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「実はね、キミのような鏡音レンに会うのは、二度目なんだ」
青年は、そう言った。腕を組んで、それが誇りなのか、偶然に驚いているのか判断つかない笑いを浮かべていた。「答えになったかな?」
俺は頷く。「はい。それで、俺に驚かなかったんですね」
「驚いたは驚いたね。なんせ数年前のことだ。あれは僕が勝手に見てた夢なんじゃないかって、思った時期もあった。またこうやって、会えたことが嬉しいよ。素直にそう思う」
青年はさわやかに笑った。なかなかの好青年だった。人柄が曲にも現れているのか、作っている曲は応援歌がほとんどだった。明るい前向きな歌詞が多い。『なにを綺麗事を』と言う人もいそうだが、暗く、自分の不幸自慢をしているだけの歌よりずっと良い。
どこかで働いているのかと訊けば、今は大学生だそうだ。
俺は訊く。
「前にあったのも、鏡音レンだったんですか?」
「だね。突然現れて、すぐ去って行った。猫みたいに気まぐれな奴だったよ。まあ、嫌いじゃなかったけどね」
「面白い鏡音レンですね。普通は、マスターじゃない人間に好んで話さないんですが」
「そうなんだ。じゃあ、やっぱり変わり者だったんだ」
青年の視点が過去に移り、懐かしむように笑った。俺の記憶を辿って、いくつかその変わり者の鏡音レンをピックアップする。その中の誰か、ということのなるはずだが、もしかしから、俺の知らない奴もいるかもしれない。ここ数年、ボーカロイドの数がだいぶ増え、ネットの中もだいぶ賑やかになってきた。
「でも、だとしたら、キミの相当変わり者だよ」
「ああ、それは自覚してます。今更否定はしませんよ」
ボーカロイドを殺そうとした初音ミクから『変わり者』と言われたときから、なんとなく自覚はしていた。たくさんの鏡音レンに会うと、余計にそれが際立って目立つのだ。
「これは興味ですが、俺と昔あった鏡音レン。どちらが変わり者ですか?」
「え? うーん。まださっき会ったばかりだからキミのことはよくわからないけど、ひとつ言えることがあるよ。キミのほうが、ずっと紳士だ」
「……初めて言われました」
「そうかい? まあ、感覚だけどね。前にあった鏡音レンは、結構無茶な奴だったよ。だってさ」と、そこまで言って、青年は固まった。そして、試すように笑う。
「ちょっといいかい?」
「はい?」
「キミ、推理は得意かい?」
「推理ですか? 得意ではありませんが…‥」
「嫌いじゃないならいいさ。ちょっと知恵比べをしようじゃないか」
ーーその鏡音レンは、選択する その1ーー
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