以前話した、現代のおとぎ話のことを覚えているだろうか。
そう、現代版白雪姫のことだ。
では、あれにはまだ続きがあったことを、知っているだろうか。
おそらく、知らないだろう。
『おとぎ話は、永遠に終わらない』
この言葉の通りに。
時は12月。
メイコのファンである、双子のリンとレンという少年少女を覚えているだろうか。
そのリンとレンの、14歳の誕生日のパーティーをしていたときだった。
もちろん、ミクを消して安心したメイコも来ていたし、それに伴ってカイトとがくぽも来ていた。
カイトに呼ばれたグミとルカもである。
メイコの計らいで、その他のメイコ、カイト、がくぽのファンやメディア関連の人は見事に排除されていた。
「リンちゃん? レン君? っていうの?」
「カイトさんの知り合いです!」
「「お誕生日おめでとう!」」
グミとルカがにこっと笑うと、リンは嬉しそうに笑った。
「ありがとうっ! なんか、たくさんの人が来てくれて嬉しい!」
人見知りの激しいレンも、そのときは恥ずかしそうに笑った。
「ありがとうございます」
カイトはその様子を見てくすっと笑った。
「「ところでカイトさん何で呼んでくれたんですか?」」
グミとルカが聞くと、カイトは肩をすくめた。
「面白そうだと思って。いろんな人に小さい頃から触れておくのはいいことだよ」
二人はまだ、カイトの恐ろしさを知らない。
だからカイトに普通に接することができた。
また、カイトの方でもこの二人は普通という認識がある。
リンやレンがあまりにもメイコや自分のような変人とばかり接しているのはよくないと思ったのだ。
「あのね、あのねっ、いっぱい人呼んでーって私が言ったの!」
リンはカイトの前に入ってルカとグミに答えた。
「だって、人少なかったら寂しいじゃない? だからね、メイコさんにそう言ったら、メイコさんがカイトさんを呼んできてね、カイトさんがルカさんとグミさんをね、呼んできてくれたんだよ!」
後ろに隠れるようにして笑っているレンを振り向いてにっこりと笑いかける。
そのとき、ようやくレンも満面の笑みを見せた。
メイコとがくぽもそこに混ざり、談笑していた頃のことだった。
「……お誕生日、おめでとう。鏡音リンさんレン君?」
その声が聞こえるか否かのところで、カイトは振り向いた。
自分に突き刺さる寸前のナイフを、片手でつかを持ちもう片手で刃を優しく握って押さえる。
おそらくまともに寝ていないのだろう、目の下にできた濃い隈と。
やせ細った体と。
そういった違いを除けば、それはどう見てもミクだった。
「……何しに、来た」
くるっと腕をひっくり返し、ミクののど元に躊躇無く突きつける。
そうされてもミクは怖がること無く微笑み返した。
「顧客の情報は持っているもので。ただ祝辞を述べたかっただけよ」
カイトとメイコは目を見合わせて、面白そうに笑った。
「このナイフは、何?」
「ついでに、『排除』したい『もの』があったものだから」
「なるほど。排除したい者ね。残念だったね?」
ナイフに付着した赤い血は、ミクの物かカイトの物か。
でもカイトの手からも、ミクの喉からも血が流れ出ているのは確かだった。
「ええ。リンさんレン君?」
固まってしまって返事ができないレンの代わりに、リンは震える唇で返事を返した。
「はい……ミクさん」
「一つだけ宣言しておくわ。……どちらかが、あと少しで死ぬ。凶器は、毒針よ」
そういうと、ミクはナイフを手から離してぱっと走って消えていった。
レンはぎゅっとリンの服の袖を掴んだ。
「……リン」
「……何真に受けてるの。死ぬわ……け……」
慰めようとしたリンの顔も蒼白だ。
そのとき、がくぽがぎゅっと二人を抱きしめた。
「「がくぽさ……」」
「気にするな。せっかくの誕生日なんだからもっと楽しんだ方がいいんじゃないか? あの人は死神じゃない、ただの人間なんだから」
ルカとグミも平然とした顔で頷く。
カイトは、手の中のナイフをじっと見つめて、不意に笑った。
同じタイミングでメイコも笑ったことを、お互いは知っていた。
その後、リンとレンが不安がらないように、メイコは家中の針を処分させた。
新学期が始まってからは、クラス全員の為と銘打って、リンやレンに渡すものも全て針がないように確認させた。
少し大げさかもしれない。
でもリンとレンはそれを疎ましがっている余裕は無かった。
むしろ、それにすがりついてでも安心を欲しがった。
「ごめんね、これ以外に方法が無くて」
メイコがすまなそうにリンとレンに言うと、二人はぷるぷると首を横に降った。
「こちらこそごめんなさい」
「いろいろ迷惑かけて」
メイコは二人の頭を撫でた。
「……さて。ここまで排除して、あの子にはどういう手段があるというのかしらね」
メイコはカイトに向かって笑った。
「なかなか面白い人になってきたよね」
カイトもくすりと笑う。
「今回ばかりは協力せざるを得ないかな」
「そうね。あなたと争えないのは残念だけど、たまにはいいかもね」
手に当てられた絆創膏を眺め、カイトは微笑んだ。
「成功するかしないか、賭けてみる?」
「いいわよ。どっちにする?」
「じゃあ僕が、成功の方に」
「OK。いくら?」
「10万」
「了解」
ふふ、と二人は笑い合った。
事件が起きたのは、その数日後。
だんだん慣れて来て、恐怖心も薄れて来たリンは、クラスの友達と放課後、肝試しをすることになった。
雨が降っていて、冬至は過ぎたとはいえ校舎内も教室によってはかなり暗い。
「ねぇ……帰ろうよ……」
「えーいいじゃん。ちょっとだけだし! レン先帰ってなよ~」
レンが肩を落として帰っていくのを見送った後、リンと友達は校舎内を探検していた。
「ねえねえ、どこ行く~?」
「一緒じゃつまらないじゃん」
「それもそうか。じゃあ、理科室!」
一番いろいろな物が置いてあって、鍵もかかってなくて、暗かった理科室。
リンの順番は最後だった。
「じゃあ行ってくるねー。帰っちゃダメだよ!」
「どうかなぁ~?」
「うわ酷っ!」
「うそうそ。ちゃんといるって」
そんな会話をして中に入っていったリンは、あっという間に暗闇に包まれた。
「あれ……? レン君一人だけ?」
カイトは、事務所に飛び込んで来たレンを見て首を傾げた。
カイトに慣れていないレンは一瞬後ずさりした後、こっくりと頷く。
「今めーちゃんは仕事中だけど……」
黙って頷く。
「僕でよければ話聞こうか?」
レンは首をぶんぶんと横に振った。
カイトが困ったように眉尻を下げると、ようやくレンは口を開いた。
「……家に一人でいるのが怖かったから……あの、できれば……ここにいてください……」
カイトはああ、と頷くと、レンの頭を撫でた。
「あれ……? こんなに暗かったっけ……?」
リンは首を傾げつつ、手探りで理科室を歩いていた。
窓から、僅かばかりだが光が入っていたはずなのに、部屋は完全なる暗闇だった。
文字通り、一寸先は闇だ。
「こんなに暗かったら、恐怖も何もないよねぇ」
本当は怖いのを、そう呟くことで誤魔化しながら歩いていく。
その瞬間、外で悲鳴が聞こえた。
「……あれだ、うん。みんなが驚かせようとしてるんだ! 後で言わないと」
暗闇に向かってリンは話しかけた。
でも響く自分の声と静寂が、一人きりであることを余計に感じさせる。
半分泣きそうになりながら、リンは歩いた。
手探りでドアを見つけようと必死になる。
そしてようやく探り当てたドアを、リンは開け放った。
溢れんばかりの光が目に飛び込む。
助かった、と思ったのは、しかし僅か一瞬だった。
「カイト。お前、いつ仕事なんだ?」
「うるさいなぁ。がっくんは仕事多いからいいよねぇ。でも明日あるんだよ」
そんな会話を聞きながら、レンは何かの胸騒ぎを覚えた。
嫌な予感がして、汗が吹き出る。
「あれ。がっくんがいるってことは、めーちゃんは?」
「メイコ? は、誰かに呼ばれていたが」
レンが我慢しきれずに立ち上がったのと、メイコが部屋に飛び込んで来たのは同時だった。
リンは、手に鋭い痛みを感じた。
ぐらりと、視界が傾ぐ。
「……あ……れ……?」
いたずらが過ぎるよ。
その言葉を発する寸前にリンの目に入ったのは、ドアのすぐ近くのテーブルに置かれた、ミシン。
ここは、家庭科室。
リンの脳裏に、誕生日での出来事がひらめいた。
「……レン……」
死にたくない。
まだ死にたくなんてない。
その願いは、叶ったのか叶わなかったのかわからないまま、リンの視界は真っ暗になった。
「レン君! 今学校の先生から連絡が……リンちゃんが倒れているって」
レンは呆然とメイコの唇を見つめていた。
「……そん、な」
予言は本当だったか。
レンがへたり込んだとき、メイコとカイトはさっと視線を合わせた。
その二人の目に、ほんの少しの笑みが含まれていたのは言うまでもない。
「ついに、やってくれたわね」
メイコはふっと笑った。
カイトも同じような笑みを浮かべて頷く。
「賭けは私の負け?」
「いや……リンちゃんが死なない限り、勝負は確定しない」
リンの脈はかなり弱かった。
そのリンを病院に運ぼうとしたその一瞬の隙に、リンは消えていたらしい。
「レン君が、どう出るかよね」
「そうだねぇ。でもあの子はなんだかんだいって助けにいくんじゃないかな」
「そうね。そういう子よね」
「一応、前回の解毒剤渡しとく?」
「それもいいかもしれないわね」
今は家で閉じこもっているレンが、どう動くか。
二人は、今回は傍観者として、この状況を楽しんでいた。
「メイコさんっ……!」
レンが珍しく強気な顔でメイコに話しかけたのは、その二日後だった。
「どうしたの?」
「リンの居場所って、わかりますか……?」
メイコは笑い出したいのをこらえて、神妙な顔を作った。
「……わからないわ。ごめんなさい。ただ……」
レンは泣き出しそうな目で続きを待った。
「心当たりなら、あるわ」
レンの顔が一瞬にして輝く。
メイコはゆっくりと微笑んだ。
「これが、地図。あと……もしかしたら、これ、必要になるかもしれないから」
地図に解毒剤を添えてレンに渡すと、レンはしっかりと頷いた。
リンのことが心配で仕方が無い親に、遊びにいくと言ってもまともな反応が返ってくるわけはなかった。
容易に家を抜け出すと、レンは地図を頼りに、昔のグミとルカの家に向かった。
「聞きに来たんだ」
くすくすと笑い続けているメイコを見て、カイトも笑った。
メイコが深く頷く。
「あの子、可愛いわね。一生懸命頼ってきたわ」
「リンちゃんがいないと、レン君は生きていけないって感じするよね」
「うーん、でも案外レン君の方が強いんじゃないかしら?」
「そう? 強いは強いけど、多分、動くきっかけはリンちゃんが作らないと」
そしてカイトは、ふと思い出したように笑った。
「ミクちゃん? って、どうなるんだろうね」
メイコは肩をすくめた。
「あなたの方がそれはどうするか考えてるんじゃない?」
カイトも同じように肩をすくめて、それから部屋は静寂に包まれた。
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kurogaki
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