――――――――――#10

 KASANETETO――――――――――もえあがれほのお このてにやどれ そしてつばさとなって やけあがれ わたしのせなかから ひろがれ
 YOWANEHAKU――――――――――かがやけきせきのことばよ てんけいはわれにあり あるべきところにあるべきものよあれ ひかりのみちびきに われはつねにしたがわん

 基地の中に二つの光柱が立ち上がった。片方は爆炎が縦に伸び上がった竜巻型で、他方は地上から垂直に空へ向かって放たれる白い光線の軌跡が輝いている。

 AKITANERU――――――――――テトは見たまんまの場所だ!引き続き捕捉する!
 YOWANEHAKU――――――――――了解です。

 炎の竜巻の中ほどで、炎の翼を広げている飛翔体がある。それが重音テトである。

 YOWANEHAKU――――――――――ことばにつむぐ わが
 KASANETETO――――――――――くくく。我が最終奥義、エターナルフォース
 YOWANEHAKU――――――――――!!!
 KASANETETO――――――――――ブリザードォォッ!

 ドン。

 ショートエコーから伝わる気迫と共に、重音テトが巻き上げていた炎が短く太い炸裂音と共に消えた。

 「思わずロストしそうになるな」

 ネルの冷静な声で、レンは我に返った。数年前にネット世界で流行った架空の必殺技エターナルフォースブリザード。いわゆるジョークだが、攻響兵がすると火柱すら凍りつかせるとか、普通にすごいと思った。

 「エターナルフォースブリザードとか、実在するんですか」
 「気合だ気合。一応説明するが、グレートコードやリリックコードを破棄しないまま矛盾するとああいう事になる。今の場合だと重音テトは無力化してないが、あれは基本的にミスだ。よく覚えておけ」
 「はい」

 YOWANEHAKU――――――――――ネル、敵をロストしました。
 AKITANERU――――――――――だろうな。奴さん、おそらく徒歩で北上してる。
 YOWANEHAKU――――――――――ちっ、やってくれます。
 AKITANERU――――――――――めげるな、あれは予想外すぎる。だが、どうする?
 YOWANEHAKU――――――――――あの場所から真っ直ぐ北上ですか?
 AKITANERU――――――――――行き当たりバッタリにしては、不自然なくらいに真っ直ぐだ。北北西を目指している模様だ。
 YOWANEHAKU――――――――――なるほど、わかりました。亞北准将は基地の指揮をとってください。テトは私が対応します。
 AKITANERU――――――――――了解。

 返事をして少しして、ネルは溜息をついた。

 「何を考えてるか知らないが、ハクの奴は本当に秘密主義だな。どうせあの人質なんかあるぜ」
 「はあ」
 「まあ、ハクが本気で抱えるならそれが正解なんだろう。後から聞いたらやばい話ばっかなんだ」

 ネルは微妙な表情で、独り言のように呟いた。自分の気持ちを無理やり納得させる為の儀式のようである。

 「もう一回、テトが脱出する時の捕物がある。大体あのへんからだろうから、基地の内周で囲むぞ」
 「はい」

 レンはネルが撃破を諦めたのを察した。本音では敵の捕虜の為に基地に損害を覚悟するとかありえないと、レンでも考える矛盾の為に、やる気が起きない風ではあった。

 「不気味なのは、重音テトが割に合わない捕虜救出を試みるという点。この基地一つで刺し違えても本当はお釣りがくるんだ。何の為だろうな」
 「……捕虜じゃないですか、やっぱり」
 「そうなんだけどなあ。吹っ飛ばせば良くね?そっちの方がまだ成功するからな」
 「はあ」
 「……なんかあんぞ。あの捕虜、一体なんなんだ」

 ふと、レンの頭の中にあの歌詞が思い浮かびそうになる。慌てて頭をふりかぶる。

 「大佐、C地域を突っ切って市街地に出ろ!建物や民間人は踏み潰すなよ!」
 「りょ、了解!」

 言われて、無心に操縦桿を握ってLat式を動かす。考えないほうがいい事というのは、確実にあるようだった。

ライセンス

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機動攻響兵「VOCALOID」 3章#10

機動攻響兵「VOCALOID」 3章#10 です。侵入者とエルメルト基地の攻防戦。

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投稿日:2013/01/21 01:21:18

文字数:1,736文字

カテゴリ:小説

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