去年の今頃、水曜夜9時ごろになると、店の向かいで女の子がギターを弾いてうたを歌っていた。
ビルの二階で、鳥海はカフェを営んでいた。駅周辺の喧騒から離れているけれど大した距離ではなく、又、ここから少し足を伸ばせば、古い町並みが楽しめる。更に言うと大学も近くにあったりする。なかなか良い立地条件のおかげもあって、もうすぐ開店3年目のこの店は、そこそこの繁盛を見せていた。
閉店は夜八時。片づけをして、八時半過ぎにはアルバイトの子は上がってしまい、その後は一人で食材の発注やら備品についてやらの事務処理をする。大体9時過ぎにはそれらもひと段落するので、鳥海は丁寧に飲み物を入れて一服する準備をする。
コーヒーのドリップをしながら、あるいは紅茶を蒸らしながら、一日の反省をする。あの忙しい時間帯の為に事前に色々と用意しておけば良かった。あの物言いはいけなかった気がする、もっと他に言い方があったような気がする。やっぱり夜も店を開けるべきかもしれない。だけど、それにはもう少し人材が欲しい。
そんなことをとりとめなく考えながら、ゆっくり丁寧に飲み物を用意し、一息入れる。
そんなとき、湯気の立つカップを口元に運びながらぼんやりと店内を見回したりすると、狭いはずのこの店内が広く感じられる。片付けられたカウンター、そろえられた椅子、磨かれて布をかけられているシルバー類。灯りだけが煌々と点けられている店内でそれらが無機質に並んでいるのを目にすると、ふと寂しさが身に迫ってくることもあった。
昼間、お客様やスタッフと共に過ごしている分、静寂が身に滲みた。寂しさを紛らわせるために音楽をかけたこともあったが、誰も居ない空間では逆に白々しく聞こえて、止めた。
だからルカが店の前で歌っていた、毎週水曜日は鳥海の楽しみだった。
たどたどしいギターの音に、ほんの少し掠れた甘い声。ぶっきらぼうな調子でルカはうたを歌っていた。落ち着いたしっとりとした声が耳に優しい。高い音も耳障りでなく、低い音も揺れない。とても上手だと思った。こんな駅から離れた場所で、二階の鳥海の店から零れ落ちる灯りを浴びて一人きりで歌う、髪の長い女の子の歌声を鳥海は気がつくと楽しみにしていた。
気がつくと、その歌声を待つようになっていた。
上手だって思ったから、音楽をしている友人に紹介をした。もっと沢山の人に聞いてほしいと思った。
そして、ギターは下手くそなくせに歌の上手なその女の子は、有名人になった。
ルカのデビュー曲のPVを見たとき、どきどきした。
モノクロの景色がくるくるとまわる中、唯一色のある薄紅色のストールを巻いたルカが、揺るぎない眼差しで前を見据えて歌う姿に、本当にこの子は有名になるんだ。と思った。ルカは沢山の人に求められて、そして求められた分だけ与えることのできる人だと思った。
そんな凄い子を見つけたのは俺なんだぜ、って、子供のように自慢したい、誇らしい気分になった。
だけど、触れることの叶わないルカの姿は見知らぬ姿で、それが少し淋しかった。
先日、電話をしたときにルカが淋しいとこぼしたその瞬間、だから、ほんの少し嬉しかった。
淋しいと思っているのは自分だけではないことが嬉しくて。
もっと、頑張れって言えばよかったのかもしれない。淋しいとか言ってる場合じゃない。とか叱咤激励すべきだったのかもしれない。
だけど、自分の中の淋しい。という感情がその言葉を拒んだ。
もう、ルカがこの店の前で歌うこともないけれど。
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