ねえ、ゲームをしようよ。
そうだなあ、ただゲームをするだけのもつまらないし……





負けたほうが罰ゲームをするのはどう?


*罰ゲーム*


「さあ君の番だ、さっさとしろよ」

 得意の営業スマイルを顔に貼り付けながら啖呵を切る39。93は視線を手持ちのカードに落としたまま、

「──ちょっと黙っててください、考え中です」

 辛らつすぎる言葉に39の形のいい眉が一瞬崩れた。
 ──大丈夫だ、弱い犬こそよく吠えるというじゃないか。イライラしている自分にそう優しく囁きかけてあげると、39は何事もなかったように向かい側に座っている彼女を待つ。
 93はそんな39など知らぬといった顔で、しかし頭の中では思考をぐるぐると巡回させていた。机上に置かれた"黄色の4"に、自分の"DrawTwo"を被せるか、否か。
 チラッと39の方を見ると、彼女と視線が合った。──ねえ、そんな営業スマイルを顔に貼り付けちゃって……貴方は"Drawfour"、持ってるんですか?
 だが、39は93の質問に、営業スマイルのままこう答えた。

「──笑えますねえ」
「……何が、笑えるんですか?」

 93は"黄色の4"の上に"DrawTwo"を被せた。
 対して39は"DrawFour"を被せる。──ほら、僕の読み通り。
 ねえ、そんな神妙な面して、ホントはおどおどしてるんだろ? なあ、そうだろ! 僕には読めるんだよ! ……そしたらさ、君のために滑走路を閉鎖して、行き詰らしてやるよ。──39の笑みが、またいつもの営業スマイルに戻った。
 机上に"DrawFour"を乗せて。

「ほら、コレで君は6枚カードを引くことになるね」

 ──僕が見たいのは、呆然と立ち尽くす君の表情《カオ》さ。

「……確かに、僕は"DrawFour"を持ってませんからね……六枚、ですか。さすがにそれはキツイですね」

 苦しそうな言葉とは対照的に、93はいつもと変わらぬしかめっ面だった。39はそれが気に入らなくて堪らない。
 93は黙って山札から六枚カードを引いた。──ほら、貴方って意外と表情《カオ》に出やすいですよね。
 僕は虎視眈々としているだけです。やっぱり罰ゲームは受けたくないでしょう? それに、きっとコレは「3回まわってワン!」じゃすまないこと、貴方だって分かっているんでしょう? 滑走路なんて離陸してみせます。──93は39の目を見て淡々と告げた。
 手に新たに増えた六枚を持って。

「これでいいでしょう?」

 ──この世界を動かす≪糸≫の先には気取った顔をした貴方がいるか、気になるじゃありませんか?
 戯画的なこの世界の≪操り主≫が誰かなのか──
 93は"DrawFour"の上に"赤の3"を被せた。

「──さあ、貴方の番です。ゆっくりどうぞ」
「そう急かしなさんな。こっちだって考えてんだよ」
「? 急かしてなどいませんが」

 だがきっとその表情《カオ》の奥には、六枚も手持ちが増えて焦っている彼女がいる──と、39は営業スマイルを貼り付けた目で、首を傾げる93を見た。相変わらず彼女はしかめっ面のままだった。どうせなら自分みたいに笑顔を作ればいいものを。
 机上に置かれた「赤の3」。そうだ、"Reverse"を被せてみたらどうだろう? そしたら少しは彼女のポーカーフェイスも崩れるだろうか。こっちは彼女の言葉に一瞬でも反応してしまうというのに、向こうは自分のカードにピクリともしない。──だけどホントは、寡黙を繕って継ぎ接ぎだらけになってんだろ? ──読めてんだよ!
"Reverse"を被せるか、否か。分析回路をカタカタと判別する39を見て、93が感想を述べた。

「──楽しんでますね」

 39の笑顔が一瞬曇る。

「……楽しんでるって……そりゃあそうさ。UNOは楽しいからね」
「そういう意味ではなくて。貴方って、ホントに他人を追い詰めることが好きなんですね」
「…………」

 39は返事をする代わりに、顔を俯かせたまま黙って"赤の0"を被せた。そして39がゆっくり顔を上げると、そこには営業スマイルの顔があった。

「──さあ、君の番だ。さっさとしろよ」

"赤の5""赤の1""赤の5""青の5""青の8""青の2""青の0""青の4"黄色の4""黄色の3""黄色の2""黄色の5"──"Skip"──つまり、次も、

「僕の番」

 彼女の目の前で遮断機を下げて。
 活殺は全て僕の自由だ。──まるでそう言っているかのように。
 しかし、93はかんかんと鳴り響く鐘の音で掻き消されて聞こえていなかったかのように、いつものしかめっ面で、遮断機が上がるのを待っていた。
 罰ゲームは簡明で率直。だけど、「おまえん家、おっばけやーしきー!」「かんたあああ!」みたいに、映画の名台詞を叫ぶだけじゃ済まされない。そんなこと、このゲームを始める前から分かっている。


 *


"緑の4"と"緑の0"を被せた39は告げた。

「──UNO」

 君を制裁してあげるよ、と。手札が残り一枚になった39の笑顔は、心なしか浮かれて見える。
 対する93の手札は数枚はあり、誰がどう見ても、39の勝利だと思われた。
 机上に置かれた"緑の0"。この上にまだ手札に残っている"Wild"を被せるか、否か。93の観測結果が出した答えは──"緑の1"。
 その瞬間、39は営業スマイルを止め、肘を付き、まるで負け犬を見ているかのような蔑んだ表情《カオ》で、93を見た。

「──コレで終わりですか?」

 ──"Wild"。
 ……あれ? "Wild"のカードの鮮やかな四色が……どうして色褪せて見えるんだろう?


 *


 39の目の前に、広大な銀河が広がっていた。
 ふわふわと浮かぶしかない宇宙空間では、天地も鷲も烏もあやふやになる。
 この星みたいにキラキラ光る、僕に繋がれたコレは……何だっけ?


 *


 39が最後の一枚を出しても、ピクリとも表情を変えない93。
 何だ、この違和感は……。それにどうして、絶望に満ちた表情《カオ》をしないんだ。──そう疑問に思う39だったが、93が発した言葉で、全てを理解するのだった。

「いけませんよ。数字カード以外を最後の残しちゃダメです」

 ──ねえ、そうでしょ? しかめっ面のまま尋ねるように告げた93の言葉に、39は目を見開き凍りついた。
 正に、水泡に帰す。
 噛ませ犬は僕だった。彼女のほうが一枚上手だった。僕が──負けた?

「嘘、だッ……!」
「嘘じゃありません。それにしても、まるで戯画的ですね。少しだけ笑えてきそうです」

 だが、その表情はしかめっ面のままで。
 39は思わず座っていた椅子から崩れ落ちた。床にへなへなと座り込む。

「全然……笑え、ねえよ……」

 呟いた声が震えていた。
 この世界を動かす≪糸≫の先には誰がいたかって? それは──目の前にいる≪彼女≫だ。
≪彼女≫は、今までずっと何をしても崩してこなかったしかめっ面を止めると、39がするはずだった勝者の顔で、

「──何今すぐ帰りたいような表情《カオ》してるんですか? ホントのゲームはこれからじゃないですか──」

 ──罰ゲームという名の。


*Fin.*

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

罰ゲーム【自己解釈】

自己解釈……ってOKなんですよね?(((¬A¬;)))
この曲大好きです。解説も読みながらカキカキしました( _ _)Ф←

UNOの内容は、非公式のハウスルールです。
うちの家には「UNOアタック」というものがあるんですが、それのルールもちょこっと融合させました。
つまりどういうことだって? ルールは適当(((

このあと39ちゃんがどんな罰ゲームを受けたのかは想像にお任せします(ぇ


原曲[http://www.nicovideo.jp/watch/sm17375356]

閲覧数:7,594

投稿日:2013/07/07 18:28:12

文字数:3,013文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

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    ま、おkですよ?
    解釈がメインという人はいますでしょうし
    まぁ、私は読むのも、書くのもあまり得意じゃないですがww
    というのは、曲自体をあまり知らないからというのが大きいですねww
    あとは、曲の解釈を自分の中だけにとどめておきたいということがあるからでしょうかw

    この曲も知らないのですが……けど、知らないからこその感じ取り方もあると思ってますw

    【雪りんごは、UNO(10)を手に入れた】

    2013/07/10 02:48:21

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      ホントですか。良かったです(;‐A‐)=3

      私は読むのも書くのも好きですwww知らない曲の自己解釈を読むのも好きです。
      あ、なんか今しるるさんが名言を言ったような……(

      UNOwww
      今度(私んちの)兄さんとしようかなwww

      2013/07/10 23:08:46

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