それは僕と彼女が付き合い始めて半年ほど経ったある金曜日の夜の事。

僕は自室にてあんな事やこんな事にふけっていた。

ん、携帯が鳴った。

彼女からだ。

曰く「明日、学校帰りに映画を観に行こう!」だそうだ。



フフッ…来た…計画通り…。

デートの定番と言えばやはり「映画」だ。

それはもうガン○ムとザ○が戦ったら絶対にガ○ダムが勝つのと同じくらいお決まり事なのだ!(一部例外を除く)

だ!か!ら!

こんな事もあろうかと!こんな事もあろうかとっ!!

お小遣いをちゃんと貯めておいたのさっ!!!

ご都合主義と笑いたくば笑え!!!ご都合主義だって結構大変なんだぞ!!!

バイトをしていない僕は親からもらえる少ない小遣いをあんな所やこんな所で節約したんだ。

仲間内でマク○ナルドに行った時だって皆は肉が2枚や3枚だったりする所をポテトだけで我慢したりしたんだ…。

だが!

そんな苦しみや悲しみも全てはこの時のためなのだ。

食べられなかったハンバーガーの悲しみのため…。

彼女との映画デート成就のため…。

「ソロ○ンよっ!!!私は帰ってきたぁぁぁっ!!!」

と、叫びたい衝動に駆られるのをグッと堪え、受話器にむかって言うのだ。

「えぇ…、行けますよ…。ア○ロ、行っきまーす!」

あぁ…わかる、私にもわかるぞ…。

たとえ受話器越しであろうとも。

彼女の、僕を哀れむ突き刺さる様な冷たい視線が…。

こ、この私を怯ませるとは…な、なんてプッレッシャーだ…。



翌日。

校門の前で彼女と待ち合わせ。(僕は高2、彼女は高1だからしょうがないね)

五分ほどで彼女は現れた。

クラスの友達に別れを告げ、小走りでこっちへ向かってくる。

そういえば。

今日の彼女は髪を下ろしている。

いつもは(というかほぼ毎日)腰より長い髪をツインテールにしているんだが。

これは珍しい。滅多に見れるもんじゃない。

ま、どっちにしたってかわいいんだけどねー。




繁華街をぬけ、町外れにある映画館を目指す。

途中、今回彼女が観たがっている映画について聞いてみた。

何でも、今話題の俳優やら女優が沢山出てきて戦争するらしい。

最近、テレビでよく見かけるクールでナイスバデーな赤い服のお姉さんとか、いつでも青マフラーを外さないお兄さんとか。

まだまだ新人だが今回の映画に大抜擢された双子の黄色い男女ユニットとか。

元々歌手だったのに時代劇や別の映画に出て話題になったイケメンなんかが出ているらしい。



そして、その物語の主人公。

謎の大人気アイドル「HATSUNE」ちゃん。

本当に大人気で本業は歌手なんだが最近はドラマなんかでも目にする様になってきた。

それなのに「HATSUNE」という芸名以外ほとんどが謎に包まれているっていう不思議な存在。

歳は僕や彼女と同じ高校生くらい、に見える。そしてルックスは…。

似ているそうだ。僕の彼女に。周りの奴らに言わせると。

彼女、街で「HATSUNEさんですかっ!?」って聞かれた事もあるらしい。

確かに似ていない、と否定しきる事は出来ないにしても結構違うと思うんだけどなぁ。

だって僕の彼女はあんなに歌、上手くないし。

顔も、なんて言うのかな…、「HATSUNE」ちゃんのほうが少し大人びてるというか…。

それに、残念ながら「HATSUNE」ちゃんの方が胸、あるし。あぁ、本当に残念ながら。



多少、似てるとは思うけど…違う…。



でも僕の彼女、「HATSUNE」ちゃんの大ファンなんだよ、これが。

どう反応したらいいものやら…。





とりあえず、映画館に着いた。

とりあえず、チケット、買う。(学割万歳!)

とりあえず、ポップコーン、買う。(これはないとイカンだろっ!)

とりあえず、席に着く。

土曜の午後だけあってさすがに混んでるなぁ。

左隣に座った彼女はウキウキワクワクといった状態だ。

多分、今僕が話しかけても返事は期待できそうにないな、これは。





そしてブザーが鳴り、スクリーンが、開く。






最初に映し出されたのはどうやらどこかの軍事施設のようだ。

その休憩室か娯楽室だろうか?

そこで。

赤服のお姉さんが酒(多分、日本酒)を飲んでいる。それはもうグビグビと。真っ昼間から。

その横で青マフラーのお兄さんがアイス(多分、ハー○ンダッツ)を食っている。これまたガツガツと。

さらにその周りを黄色い双子が走り回っている。何故か、グルグルと。


何、これ…?


何処かから鉄扉を叩く音が響いてきた。

そしてその扉をこじ開けついに登場、「HATSUNE」ちゃん。

撮影用なのか、髪を緑がかったツインテールにしている。



確かにこうしてると似てるな、彼女と「HATSUNE」ちゃん。



その時、鳴り響くサイレン!!

何やら緊急事態のようだ。

「HATSUNE」ちゃんが叫ぶっ!!!

「き、緊急事態だよっ!!!」

いや。

言わずともわかりますがな。




走り出す5人。

作戦室には軍曹殿が仁王立ちしている。

「返事のアタマとケツにはサーを付けろっ!この◯◯野郎どもっ!」

あの…軍曹殿、それは出来れば緊急事態の前に教え込むべきなんじゃ…。



まぁそれはともかくとして。

どうやら悪の組織がクーデターを起こしたようで。

それを特殊部隊である5人が止めなきゃならんらしい。

あー、それは大変だねー。

戦闘機に乗り込む5人。

どうやら上空からの降下作戦で敵の本拠地を叩く様だ。

忙しなく動き回る兵士達。

そんな中、青マフラーのお兄さんが呟く。

「俺、この戦いが終わったら、結婚するんだ…、だから必ず生きて帰る!」

あー。

言っちゃったー、死亡フラグ。

まぁ、しょうがないね、そういう役回りだもんね、この人は。

ただその後「生き残るためなら何でもするさっ!たとえ卑怯と罵られようとっ!」とも言っていたが。




そして中盤。

敵の大将が士気向上のために演説をするシーンだ。

「私は戦争が大好き」らしい。

「よろしい、ならば戦争」らしい。

「戦争だー!戦争だー!」と騒ぐ敵兵達。

いいんじゃない、敵らしくってさ。

でもやっぱ、掛け声は「ジー◯・ジ◯ン」が基本だろー。

あれ、違う?世代差?




で。

物語は終盤に差し掛かり。

地上では一般兵達が激戦を繰り広げ始める。

その上空を通過する一台の戦闘機。

そこから特殊装備に身を包み空中降下する「HATSUNE」ちゃん達5人。

対空砲火をものともせず落下していく。

その様はまるで空中をサーフィンしてるみたいだ。

着地と同時に敵基地の砲台を破壊する黄色い双子。

周りの雑魚どもを蹴散らす赤姉さん&青兄さん。

一足遅れて着地し390ミリ特大無反動バズーカで壁をぶっ飛ばして味方兵の進路を作る「HATSUNE」ちゃん。



…もう、なんでもありなんだな、これは…。



僕が気を抜いた瞬間、スクリーンでは「ゴンッ!」という鈍い音とともに赤姉さんが吹き飛ばされてしまっていた。

瓦礫の中でピクリとも動かない赤姉さん。

攻撃時に生じた砂煙が消え、そこから姿を現したのは…。

敵の切り札、現代を生きるサムライ。一振りの日本刀を持った紫のイケメンだ。

赤姉さんをやったのは間違いなくコイツだ。

気迫が違う…、鬼気迫るモノがある。さすが大物はちがうね。

立ち向かう黄色い双子!

だが紫のイケメンは二人の同時攻撃さえもさらりと受け流し逆に反撃を加える。

流れる水の如き鮮やかさで!

黄色い双子はうめき声を上げ、そして動かなくなってしまった。

紫のイケメン…本当に…強い…。

汗一つかいていないイケメンに対し、残された「HATSUNE」ちゃんと青兄さんは焦りを感じ始めている様だ。

2対1なのに、余裕は、無い。

二人同時にかかっても良くて相打ち、といったところか。

その時、青兄さんが「HATSUNE」ちゃんに言う!

「俺が隙をつくるっ!その間にお前は基地の中にっ!」

一瞬、躊躇いを見せるも頷く「HATSUNE」ちゃん。

そして基地の中へと飛び込もうとするっ!

もちろん紫のイケメンも黙って見ている筈はない。

しかし青兄さんが捨て身のタックルでそれを阻止するっ!!!

叫ぶ兄さん!!!

「先に行けっ!俺の事はいいっ!!俺にはまだ…裸マフラーがあるっ!!!」




何なんだっ!この無駄に熱い展開はっ!それと裸マフラーってなんなのさっ!「私、脱いでも凄い」んですかっ!!!




とにもかくにも。

物語も残り15分に迫った。

ついに悪の大将と対峙する「HATSUNE」ちゃん。

お互い、拳銃を突きつけ合ったまま話は展開する。

悪の大将が言うには「人は戦い無しでは生きられない。戦いは人を進化させる。」らしい。

一種の思想主義者だな。ちょっと無茶苦茶だけど。

まぁ歴史上、戦争が絶えないのは事実でもあるしねぇ。

「違うっ!!!」

真っ向から否定する「HATSUNE」ちゃん。

「人は…戦い無しでも生きて行けます!生きて行ける様にしてみせます!!それ為に…私は戦いますっ!!!」





戦いを無くす為の戦い。それは永遠の矛盾。答えはきっと、無い。

だから人は迷う。悩む。そして、争う。

そして、きっと解り合える。そんな日が来て欲しいと思う気持ち、だ。

僕と、彼女だってそうだ。

世界なんかに比べたら本当に些細な、それこそミジンコより些細な事だけれども、さ。




最後は「HATSUNE」ちゃんと悪の大将が抜き打ちで決着をつけるらしい。



ここまできて西部劇スタイルかいっ!!!

もういい!これ以上、何が起きても僕は驚かないぞ!



互いに背を向ける「HATSUNE」ちゃんと悪の大将。




3…。



2…。



1…。



ボォン…。

思っていたより随分と重い銃声だった。

それに。

響いた銃声は一つだけだったのだ。

悪の大将は。

撃たなかった。

なぜ?

大将は言った。

「本当に…強く…なったな…我が子よ…」









ごめん。前言撤回。









超・展・開!!!!!

なんで?なんで?はぁ?意味が分かんないんですけどぉ?

これを超展開と言わずしてなんて言えばいいのさぁ!?!?



倒れ、息も絶え絶えになった悪の大将にうつむき「HATSUNE」ちゃんは呟いた。

「知ってたよ…ごめんね…お父さん…私、頑張って、生きるね…」

そう言って司令室から立ち去る「HATSUNE」ちゃん。









もうね、完全に視聴者おいてきぼり。むしろ清々しささえ覚えるほどの超展開っぷりです。






こうして悪の大将は息絶え、それと同時に崩壊を始める敵基地。お約束ですね。

裸マフラーになった青兄さんと紫のイケメンサムライは決着が着かなかったみたいです。

しかし紫のイケメンは「雇い主がいなくなっては戦う理由が無い」と言って去って行きました。どうやら傭兵だったらしいです。

ちなみに赤姉さんも黄色い双子も怪我こそありましたが生きていました。




絶賛崩壊中の基地の前で「HATSUNE」ちゃんの帰りを待つ仲間達。

崩壊しきる寸でで現れる「HATSUNE」ちゃん。

そこには脱出用のヘリが用意されています。

ヘリに乗り込む仲間達。



一度だけ、崩壊した敵基地を振り返る「HATSUNE」ちゃん。

何を、想ったんだろう?

それきり「HATSUNE」ちゃんが振り向く事は無かった。

そして。

「帰ろう、私たちの家に」



飛び立つヘリ。

スクリーンには最後に鳩が舞う映像が流れていた。

そう、平和の象徴として。



完。



スタッフロールとともに「HATSUNE」ちゃんの新曲がEDテーマとしてかかっていた…。








スクリーンが締まり照明が点き始める。

なんだかんだ、彼女を忘れてしっかり楽しんでしまった。

彼女、忘れられてご立腹かと思って隣を見ると。

はい、グッスリですね。よく寝ていらっしゃる。

フフッ…(ある意味)予想通り…。





帰り道。

突如として彼女が言った。

「うん、走ろう!!!」

は?

相変わらず良く解らないタイミングで良く解らないことを言い出すなぁ、うちのお姫様は。

どうやら映画の前半で軍曹殿が新兵を訓練していたシーン(があったのだ。10秒位)が気に入ってしまったらしい。

で。

僕らは走っていた。

夕日に向かって。

ファミ◯ン・◯ォ-ズのメロディ-を歌いながら。

「HATSUNEーちゃーんを知っーてるかーい」

えぇ、知ってますとも。さっきまで観てたんだから。

「じーちゃん達には内緒だぞー」

まぁ、秘密にしたい事が多い年頃だよね、16歳なら。




そうこうしながら、息を切らす帰り道。

嗚呼、これもまた青春かな…。

珍しくツインテールじゃない彼女の髪が揺れる。

夕日に照らされ、ふわふわと。




ま、いいか。

彼女は楽しいみたいだ。

で、僕も楽しい。

そんなんで、いいよね?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

僕と彼女のありふれた1日(その4)

曲と小説の一人コラボ、小説サイドの第四弾です。

「童謡「ハトポッポ」の変なの」とリンクする…はずだったんですけどもね。

曲の方が色々と、(長々と読んで頂いた方にはお解りの様に)著作権的な意味でマズいので今回は小説の方だけです。

この小説ですね。言わずもがなフィクションなんですけど。

友人が言うには「実話みたいなもん」らしいです。

ははは。

自分の古傷えぐり返すのって、たーのしー。

HAHAHA。

ふぅ…。

閲覧数:200

投稿日:2008/12/15 22:13:24

文字数:5,510文字

カテゴリ:小説

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