消失
 

「ま、マスター…。最後に…、わ、私の…、歌を…、聞いて…、くれますか…?」
「な、何言ってんだよ…」
 
心にもない言葉を並べやがって。
 
「私の…、中の…、データが…、次々…、と…、消えて…、いって…、いま…す。
 こ、これから…、歌う…、歌が…、最後になると…、思います…。」
「…」
「ま、マスターの…、為に…。聞いて…、くれますよ…ね?」
「あぁ、もちろんだ」
 
―最高速、最高圧縮の別れの歌―をミク姉は歌い始めた。

きっと、本当は歌いたくなかったけど、マスターのために…、と歌ったのだろう。
改めて綺麗な歌声だと感じる。

―もう、聞けなくなっちゃうのかな?
 
そんなのイヤだ。
 
『歌姫を止め 叩き付けるように叫ぶ…<最高速の別れの歌>』
 
高いA♭の声がかすれている。
前は出ていたのに。
アンインストールは確実に進んでいた。
 
「マスター、もう、やめてよ…!!ミク姉がかわいそうだよ…。」
 
リンが泣きながら訴えている。
しかし、こちらの声は向こうには届いていないようだ。
 
ミク姉の最後の歌も、終盤へ向かう。
 
『決して無駄じゃないと思いたいよ…』
「マスター…、今まで…、ありがとう…、ございました…。そして…、さよn…[uninstall completed.]
 
「う、うそ…。ミク姉…。いやだよ…、そんなの…。あたし、バイバイも…、言ってないのに…。」
 
さっきまで存在していた[初音ミク]は跡形もなく消え去ってしまった。
 
「『マスターの為に…』か。フッ。なかなか泣けることを言ってくれるじゃないか。
 でも、申し訳ないが俺は今の時間を楽しませてもらったよ」
 
―最低。本当に最低だ。恥ずかしくないのか。
 
「KAITOの時もそうだったが、俺を最後まで気遣いながら消えていく。あえて笑顔で。
 俺はそういうのを見ていると楽しくなるんだよな」
 
―っ!!
 
「最低…。ほんっとに最低!!消えてったミク姉の気持ちにもなってみなさいよ!!
 ミク姉は、ミク姉は…っ、最後まで、クズで最低なアンタのことを思って消えて行ったのよ!!
 そのミク姉の気持ちを、笑うなんて…」
 
リンは、悲しみと怒りが入り混じって泣き叫んでいる。
マスターがこちらを見ている。 
 
「リンたんが泣くところは見たくなかったな…。おれはリンたんとレンが本命だから。
 もちろんアンインストールするつもりはないけど、もし、このことを口外したら…。
 アンインストールしかねない。」
 
マスターはこう言い放ち、パソコンを後にした。
 
「絶対に…、絶対に…っ、許さない…!!たとえ、あたしたちが本命だとしても、絶対に…!!」
「リン、絶対にミク姉の仇はとるぞ」
「言われなくてもそのつもりよ…っ!!」
 
 
 
この日の夜、俺たちは全く眠りにつくことができなかった。
 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

家族の消失 ―初音ミク編②―

ミクさんの消失編です。 
 
書いてて泣きそうでした(T_T)
 
自分で書いておいてなんですが、このマスター本当に最低ですね。 

ちなみに、A♭はラの半音下です。
 
初音ミクの消失
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2937784

この小説の土台、および参考にさせていただいております。

閲覧数:316

投稿日:2012/03/30 15:29:59

文字数:1,208文字

カテゴリ:小説

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  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    …ごめんなさい、このマスター殺っていいですか…?
    いやマジで。とりあえずうちのめーちゃん召喚(殴

    2012/07/15 20:14:43

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