第三章~原罪の森―The forest of original sin―~
1.レヴィアンタの騒動
「一人目は失敗、二人目は逃亡。どうして『Ma』はどいつもこいつも問題があるのかねえ!!!」
メリーゴーランドが禁止した「男尊女卑」の考えをしている部下は、禁止されているにも関わらず、このようなことを口にする。
「まったくです。いくら禁止されているとはいえ、男尊女卑的なことを言いたくなる気持ちは分かります。正直僕も素直にそう言えたらいいなと思いますよ、先輩」
多くの兵が禁止すら破るほどの発言をする中、現場指揮にあたる者が大声で叫ぶ。
「そう言いたい気持ちはよく分かる!!!しかし、事態は火急である!!!皆の者、心して捜索にあたって欲しい!!!」
「あの人が言うと、どうしても従わなくちゃいけないって思っちまうんだよな」
「それ分かります」
「皆の者、協力感謝する!!!」
そんな感じで、捜索が始まった。だが、国外へと逃亡した者の有力な情報など集まるは
ずもなく、捜索にあたった者はストレスが溜まっていった。
そんなある日、セトの部屋を捜索していると、ある資料が見つかった。
「何だこれは?!!!」
そう言いたくなるのは、当たり前だった。その資料には、セトが元老院の許可無く人造
人間を制作していた確固たる証拠になった。
翌日、セトは元老院に呼び出され、こう問い質された。
「何故許可を得ずにこの様なことをしたのだ!!応えろ!!!」
「僕は予知夢を見られるのですよ。メリーゴーランド様と同じように」
「それが女王への侮辱だとは思わんのか?!!!!!」
「いいえ、事実なのですから」
「神に唾する発言を・・・・・・!!解雇しろ!!!!!」
「解雇だ!!!!!」
「解雇だ!!!」
「解雇だ!!!」
元老院が、鬼気迫る表情でそう自分に叫ぶ姿が、セトはたまらなく愉快だった。事実を認めず、自分たちの感情で動く、まるで飢えた獣が主に吠えるような感じにセトには見えたのである。彼は、堕天使ルシファーのように神に成り代わろうとして、地に堕とされた。彼の科学者としての人生は、こうして幕を閉じた。
2.二人の「Ma」
一方、エルドの森では、結婚式を終え、ムーンリットの姓を手に入れたイヴと、研究所から逃げてきたメータ、つまり二人の「Ma」がいたのだ。
「(なんてこの森は月がきれいなの。まるで何かの予兆みたい。いいもののであって欲しいけど)」
と、思いつつ、二人のわが子を胸に抱き、森を散歩していた。
それはイヴも同じだった。この森に住んで一年、さまざまな勝手が分かってきて、森での生活が楽しくなってきた頃だった。貧しくても、寂しくても、夫のアダムと一緒なら何でも乗り越えていけた。そんな彼のためにも、毎日美味しい物を食べさせたかった。子を失い、崩壊した精神も、今は戻りつつある。せっかく戻りつつあるのなら、しっかり治して、彼と新しい、幸せな家庭を築こう。子どもはあの時と同じように、二人産みたいな。そうすれば、この寂しさも埋まって、私が狂うことが無くなるだろう。
メータは、エルドの森に立つエルドの樹に祈りを捧げるために、双子を近くの木の下に置いた。
「少しお祈りをしてくるから待っててね。ヘンゼル、グレーテル」
「ほぎゃあ、ほぎゃあ」
「男の子は泣かないの、ヘンゼル。くすっ」
そして、メータは二人から目を離した。
その近くを、イヴが偶然通りかかる。
「(あら?こんな所にリンゴが落ちてるわ。きっと神様が私たちに下さったんだわ。感謝しないといけないわ)」
イヴは、リンゴもとい双子を拾い、帰路についた。
「(あら?双子がいないわ)」
それにメータが気付いたのが、イヴが去った少し後だった。メータが周囲を見回すと、一人の女性の姿が見えた。
「すいません、ここら辺に双子g」
メータは絶句した。その女性が双子を抱えて、どこかへ連れ去ろうとしていたのだ。
「ちょっと!!その子たちを返しなさいよ!!!」
イヴから見たら、メータは熊に見えた。きっとこれはあの熊の宝物だったのだろう。熊が怖い顔をして追ってくる。せっかく見つけたこの幸せは、絶対に、決して誰かに渡したくない。これを持ち帰ったら、あの人も、私も、幸せになれるはずだから。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、どうか、どうか見逃してください!!!!!」
二人が大声で怒鳴り合うのと、全力で走るので、双子は泣き始めた。
もう、正しい道など見失った。ただ、この幸せを守るため、一心不乱に走り続ける。そして、我が家に着いた。あら?私、どこでマントを無くしたのかしら。
「ただいま」
「どうした。遅かったじゃないか」
「それより聴いて、あなた。リンゴを見つけたのよ。ほら、見て」
「っ!!!」
「リンゴじゃないじゃないか。これは子どもだよ」
アダムは絶句した。当たり前だ。なにせ妻が双子、それも死産したあの双子にそっくりな双子を誘拐してきたのだ。そんなイヴに、アダムはこう言った。
「いいかい、イヴ。僕たちの子はもうこの世にはいないんだ。その子たちは、本当のお母さんの元へ、返してやりなさい」
イヴが返す。
「その子たちは熊に食べられそうだったのよ。なんで返す所があるの?」
「分かった。ところで、外に君のマントが落ちているじゃないか。取っておきなさい」
アダムはイヴにそう促した。しかし、イヴのマントは、熊ではなく、女性の首に巻き付けられていた。その女性は息も脈もなく、ただそこに倒れていた。
「イヴ、これは君がやったのかい?!!!!」
イヴは目の前のことが信じられずに絶叫した。その声は森に木霊していった。
そんなこともお構いなしに、メータの亡骸の横では、ミルクで満たされた小瓶が月光を反射して怪しく輝いていた。
こうして、彼女は罪を犯した。
夫との愛に溺れた。
望みは叶うものだと過信した。
務めを怠り、子は死んだ。
隣人の幸せを羨んだ。
やがて思いは怒りへと変わり、
失ったものを手に入れようとした。
そして――飢えていたから、二つの果実を拾った。
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