「ねえ、レン、私たちって双子だよね?」
外はどしゃぶりの雨。雨の音が部屋の中まで響いてくる。厚い雲が陽の光を遮っているため、昼間でもかなり暗い。重く暗いカーテンを俺はぼーっと眺めていた。悩みがあったわけでもなく、何を考えていたわけでわけでもない。ただぼーっとしていただけ。顔はそのままで目だけをリンに向けた。
「ああ、そうだけど・・・」
本当に双子だったかどうかなんて分からないけど、マスターがそう言ってたんだし、間違いないだろとは言わなかった。何回も聞いてるから、リンだって分かってるだろうし。
「どうかしたのか?何か変だな?いつもの元気はどうした?」
「なんでもないよ。さっきのは気にしないで」
気にしないわけがない。いつも騒がしくて暴れているのに、こんなに静かなのは誰もがおかしいと感じるだろう。それに、こんなことを聞くと、「誰が暴れているって?」と言って、一回ぐらいパンチが飛んでくるのだが、そんな様子もない。
「何もないわけないだろ。おまえがなんでもないって言うときは何かあるときだ」
今まで何かあったときに、リンは「なんでもない」と言ってた。ロードローラーが故障したときも、木の枝に服を引っ掛けてびりびりに破ってしまい、めーちゃんにこっぴどく叱られたときも・・・
「何もないって言ってるでしょ」
「本当に?」
「本当だってば!」
「嘘つくの相変わらず下手だね」
あきれたような顔をした。したつもりだけ。本当はどんな表情をしたのか分からない。
「俺らは生まれてそんなに経ってないけど、ずっと一緒にいたじゃん。悩んでいることぐらいわかる。でも何を悩んでいるのかまでは分からないよ。」
リンはうつむいた。袖が濡れて色が変わっている。
「レンって大人だよね・・・」
声に少しずつ涙が混じっていく。一滴ずつ涙を含んで重くなっている、そんな声だった。
「そんなことないって。漫画やゲームが好きだし、遊びのことしか考えてないって」
「そうじゃないの。私は姉でレンは弟って教えられてきた。私だってそう思ってレンにし てきたつもり。でも・・・」
「でも?」
「私は子供。わがままばっかり言ってる小さな子供。最近そう感じてきて・・・」
袖が大粒の涙で染まっていく。俺はポケットに入っていたハンカチを取り出し、リンの涙を拭く。次々と湧き出すような涙はまるで滝のよう。
「子供っぽいなんて錯覚だろ。気にすんなって」
「でも、レンは私のわがままに何も言わないでくれてる。自分勝手なことだって言わない「そんなことないって。兄さんには文句ばっかり言ってるし、いろんなわがままは言って るよ。すべて反抗期で処理されているけど。その点、リンは兄さんや姉さんの言うこと をちゃんと聞いてるだろ。俺のほうがガキみたいにみられてるぜ、きっと」
軽い声・・・リンをなぐさめるためと冗談の混ざった声。
「私って姉失格かもね。それに本当はレンが兄で、私が妹なのかもしれない」
実際のところ、双子なのかどうかすら分らない。ネットでは双子じゃないとも聞いてる。でもマスターからは、双子でお前は弟だから、姉のリンを大事にしろってなんか逆じゃないか?と思えるようなことを言われたこともある。それが気に入らなくて文句を言ったら、歌わせてもらえないこともあった。言わない理由はそれだけ・・・というわけじゃない。もう1つ、別の理由がある。これに気づいたのがいつだっかのかは分かってない。
「そんなことないよ。これからもずっと姉と弟だ。」
「でも・・・嫌だよ。こんな子供っぽい自分なんて。レンに嫌われたくない。」
限界が近い。心臓がはじけてしまいそうな感覚、もう言わずにはいられない。リンの涙がこの気持ちを膨らませているようにも思えた。
「嫌ったりなんかしないよ。だって・・・」
「だって?」
リンは顔を少し上げた。俺の答えを待っている。言う恥ずかしさよりも、言いたいという気持ちが勝った。もう今しかない・・・そんな気がした。
「リンのことが好きだから・・・わがままなリンも、優しいリンも、泣いているリンも、うれしそうなリンも・・・とにかくリンはリン。俺はリンのすべてが好きだ」
こんなに素直になったのはどのくらい前だっただろうか。何とも言えない恥ずかしさが満ちてくる。体が溶けてしまいそうになる。
「・・・ありがと」
暖かいものが唇に触れる。リンがこんなにも近くにいる。冷たくも暖かい『それ』はゆっくりと確実に俺の心臓の鼓動を早めていき、時が刻むのを遅める。この時間がいつまで続くのだろうか?と思えるほどに長く濃密な時間が流れていく。
「いきなりなんだよ」
ゆっくりと離れ、リンから顔を背ける。自分がどんな顔をしているかなんてわからない。ただ、鼓動はいつまでも早いままだった。いっそのこと止めてしまいたいと思ってしまうほどに。
「わたしもレンのこと大好きだよ。だから、いつまでも一緒にいてね。どこへもいかない でよね」
涙はもう止まっていた。リンの本来の声が戻ってきた。
「どこにも行かない、いや行くわけがない。」
カーテンは明るい色を帯びていた。雨がやんで、陽が射したのだろう。軽くなったカーテンを開けると、清々しく晴れた空があった。雲は太陽を優しく包み込み、太陽は雲を美しく照らしている。
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ご意見・ご感想
豆富店
ご意見・ご感想
読ませていただきました。
自分の双子ではないのですが、下に出来た弟がいたので、リンにすごく共感できました。
というか、自分のことを引き合いに出してフォローするレンが大人過ぎるw
2009/04/28 20:26:51