。


「あぁ、KAITO、それはね」


 あの人の努力が報われて、生きた証である、お前がいてくれることが嬉しくて、でも、あの人が、その世界を見れなかったという証のように、私をマスターと呼ぶのが、寂しいだけさ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

あなたの見たかった、アノ世界は

つい書きたくなったものを短編としてまとめました。

閲覧数:132

投稿日:2010/08/03 21:53:27

文字数:630文字

カテゴリ:小説

オススメ作品

クリップボードにコピーしました