モゾリ、と布団の中で寝返りを打って、むにゃむにゃと訳の分からない寝言を呟く。そして、は、と気付いてリンは目を覚ます。
ムクリ、と起き上がり、ファアア、と大きな欠伸をする。そして、起き立ての頭で思考を巡らせる。と、その思考が完全に覚醒する前に、下の方から「んん・・・」と言う声が聞こえた。そしてその声をする方を見れば、床の上に布団を敷いて、未だに夢の中にいる、レンがいた。
リンは元は天使だった。だった、と言うのは今はもう、リンは天使では無いからだ。まだ天使だった頃、天界の抜け穴、ともいえる人間界へと通じる穴から、リンは落ちてしまったのだ。・・・おっちょこちょいと言われればそれまでなのだが、まぁ、それはさて置き。・・・まぁ、そんなこんながあって、今に至るのだ。説明は面倒臭いので各自で“天使の迷い子”を読んで下さると有り難いです。
そっとベッドから起き上がり、トン、と足を置く。そしてまだ夢の中にいるレンの寝顔をそっと覗き込む。
サラリと窓から入ってくる風に揺られるのは男子としては少し長めの金色の髪、同じく金色のリンの髪もフワリと宙に踊る。
クス、と小さく笑った後、リンはレンの体を揺さぶり、起こす体制に入る。
「レン、レン、もうそろそろ時間だよ」
「ん~・・・」
まだ眠たそうにしぱしぱと数回瞬きをしてから、レンはゆっくりと目を開いた。意外と寝起きが良いのでそのまま、ムクリ、と起き上がり、伸びをしてから欠伸を一つ。そしてリンと目が合うと、柔らかく微笑んで、
「おはよう、リン」
と言った。その事に未だに慣れていないらしく、リンは顔を赤くしながらも、
「おはよう、レン」
と応えた。
「あ~・・・ちょっと寝過ぎたかな・・・」
「そう? 何時もとあまり変わらないよ。五分くらい遅いけど・・・」
「五分・・・ねぇ。それ位なら良いかな。あ、リンごめん。着替えるからさ」
「あ、ハイ。分かりました!」
レンの言葉に先程よりも顔を赤らめ、リンは勢い良く立ち上がり、部屋を出た。
それから、二人で朝食を取り、レンは高校へ行く。そんな平凡な生活が今日も行われるはずだった。・・・はず、だったのだ。
レンは学校から帰って来て、直ぐに冷蔵庫の中身をチェックする。今までは一人暮らしだったから適当にやってきたが(いや、一応料理とかはしていたが)、今はリンもいる。正直、というか、やはり、と言うべきか、食料の消費量は確実に増えていた。
今日も冷蔵庫を開いてみる。あ、こりゃ少し不味いかもな。丁度安売りの広告入ってたし、行って来るか。
「リーン」
「はーい?」
呼べば、リンは直ぐに返事をする。それが何処か、嬉しかったりする。
「ちょっと買い物行って来るんだけどさぁ・・・行く?」
「あ、はい! 行きます!」
ちょっと待ってて下さいね、と言われ、何やらバタバタと忙しない音をBGMにしながら、レンは、リンってまだ敬語使う場面あるよなぁ・・・とかいう事を考えていた。
「お待たせしました!」
「ま、そんなに待っちゃいないんだけどね。んじゃ、行こうか」
「はい」
そう言ってレンは自然とリンの手を取った。
そして、買い物の帰り道。
「以外と買えたな」
「ですね」
「あのさ、リン」
「? 何です?」
「それ」
「え?」
「敬語、たまに出てる」
「え・・・、あ、ほんとだ・・・」
「無理に、とは言わないけどさ、少しずつ直してこうか」
「・・・はい」
「あらあら~、手なんか繋いじゃって、幸せそうですね、リン、レン様」
聞き覚えのある声が降ってきて、二人は空を見る。其処には四天使のルカが純白の翼をパサリ、と羽ばたかせながら其処にいた。
「ルカ様! 何時から其処にいらっしゃったのですか!?」
「フフ、リンったらまだ敬語使ってるのね。もうリンは天使じゃないのだから使わなくても良いのに・・・」
「でも・・・でも・・・」
あうあうと声になっていない言葉を言うリンから目線を逸らし、ルカはレンにニッコリと微笑んだ。レンもおずおずながらお辞儀を返す。綺麗だけど、何処か苦手だな、とレンは思った。
「御久し振りです、レン様。如何でしょうか、リンとの生活は」
「え・・・? いや、まぁ平和ですけど。普通ですけど。平々凡々ですよ」
「そうですか・・・。・・・キスとかはなさってないので?」
『はあああぁああ!!?』
少しの間沈黙してると思ったら何を行き成り言い出すんだ、この人! いや、天使か。
取り合えず、行き成りの質問にレンとリンは顔を真っ赤にして叫び出した。
「その様子だとまだの様ですね・・・。可笑しいですね、最近の子は手が出易いとばかり思っていたのですが・・・もう一線も超えてるモノだとばかり・・・」
「いや、無いから。何か思考回路可笑しくね? つーかちょいちょいちょいちょい。天使だよね、貴女天使だよね? そういう事いって良いんですか?」
「天使長からお許しなら頂きましたわ」
「どうなってんだ、天界」
「まぁまぁ、それはさて置き、」
ふ、と笑みを浮べるとルカはトン、と地面に降り立つ。そしてレンの方に歩み寄っていった。
「まだキスもしてないとは、想定外でしたね・・・。いや、でも此れも此れで良いかも知れませんね・・・」
「あの、何言って・・・」
「こういう事です」
そう言ってルカは大して身長差の無いレンにそっと顔を近づけ、そのまま、
キスをした。頬にではなく、唇に。
「・・・っ!」
リンが目を見開いてその光景を見ていた。キスをされた、と思った次の瞬間にはもうルカはレンから離れていた。ニッコリと何とも思っていない様な笑みを浮べた後、
「それでは、御機嫌よう」
そう言って、バサ、と翼を広げ、空に溶けていった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
嫌な空気が二人の間に流れる。そして、レンが何かを言い出そうとする前に、リンは走って行ってしまった。
「・・・・・・」
レンは伸ばした腕を、ピタリ、と止め、その後、ダラリと力を抜いてパタリと落とした。
「・・・っ」
涙が、止まらない。あの光景が頭に貼り付いて離れない。忘れたい、忘れたいの。でも、どうして? あの光景が、思い出したくも無いのに思い出されるの。
一人、いち早く家に戻ってきたリンはベッドの上に寝転がり、一人、涙を流していた。涙は止まる事を知らないように、次から、次から流れていく。
「・・・っ・・・うぇ・・・っ」
思わず漏れる嗚咽を何とか堪える。と、コンコン、とドアをノックされる。ビクリ、と身体が震えたが、それに応えはしなかった。コンコン、ともう二回ノックをされ、ガチャリとドアを開かれる。そこにはやはりレンがいた。いや、レンの家なのだからレンで当然なのだが。
「・・・怒ってる・・・?」
「・・・・・・」
レンの問いかけに答えない事でそれは怒っていると肯定している様なモノだ。フゥ、と息を付いてレンはベッドの余っているスペースに腰掛ける。と、リンが少しだけ、遠ざかった様な気がした。
「・・・でも、俺も驚いてるからな? 行き成りあんな事されて・・・。何されるか分かんなかったから何にも身構えなかったけど・・・まぁ、俺が悪いんだけど・・・」
「・・・んは・・・・・・・・・ない・・・」
「え?」
「レンは悪くないの! 私、こんなにルカ様の事憎んでる! レンにあんな事したから、でも、私、ルカ様の事尊敬してるのに! ルカ様の事、好きなのに! レンに、キス、した事で、私、ルカ様にこんなに嫌悪感抱いてる! 自分が自分じゃないみたいで、も、わたし、何が何だかっ・・・・・・」
起き上がり、レンの方を見ながらボロボロと涙を流しながら、リンは叫ぶ様にそう言った。それで、一応、合点はついた。
ようは、ルカに嫉妬した、て事ですかそうですか。
「リン」
そっと、名前を呼べば、リンはびくりと震えながらも真っ直ぐにレンの方を見る。その綺麗な蒼色の瞳からは大粒の涙が零れ出てきてて。レンはそれをそっと指で拭い取った。
「大丈夫だよ。それは、単なる嫉妬。誰かを好きになったなら、誰しも一回は経験するんだよ。相手を自分だけのモノにしたくて、さ」
「嫉妬・・・」
「だから、さ。泣くなよ。リンは笑った方が似合うんだから」
レンはリンに微笑みかけながら言った。リンは顔を赤くしながらも慌てた様に目尻の涙を拭いとり、フ、と微笑んで見せた。それを見てレンはリンの頭を撫でた。くすぐったそうに笑った後、リンはレンに問うた。
「・・・ねぇ、レン」
「何?」
「私は・・・レンの“特別”、なの?」
「え?」
「何だか、何時も私ばっかりレンの事意識してばっかで・・・。時々、思うの。私って・・・レンの何なのかな、て・・・」
「リン・・・」
「だから、ね?」
ふと顔を上げ、レンと目をあわす。
「教えてよ。私はレンの何?」
その問いかけにレンは一瞬、驚きながらも、言葉ではなく、行動で示して見せた。フワリ、とリンの頬を包むようにして、そのまま自分の顔を近付けて、そのまま、キスをした。
「・・・っ!」
「此れが応え、かな」
そっと顔を離しながらレンは応えた。リンは顔を真っ赤にしながらも、えへへ、と嬉しそうに笑った。そして二人はどちらからとも無く、抱き合った。大切なものを扱う様に、それでいて、手放さない様に。
「ねぇ、リン」
「何?」
「もっかい、キスしても良い?」
「ん・・・」
そっと目を閉じればレンが唇を重ねてくる。れり、と舌が口の中に入った時は驚いたが、レンに合わせて同じ様にすれば、口の中は甘くて熱いもので一杯になって。
そして、そのまま、二人はベッドに倒れ込んだ。
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裏方くろ子
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