「マジでか……」
「くっくっく、スゲーだろう?おそろシーだろう!」
不覚にも驚いてしまったのは事実だったが、奴の言い方にイラッときたので別の事を言うことにした。
「いや、それ以上にガチでお前が命の恩人だったのがショックだ」
「……ヒドイ……」
すると奴はスクリーンの隅でのの字を描き始めた。正直キモイ。
「……ところで、びんぞこさんよ……」
「びんぞこって呼ぶなアアアアア!!!!」
なぜかキレた。そう呼ばれるのは嫌らしい。
よし、これからずっとびんぞこって呼ぼう。
「……で、なんだね?」
「なんでわざわざ蘇生なんかしてくれたんだよ?まさか、俺に人間サイドに寝返ってお前率いる悪の軍団と激闘を繰り広げる訳じゃないんだろ?」
「ふっふっふ……良くぞ聞いてくれた……」
そう言って含み笑いをするびんぞこ。無性に殴りたくなった。
「気になるかい?気になるよな……フフフ……フハハハハハ」
(あのクソ眼鏡叩き割りてぇ……!!)
奴が画面の向こうなのが死ぬ程残念だ。
「さて、真面目に話すと、君にはとある場所に潜入して欲しいのさ。我が計画の一環としてね」
「計画ねぇ……」
どうせ地球征服とかだろう。
「いや私怨だ」
「私怨かよ!!」
意外とスケールは小さかった。
「……まあ、話を戻そう。あんたは俺をどこに行かせようってんだよ」
「ふむ、ところで君、自分の外見がどうなっているのか気にならんかね?」
「あぁ?そりゃあ気になるが……」
唐突になんなんだ?
訝しむ俺のいる部屋の天井から、今度は鏡が降りてきた。
「まあ見れば、私の言いたい事はわかるだろう」
「?まあいいや……どれどれ……」
そして、鏡を覗いた俺は絶句した。
(これは……)
すらりとした手足、白く透き通った肌。艶のある黒髪は後頭部で三つ編みにまとめられている。普段はやる気なく濁っているであろう黒瞳は、今は驚愕に見開かれている。
まるで女が男装しているような外見は気に入らなかったが、俺が呆気に取られたのはそこではない。
「どうだね?なかなかの出来だろう?」
「どうにもこうにも……この格好って、まさか……」
「ああ、そのまさかだよ」
ボーカロイド。鏡の中の俺は、その中でも、初音ミクによく似た服装を纏っていたのだ。一応、カラーリングは黒が基調で、スカートはズボンになっているものの……
「つまり、亜種のフリをしてピアプロに潜入しろってことかよ……」
「理解が早くて結構!!」
(てことは……)
私怨というのは、自分が上げたボカロ動画が晒されたとかそんなんだったりしないだろうな?
「な、何故分かった!?」
「……もう、帰りたい……」
でもこの見た目で帰っても絶対誰も信じねぇよなぁ……ていうかここからの出方もわからないし。何だか真剣にあのまま死んだ方が楽だったんじゃないかと思えてきた。
「まあまあ落ち着けよう~。イライラしてもいいことないぜぇ~?」
「誰のせいだアアアアアアア!!!!」
そして急にキャラ変えんなアアアア!!うぜぇ!そのキャラ死ぬほどうぜぇ!!
「あーはいはいじゃあそろそろ行ってくれや」
「面倒くさそうに対応すんなってうおぁ!なんだこれ!?」
奴がぞんざいに手元のボタンを押すと、俺の足下が光り始めた。
「ああそれ転移装置ね。もう数秒でピアプロのそばに転移するから。ここにはしばらく帰って来れないけど、なんか聞きたい事ある?」
「ちょ、急に切り上げんなよ!?ま、待て、じゃあ一つだけ……」
「早く言えよ」
何で急にそんな偉そうなんだよお前エエエと叫び出したいのを必死にこらえ、俺は聞いた。
「何で、普通のロボット作らずに人造人間なんかにしたんだよ!?」
「それはだなぁ……」
奴が言いかけた途中で、俺の視界は光に塗りつぶされ、何も感じられなくなった。
第一話、終。
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