乾いた衝撃音が、ヘリポートから雲ひとつない蒼天の空へと響き渡った。
鉛の9ミリ拳銃弾が真空を切り裂き、音速で着きついた先で火花を散らした。
そうして一体のアンドロイドが、弱点である頭部センサーを撃ち抜かれコンクリートへ沈んだ。
それが、激戦の火蓋を落とした。
「ヴォォオオウゥ!!!」
残る数十体のアンドロイドが狂犬の如き咆哮を上げ、一瞬の内に俺達を取り囲んだ。
「やるぞ!!」
防弾コートを靡かせミクが言い、その瞬間体の上下を反転させて上空へ飛翔した。
「了解。」
「援護は任せろ!」
俺とタイトはほぼ同時に引き金を引き、群がるアンドロイド達に一斉射撃を開始した。
発射した何発の弾丸は、避けられるか装甲に当たってしまい無意味となる。
遠距離で胴体を狙ってもダメだ。十分引き付けて弱点の頭部を狙おう。
こちらに向けてサブマシンガンの照準を合わせた一体に狙いをつけ、引き金を引く。
照準の先で火の手が上がった。
「よし!」
「デル、危ない!!」
ミクの声は俺に向けられた。
「?!」
見上げると、目の前には敵の一体が鳥類型脚部の鍵爪を振り上げている。
チッ・・・・・!
「ハァッ!!」
一瞬目の前を黒い何かが通り過ぎ、振り下ろされようとした脚はそのまま地面に落ちた。
同時に軽やかな体技で片足を失ったアンドロイドの頭部にナイフを一閃させる。
「大丈夫か!」
「ああ。ありがと」
そう言いながらミクが再び空中へ舞う。
「まだ来る、まだ来るぞ!!」
銃を撃ちながらタイトが叫ぶ。
見るとヘリポートの上から、まるで虫の大量発生のようにアンドロイドが群れを成して這い上がってきている。
だが這い上がってきた数の半分が、タイトと俺の放った弾丸によって外に叩き落された。
「ふん・・・・・・キリがないな。」
タイトはライフルをセミオート射撃にして、決して弾をばら撒かず敵のセンサーに一発づつ精密な照準で弾丸を叩き込んでいく。
片目を失ってもここまで強いとは・・・・・・。
俺も敵の動きに合わせ、弾丸を発射する。
しかし、こうして敵に一発づつ弾をお見舞いするのは、時間が掛かる。
それに照準をつけている間は撃たれるリスクもある。
ならば、銃ではなく・・・・・・。
意を決した俺は銃をホルスターに納め、一体のアンドロイドに向け走り出した。
体を敵の弾丸やナイフの刃が掠めていく中、ミクに狙いを定める一体に接近した俺は一瞬飛び上がり、両足に全体重を乗せ飛び込んだ。
「ムァッ!!」
渾身の力を込めたドロップキックがアンドロイドに直撃し、敵は吹き飛びながら他の仲間を巻き込みヘリポートの外へ落ちていった。
「凄いな!!」
タイトが思わず叫んだ。
俺も大技を成功させたかと思うと、気分爽快だ!!
「俺も負けてられんな。」
群がるアンドロイド達の中心にタイトが飛び込んだ。
それは、ほぼ自殺行為だった。
一気にナイフの矛先を尖らせ数体のアンドロイドがタイトに群がり、完全に
タイトの姿は見えなくなった。
「タイト!!」
俺が叫んだ瞬間、群がっていたアンドロイドが爆発したように全咆哮に吹き飛ばされ、その中に敵の片足を掴んで振り回すタイトの姿がある。
「見ていろ!」
タイトは自慢げ言うと十分な遠心力を得たアンドロイドの体を振り回し、一度に三体の敵をコンクリートに叩き潰した。
そして、タイトに振り回されていたものは粉々に砕け散り、タイトは残された脚を空き缶の如く投げ捨てた。
敵は確実に倒せているのだが、このままでは俺達が殺られるのも時間の問題だ。
既に最初にいた二十体より多くの敵を倒しているはずなのに、敵の数は一向に衰えを見せない。
倒しても倒しても、ヘリポートの下から這い上がってきてしまう。
「タイト!このままじゃ俺達が持たない!安全なところを見てヘリに降りてもらえるか?!」
「今ヘリを危険に晒すわけにはいかない!!例え俺達が斃れても、ヘリに乗っている皆だけは護らなければ・・・ぐぁッ!!」
言いかけたタイトから悲鳴が上がった。
振り向くと、タイトは右肩を押さえその場にかがんでいる。
被弾したんだ・・・・・・やはり、こんな遮断物も何もない場所で長時間戦うのは到底無理だ。
「タイトーーーッ!!」
俺は群がるアンドロイドを蹴り飛ばしタイトの元へ向かった。
「大丈夫か?!」
「ああ。ボディアーマーが受け止めてくれた。」
「もう限界だ。ヘリに降りてきてもらえ。」
「しかし・・・・・・。」
「あんたも、あのキクと言う少女の傍にいてやらなければいけないんじゃないか?!それに、あの部下達のためにも!!!」
「・・・・・・それでも、お前とミクだけでは・・・・・・!!」
そのとき、背後に気配があった。
その気配の正体は、俺の咽元にナイフを突きたてようとする、敵アンドロイド。
こんな・・・・・・ところで・・・・・・!!
次の瞬間、アンドロイドの動きが停止したかと思うと、頭部から火花を噴出させた。
仰向けに倒れた先に、ミクの姿が立っている。
「タイト!デル!先に行ってくれ!!」
「ミクは?!」
ミクはものも言わず、俺達に背を向けた。
見ると敵の数は大分収まり、もうヘリポートに這い上がってくるものはいない。
「ここから先は・・・・・・わたしがやる。」
「・・・・・・いいのか?」
「ああ。任せてくれ。」
「・・・・・・すまない。」
タイトは腰の無線機を取り出し、ヘリに無線を入れた。
「博士、安全なところを見計らってヘリを降ろしてください。」
『分かった。』
ヘリは降下を始めたが、それと同時にアンドロイド達の銃口がヘリに向けられた。
「クソッ!」
俺は銃を構えるが、既にコックボルトが後退し、残弾数ゼロということを現している。
敵の射程に入ったまま、ヘリがヘリポートヘと着地した。
「タイト、デル・・・・・・今だ。」
ミクは不気味なほど落ち着いた声で言った。
俺はタイトに肩を貸しながらヘリの中へと乗り込んだ。
それと同時に、敵の集中砲火がヘリに襲い掛かった。
Maximum armor on
ヘリを・・・・・・みんなを護る!!
俺は眼を疑った。
数十という銃口から発射される弾丸が、一発もヘリに届くことなく消え去った。
目の前には、黒い残像となったミクが、その体一つで全ての弾丸を全身に浴びている。
「ミクーーーーッ!!!」
ヘリの操縦桿を握っている網走博士が叫ぶ。
だが、俺の隣ではワラがニヤニヤと笑みを浮かべている。
「大丈夫だよ。まぁ見てなって。」
ワラのいうとおり、あれだけの掃射を受けたミクは、何事もなかったかのように平然と立ち尽くしている。
弾が切れたのか、銃撃を続けているアンドロイドは一体もいない。
「博貴!上げてくれ!!」
ミクの一喝で、ヘリは上空へと舞い上がる。
次の瞬間、ミクに一体のアンドロイドがナイフを手に飛び掛った。
が、そのナイフが振り下ろされた瞬間、アンドロイドの上半身が下半身からずり落ち、その場に転がった。
空中には、ミクが着ていた防弾コートの変わり果てた姿が舞っていた。
Maximum stalth on
息を・・・・・・潜めるんだ・・・・・・。
俺はヘリの中からヘリポート中を見渡した。
ミクがいない。
今、アンドロイドの体が上下に別たれた瞬間、まるで空気に溶け込むようにミクの姿が消え去った。
「ミクは?!ミクはどこだ?!」
「だから、見てなって!」
ワラのニヤニヤがさらに大きくなっている。
俺はヘリポートに視線を戻した。
そのとき、一筋の光線がヘリポートの上に迸ったかと思うと、アンドロイドの中の一体が縦に両断され、火花を散らしながら倒れていた。
何が起こったのか一瞬理解できなかったが、太陽の光を煌びやかに反射した、黒いツインテールの姿が現れた瞬間、全てを理解した。
アンドロイド達の前に、彼女はいる。
その体はボディスーツに流線型の装甲を組み合わせ強固ながらも彼女のしなやかな肢体がはっきりと現れており、漆黒のなかに赤いラインが電子的な輝きを放っている。
そして、その右手には刀のような形状の、黒い刃物が握られている。
彼女はその刃を振り上げると、静かに、呼吸を整え、精神を集中させるかのように、ゆっくりと、刃先に左手を添えた。
「来たぞォオオオオィ!!!」
ワラが手を叩いて大絶叫する。もうニヤニヤどころではない。
何がそんなに嬉しいんだ?
そして、微動だにせず動きを止めた彼女に、今度は群れを成してアンドロイド達が襲い掛かった。
一つの刃が振り下ろされた瞬間、ミクの体が一瞬残像となり、刃を振り下ろした者の頭部が空中高く跳ね飛ぶ。
・・・・・・?!
次は二つの刃。だが彼女の体が空中に舞った瞬間にその刃は粉々に崩れ去り、振り下ろされた光の一閃で刃を繰り出した二体のアンドロイドが切り裂かれる。
何なんだ・・・・・・これは・・・・・・。
彼女が着地したと同時に四方八方をアンドロイドの群れが塞いでいた。
ミクの動きが、停止した。
Maximum speed on
速く・・・・・・もっと速く!!
再びミクの姿が消えた。
いや、正確には、その姿は黒い風となり、ヘリポートの上を縦横無尽に駆け回っている。それも、目で追えぬ速さで。
風の中に刹那の光が煌いた瞬間、一体のアンドロイドの上半身が空中に舞い上がる。
黒い風となった彼女は更にアンドロイドの群れを取り囲み、発砲する隙さえ与えることなく刹那の煌きで次々と蹂躙していく。
そして、人の姿を取り戻した彼女は最後に残ったアンドロイドを掴み上げ、空中高く跳躍した。
Maximum strength on
わたしの全力で・・・・・・!!
空中で、彼女は右腕を振り上げた。その体は朱の輝きに包まれながら。
次の瞬間その左腕に捕らえられたアンドロイドに、赤き鉄槌が下された。
そしてヘリポートに赤い雷が直撃した。
その雷は施設の内部までに及ぶ大穴を築いた。
俺は口を半開きにしたまま、その光景を眺めていた。
隣ではワラが声を出さずに絶叫している。
こうして、数十体のアンドロイドが三分にも満たない時間で殲滅された。
何という威力。
これが・・・・・・FA-1の真の力か!
だが彼女は攻撃の手を緩めてはいない。
なぜなら、すべてが終わったと思った瞬間、彼女の背の三倍はある、巨大な影がヘリポートの上に降り立ったのだから。
それは全身に重装甲を纏った巨大アンドロイド、通称ABLの姿だった。
「まだ来るのか・・・・・・。」
「いやいや、ここからが本番だよ。」
ABLの両肩にあるバルカン砲が眩いフラッシュを上げてミクへ撃ち込まれる。しかし、彼女はこ小刻みな瞬間移動で接近し、その体に強烈な蹴撃を加え、その巨体を押し倒した。
その巨人が起き上がろうとすると、彼女は左手にコンバットナイフを持ち、右手の刀剣とともに逆手持ちに変えた。
Maximum thunder force
この一瞬で決める!!
唸れ、黒奏刀!!
突然、想像を絶する現象が起きた。
彼女の体に、あの時の赤い電流が迸り始めた。
彼女はABLの上に飛び乗ると、両手の刃で容赦ない斬撃を繰り出し恐らくミサイルも跳ね返すだろう装甲を次々と破壊していく。
そして、ABLの内部が露出した時、彼女の体から雷の音が響き始めた。
一定のリズムを持つその音は何かを奏でているようにも聞こえる。
どこか幻想的で、そして荘厳なるその調べは彼女の持つ刀剣から発せられているのだろうか。
そして、ミクの姿は赤い雷に包まれ、彼女は電撃の刃でABLに電撃を繰り出し、数本の電流によってABLの体は貫かれ灰色の装甲が黒く染まった。
既に機能停止したその前で、彼女は刀剣振り上げ、天空より降り注ぐ神髄の判決をこの巨人へ下した。
ABLの姿は光に包まれ、オーケストラの終局にも似た壮大な響を奏で、消滅した。
すべてが終わったことを確認すると、ミクは一度刀剣で空を斬り、振るい、腰の鞘にゆっくりと収めた。
ミクは・・・・・・一体・・・・・・。
その光景を目の当たりにし、もはやワラも、そして他の皆も、ただその姿を見届けるしかなかった。
それは、もはや俺達のような者に理解できる範疇ではなかったのだ。
電流を巧みに操り、天空より雷電を呼び寄せる。
その姿は、人の理解を、この世の常識を超えた、聖なる存在。
この世に舞い降りた、まさに、神。
雷を司る神、雷神である。
SUCCESSORs OF JIHAD 第三十五話「雷神降臨」
Sky of BlackAngel 第二十一話の作者コメントを見てみましょう。
ABL【架空】
Aromrd Battle Loidの略称。
基本的に4~8メートルの大型戦闘用アンドロイドを指す。
世界各国の軍隊に多く配備され、今やどの兵器よりも稼動数が多い。
近年ではPMCが紛争地帯に導入するようになり、圧倒的火力で紛争を終結させている。
開発、生産は軍需メーカーよりもロボット工学に優れた工業メーカーが専攻している。
有名なのがクリプトン・フューチャーウェポンズの「マリオネット・シリーズ」で他企業より遥かに優れた性能を持つ機体がラインナップされている。なお、日本軍採用のABLは全てマリオネット・シリーズである。
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想