夏の季節を前にして、玩具店キディディ・ランドでは、
売り場の、模様替えをすることになった。

今まで人気があった、雑貨コーナーや文具コーナーも、品揃えをガラッと変える。
いま残っている売り場の製品や、在庫の品は、明日、返品されることになる。


●どうしたの、ぼんやりして

閉店まぎわの、キディディ・ランドの売り場。
お客さんのテトさんが、ぽつんと立っていた。

彼女が見ているのは、「ミク人形」のペンケース。
ゼロ・ジー文具の製品で、テトさんがデザインした、思い出の商品だ。
かつては人気のアイテムだったが、ひとつだけ残っている。

「テトさん」
ふいに呼ぶ声がして、彼女がふり返ると、リンちゃんとレンくんが立っていた。
「あ!」
「テトさん、ひさしぶり」
レンくんが笑う。
「ほんとね」テトさんも微笑む。

「どうしたの?ぼんやりしてて」
店の奥から、ミクちゃんが出てきた。
「あ、ミクさん」
受験勉強の合い間をぬって、ミクちゃんも久々に、店員のバイトをしている。


●私、これ買うよ

「このペンケース、ひとつだけ残っているなと思って。これ、明日には返品されちゃうんだ」
テトさんは、さっき、店員たちの話を、立ち聞きしていたのだ。

ミクちゃんは言った。
「テトさん、これ、プレゼントしましょう」
すると、テトさんはいたずらっぽく笑って、ぼそっと言った。
「いいよ。私、これ、買う」

ミクちゃんは、ニッコリして言った。
「お買い上げ、ありがとうございますぅ」
テトさんと、リンちゃん、レンくんはワッと笑った。


●元気なテトさんがいいよ

キディディ・ランドを出たテトさんは、
一人でペンケースをにぎって、歩いていた。

はじめて、世に出た自分の商品。
「アリガト。はじまりは、おまえからだったよね」
ペンケースのミク人形の絵にむかって言う。

ふと、テトさんはひらめいた!
「そうだ!ペンケースのファスナーに付けるアクセサリーを作ってみよう。
 それとも、カバンにつけられる、おっきなアクセサリーがいいかな?」

ペンケースのミク人形は、にっこりと笑っている。
“そうそう、それでこそ、元気なテトさん”と言っているみたいに。(^._.^)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

玩具屋カイくんの販売日誌 (60) アリガトウ、ペンケース

★自分の作った最初のアイテム。こうやって自分で買えるのは、幸せですね。

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投稿日:2010/05/29 11:21:44

文字数:927文字

カテゴリ:小説

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