「ねー、良いでしょー。ねぇ、レン、頂戴よー」
「駄目なモノは駄目」
「良いじゃん、減るもんじゃ有るまいしー」
「一応減るから」
「むぅっ・・・!」
 金髪の腰まで有る髪を少しだけ揺らしながら、蒼目の少女は頬を膨らまし、己が視線を向けている同じく金髪蒼目の少年をキッと睨んだ後、小さく叫んだ。
「良いじゃん、血ぃ頂戴よ、血!」
 その開いた口には、犬歯よりも大きく鋭く尖った二本の牙があった。そう、彼女は吸血鬼である。

 そもそも、この少年―名はレンと言う―と少女―名はリンと言う―が出会ったのは極々単純な事である。

 しかしそれでは話が成り立たないので説明させて頂こう。

 ――今から数ヶ月前、レンは夜道を一人で歩いていた。別に非行に走っている訳ではない。彼は真面目な学生である。彼が夜道を一人で歩いているのは、家柄の事情の為、ご町内のパトロール、と言った所か。
「・・・大分寒くなってきたな・・・。・・・そろそろ冬か・・・」
 そう呟いた後、くしゅんと小さくくしゃみをした後、レンは三十分程掛けて町内をすみ無く廻り終えた。仕事も終わったので帰ろうとレンが自宅の方に足を向けた時だった。
「ねえ、お兄さん」
 その声はレンの後方から聞こえてきた。ピタリ、とレンの足が止まる。そして、ゆっくりと後ろを向くと、其処にいたのは金髪の腰まで有る長い髪をサラリと揺らし、人間ならば今の季節耐えられないであろう、フワリとした黒のゴシック調の服装(しかも半袖)の蒼い目をした少女だった。年はレンと同じ位だろうか。だがしかし、レンと――人間と決定的に違う所があった。

 その少女の口からは二本の牙が生えており、尚且つその背中からは漆黒の羽が生えていた。

「吸血鬼、か・・・」
「えぇ。その通りよ」
 ニッコリと微笑みながら特に隠すでもなく少女は応える。その顔は無邪気そのものである。
「お腹空いたな~と思ってフラフラしてたら何か良い匂いがしてね。で、来て見たらお兄さんがいたって訳」
 尚もにこやかに少女は話す。その声は鈴の様に綺麗な声だった。
「ふぅん・・・」
 さして感心が無さそうにレンは応える。その様子を見て少女はにこやかに微笑む。
「と、言う事で頂きます♪」
 パン、と手を胸元で合わせ、そう言った後、少女は羽をバサリと広げ、レンに襲い掛かった。レンは慌てるでも逃げるでもなく、ただ、
「天兵来たりて、我を助け、符神を作らせよ。急々如律令」
 そう呟いた後、己の前に浮かび上がった和紙に何かを書き込み、其れを少女に向けて飛ばした。
 パンッ!
 和紙が少女の羽に張り付くと、少女の羽は動かなくなり、そのまま少女は地面に墜落―文字通り墜落した。
「・・・!? 何これ・・・」
「呪符。陰陽家が使う呪文の書いてある和紙。ま、流石に西洋系の妖怪は知らねえよな」
 ヒラヒラと人差し指と中指の間に挟んでいる和紙―呪符をはためかせながらレンは応える。
「別にあんたには関係ないけどさ、俺ん家、陰陽家なんだよね。ま、今じゃ廃れちまってるけど。で、俺一応次代当主なの。それでこの町内の見回りしてたんだけど・・・流石に自分が襲われる側になるとは思わなかったぜ・・・」
 ハァ、と溜息を付くとレンは右手で手刀を作る。そして、
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」
 縦四横五、九字を唱えると少女の身体―羽に付いた呪符がはらりと取れて、消えた。
「え・・・?」
「別に。今回あんた悪さしてねーじゃん。だから解放。獲物狙うんならどっか別の町行ってくれ。でないと今度はあんたの事、本気で相手しないといけなくなるから」
 んじゃ、そゆ事で。そう言ってレンはヒラヒラと手を振りながらその場を去った。其れを呆然と見ていた少女だったが不意に立ち上がり、翼を広げ、レンを追った。
「ね、ね、貴方、名前は? あたしはリン」
「名前ー? レン。鏡音レン。だけど其れが何?」
 ピタリ、と足を止め、レンは少女―リンの方を向く。リンはニッコリと微笑むと
「ね、レン、レンの血、頂戴!」
 と言った。その後呪符が飛んできたのは余談であるが。

 そして何度も何度もレンが断っているのにリンは負けずにアプローチ(あれ? 使い方合ってる?)して、とうとうレンの家に押しかけてきたのだ。
 だが以外にもレンの家族はあっさりとリンを受け入れ、同棲する事になった。なのでリンは自分の食事分だけ、レンの家族の血を飲んでいる。
「レンの家族の血って美味しいね」
 ニッコリと微笑みながらリンに言われたレンだが別に家族の血の味を褒められても嬉しくも何とも無いレンは取り合えずその場はスルーしておいた。

「レンだけだよ、この家であたしが血ぃ飲んでないのー!」
「良いじゃねーかよ、其れで足りてるんだろ?」
「でもあたしはレンの血が飲みたいの!」
「・・・好い加減にしないと呪符飛ばすぞ」
「すいませんでしたごめんなさい」
 レンの言葉に急に平謝りするリン。流石に呪符を飛ばされるのは嫌らしい。
「でも何時か絶対、レンの血吸わせて貰うんだからね!」
 己の隣でそう断言するリンに生返事をしながらレンはそう言えば学校から何か宿題出てなかったっけ、と頭の中で考えた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ある少女と少年の出会い

何か考えてたら出来たリンちゃん吸血鬼ネタ。
元々は東方のPV見てて、吸血鬼ネタで使えそうなのがあって、だったらリンとレンにしよう、と思いつき、でも行き成りそう言うネタで書くのも何だなぁ、と思い当たり、結果、この様な形で前話・・・みたいなのが出来ました。
取り合えずリンは見た目十六、七歳。レンも其れ位で高校生。
でも当然だけどリンの方が長生き。吸血鬼だし。
レンが陰陽家、てのは単にノリです。私は殆どノリで設定考えます。追加設定とか多いです。いや、マジでマジで。

それでは此処まで読んで頂き、有難う御座いました!

閲覧数:478

投稿日:2011/01/22 21:03:27

文字数:2,153文字

カテゴリ:小説

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