8月15日。
今日は朝から天気がいい。
むしろ良すぎるくらいだ。
太陽がギラギラと僕の身体を照らす。
汗が頬を伝う。
今日は今年一番の暑さだか何だか知らないが、勘弁して欲しい。
病気になりそうなほど眩しい日差しに呟いた。
そんな汗だくの僕と違って彼女はそんなに汗をかいてない。
それどころか、黒猫の頭を撫でている。

「こんな暑いのに、よく猫なんて触っていられるよな。」

「確かに暑いけど、可愛いんだもん。」

「可愛いか?黒猫って目付き悪くね?」

「何言ってるの!可愛いから!もふもふして気持ち良いよ?」

そう言って、猫を抱いて近付いて来た。
これは…撫でろ、ってことか?
猫は黙って僕の顔を見上げる。
この猫の目が僕は嫌いだ。相手は動物だから当たり前かも知れないが、感情が読めないのが嫌なんだ。

「……僕の手、汗でベタベタだけど。」

そう言うと、彼女は猫を慌てて自分の方に引き寄せた。

「じゃ、じゃあいい!!」

何でもないような会話。
それでも、彼女と話すことが楽しくて、この暑い中この公園に来ている。

「ほんとにすごい汗だよ?」

彼女は笑いながら僕を指差す。

「暑いから仕方ねぇんだよ。…暑いのは苦手だし。でも、お前は暑いのは得意そうだな。」

「別に得意ってわけじゃないよ。…でも、夏は嫌いかな。」

彼女は猫を撫でながら、ふてぶてしく呟いた。
その様子が珍しくて、少し不安になった。
何か言おうと口を開いたら、急に猫が彼女の腕から逃げ出した。

「待って!!」

「そんな急いだら危ないだろ!!」

僕は彼女の後を追って走り出した。

道路に飛び出した猫の後を彼女は追いかける。

―信号が赤に変わる。

「おい!!止まれって――」

僕の声は届かなかった。
彼女はそのまま道路に飛び出し――




トラックにぶつかって

血が飛び散って

それでも止まらず

彼女は轢きずられて――




一瞬の出来事。
声が出ない。
彼女の使う石鹸の香りと血の、鉄のようなにおいと混ざり合う。
好きだった彼女の香りが変わっていく気がして、僕は吐いた。
食べた物を全部吐き出して、胃液しか出なくなるまで吐いた。
痛くて苦しくて涙が出てきた。

「………嘘だ……」

目の前の血溜まりに横たわってるグチャグチャな塊が彼女なんて信じられない。
信じたくない。

強く目を閉じる。
きっとこれは嘘なんだ。
目の前には何もなくて、ただ黒いアスファルトがあるだけなんだ。
きっとそうなんだ。

ゆっくりと目を開ける。

僕の目の前にあるのは…赤色。

「―っ!!…嘘、じゃ…ない…。」

心臓が馬鹿みたいにバクバクいっている。

ユラユラ揺れる、ぼんやりした陽炎が僕を見て嗤う。

『嘘じゃないぞ。』

陽炎のがそう言ったような気がした。
これも本当なのか嘘なのかもう分からない。

視界が段々暗くなる。
太陽は相変わらず眩しくて、蝉は何も知らないみたいに鳴いて。

―あぁ、暗くなる。















8月14日。

―カチッ、カチッ――

「っ!!―はぁ、はぁ…夢…?」

急いで周りを見る。
何も変わらない僕の部屋。
時計の針の音が大きく聞こえる。

「今は何時?」

慌てて時計を手に取る。
時計の針は、午前12時過ぎくらいを指していた。
体から力が抜けた。

「なんだ…夢、だったのか。」

やっぱり、あんなことがあるわけないんだ。
…でも、やけに煩い蝉の声を覚えていた。






「どうしたの?今日は遅かったんじゃない?」

彼女はいつも通りに笑ってる。

「いや、ちょっと寝坊してさ。」

「ふーん…疲れてるんじゃない?」

「疲れるようなことしてないぞ。」

「それもそうだね。」

二人で笑い合う。
楽しい、そう思えるこの時間が終わるわけないんだ。

「そういえば…猫いないな。」

「猫?」

「お前、猫連れてなかったっけ?」

「何言ってるの。猫なんと連れて来てないよ。車に轢かれたら大変でしょ。」

あれ?

「今日は何かおかしいよ?調子悪いんじゃない?今日はもう帰ろうか。」

「あ、あぁ。そうするか。」

夢のことが離れなくて、変なことを言ってしまった。

―よし、信号は青のままだ。
あれは夢だって分かってるけど、リアルで心配だった。

歩いていくと、公園の近くの場所で工事をしていた。

「ここに新しいお店が出来るんだって。」

「へー。」

「棒読みやめてよ。」

「はい、はい。」

目の前を歩いてくる親子が目に入った。
その親子が急に立ち止まって、上を見上げていた。
男の子が口を開けていた。
なんかマヌケな顔をしていて笑えて、彼女の方を見ると――



上から鉄柱が降ってきて

彼女の体に突き刺さり

彼女の体を貫いた。

血が僕の白い服に色をつける。

周りから悲鳴が聞こえる。
さっきの親子も騒いでる。
どこからか聞こえる風鈴の音が目の前の光景に合わなくて、夢のように感じた。

「また、夢か。嫌な夢だなぁ。」

呟いて、目を閉じる。
しばらく立っていても、意識ははっきりしてる。
目を開けると、わざとらしく嗤う陽炎が

『夢じゃないぞ。』

と、僕に言った。

―あぁ、夢、じゃないのか?

眩む、眩む。

―そういえば、どうして彼女は笑ってたんだろう?















―カチッ、カチッ

「……夢、か。」













―何回繰り返した?
君は僕の前で何回死んだ?
君がどうして死ぬのか分からなくて、泣いていた。
君はどうすれば死なずにすむの?
何十年も考えた。
僕は気付いたんだ。
こんなよく在る話なら、結末はきっと一つだけ。
君も気づいていたんだろう?














道路に走っていく彼女を押しのける。
瞬間トラックにぶち当たる。
すごく痛くて、彼女がこの痛みに耐えていたと思うと苦しくなる。
でも、きっとこれで終わるから。
ユラユラ揺れる陽炎が文句ありげに僕を見る。
その姿が悔しそうに見えて笑えてきた。

「ざまぁみろよ。」

得意気に笑ってやる。

―君が笑っていた理由がやっと分かったよ。


実によく在る夏の日のこと、そんな何かがここで終わった。





































8月14日。

ベットの上で一人の少女が猫を抱いていた。

「また、駄目だったみたい…」

少女は泣きながら呟いた。

「でも、絶対終わらせるから。キミは死なせない。」











ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

カゲロウデイズ

「カゲロウデイズ」の自己解釈です。
この曲中毒性高い気がします。
リピートが止まらなくなるんですよねww

閲覧数:311

投稿日:2011/10/30 22:04:28

文字数:2,728文字

カテゴリ:小説

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  • 禀菟

    禀菟

    ご意見・ご感想

    誰かやってくれると思ってたよお姉さん嬉しい!!←

    この曲中毒性スゴいよね!!

    やっぱり俺が自己解釈しないで良かったー

    2011/10/30 22:46:58

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