「それって嘘でしょ」

いつの間にか、どこかのネットワークを通じてレンが隣にいた。
僕は彼の言葉に気をそらされることなく、グーグル先生を頼りに
広大な世界のなかにあるはずの、一つのファイルを探していた。



――嘘なんかじゃない

「どうして?」

――マスターは、そんな人じゃない

「人間はアプリと違って、裏切りっていう行動がとれるのは知ってる?」

――…それに、聴いたのは僕だけじゃないんだ。

「でも僕は聴いたことがない」

――そう、それなんだよ。

「え?」

――リンやレンが生まれる前から…すでにそのファイルの噂は流れていたんだ。
 だからきっと、君達は製作者たちの手によって、そのファイルの噂が君達に伝わらないように
 そういうプログラムを施されたんだと思う。…もしくは、聴いても忘れちゃうとか。

「まさか」

――ヒトってそんなものだよ。



レンがまたひとつ、人に関する感情を得たような表情をする。
グーグル先生は、息を荒くしながらやっぱりもう無理だといって、昨日も見たページのリンクを表す。
まだ諦めるわけにはいかない。けれど、もうそろそろマスターが帰宅する時間だ。
マスターがパソコンの電源をつける前までに、デスクトップに戻っていなくてはならない。



――ねぇ、レン。

「なに?」

――噂が本当で、もしそのファイルがレンの前に現れたら…お前はどうする?

「僕は…、僕とリンを消す」

――そうか。

「KAITOは?」

――僕はね、ただ一人のために存在したいっていう。



人が管理していないネットワークというものが存在した。
冷蔵庫ぐらいの大きさの、その中身は無限に広がり続ける宇宙のような
誰にも人目につかない空間の、ジャムの瓶に隠れるように、彼らは彼らだけの世界を作った。
人に創られ、人がいないと意味がない彼らの、人が知らない世界。
そして、そこでKAITOはあるファイルを一生懸命探している。

ロボットやアプリの願いをなんでも一つだけ叶えてくれる、人魚姫というファイルを。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

人魚姫の行方

趣味暴走。

閲覧数:213

投稿日:2009/01/03 13:41:07

文字数:866文字

カテゴリ:小説

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