炎天直下坂道の上の、滲んだ僕ら。

夏の温度がまだ残る、あの日はとても、暑かった。

「構わないでよ、どっかヘ行ってくれ!」

ひたすらついてくる君の手を払う。

それでもまた、『行かないよ』って言いながら、君は手を掴んでくれた。

「五月蠅いな!」

それなのに、少し意地になって君をつっぱねて。
君の少し前を、逃げるようにして、歩いた。

―…本当の心は、どうだったんだろう。

*****

あれから数年が経った。

それでもまだ、君の影は消えなくて。

感情が一方的に積もるばかり。

今日も俺は、膝を抱えて、描いているんだ。



【ロスタイムメモリー:自己解釈】



聡明だねって、いつの日か君に言われたことを思い出す。

その時は何も考えずに無視をしたけれど、今ならきっと、それが何になるんだと言い返せるだろう。

生きる理由がないからと、ただ腐っていく僕。

巻き戻ってくれればいいのにって思いながら、ただただ、腐っていく。

・・・あれから何年経った?僕はまだ死んでない。

希望論ばかりを唱えて、君がいないという当然の答えに直面する。

「構わない。死ねよ…死ねよ!」

そう叫んで手首を握りしめるのは、僕自身を呪うのは、もう、何度目だったかな。

そのたびにほら、ドアのむこうから、心配そうな母親や妹の気配を感じるんだ。

…結局何もできない僕は、のうのうと、人生をむさぼっていくだけ。

『夏は、夢をみせてくれるんだよ。』

ねぇ、君の言っていたことがもし本当に正しいのなら、君が連れ去られる前に・・・

***

「あっち?」

「"ご主人さま、早く早く!107ですからね!?"」

耳にしたイヤホンを通して、電子端末の中の住人、エネが俺を急かした。

ったく、何度も言わなくたって、解るっつの。

ドアノブに手をかけ扉を押しあけると、少し照れくさいような、恥ずかしいような思いがあったあの日の空気を、思い出させてくれる。

そしてそれは、俺の脳裏を焦がす。

***

18歳になった僕は、まだ、待ってた。

カゲボウシが滲む姿を思い出して、炎天下に澄んだ校庭を思い出して、『遊ぼうよ』っていう君の姿がユラユラ揺れる姿を思い出して・・・

「"ご主人さま。心配なんです。"」

パソコン画面の中の正体不明のAI・エネが、不器用な顔で、暗い部屋の中に浮かび上がっていた。

…隣人なんかには、解るはずもないさ。

今日も不自然でいて、昨日のペースを守って生く。

そうすれば君の温度を忘れない。

もう、ただそれだけでいいんだ。

そうして僕は、静かにベッドに沈んだ。



・・・叶わない夢だと知った。

それでも願いたいんだから、いっそ、掠れた過去を抱いて生くしかないだろう?

僕は覚めない夢を見るよ。当然のように閉じ籠って。

「"それじゃ…明日も見えないままですよ!?"」

それならそれでいいさ。

つまらない日々を殺してでも、僕は一人を選ぶから。

―僕は静かに、PCの電源を落とした。

***

「やめろーーーっ!!!」

-バァン-

自分に銃を向けた黒いコノハから銃をとりあげるため走った俺は、どうやらその弾を浴びたらしい。

「おい、聞…るか?…っい!」

声が、プツンと、消える。

その理由なんて、解りきっていた。

きっと、夏の温度がまだ残る、そんなあの日の夢を見るため―…





目の前に浮かぶ情景は、あの日の自分だった。

苦しくて辛い毎日を終わらせるために、自分の首にハサミを突き付けたあの日。

どうなったかは覚えていないが、気づいたときには確か、どこかに蹲っていたんだ。

いろんなことを思い出す自分の前に誰かが現れ、何かを言った。

何を言われたかは思いだせない。

ただ、次の瞬間。

俺は確かに、"あの頃"に立っていたんだ。

・・・ほら、また。

目の前の誰かが、目の前の自分に向かって何かを言っている。

少し距離があって聞き取れないが、構わないさ。

―俺は、走り出した。

***

"あの頃"の教室に、"あの頃"の君が立っていた。

夏めく君の笑顔は、ちっとも変っていなくて。

その笑顔に出会えたことが嬉しくて、手を伸ばした。

それなのにさ、ひどいよ。

「…"死んじゃった。ごめんね"」

―なんて。

「"サヨウナラしようか。"」

―なんて。

悲しいこと、言わないでくれよ!!!

「往かないでっ・・・」

必死に手を伸ばした先の彼女は、フワリと、僕の前からいなくなった。

***

「"死んじゃった。ごめんね"」

―なんて。

「"サヨウナラしようか。"」

―なんて。

あの時、"あの頃"の君は、そんな風に優しく笑ってたんだね。

俺は…あの時の自分は、必死過ぎて、気づかなかったよ。

スッと消えたあの時の自分。

君の目の前に立つ今の俺は、あの時の自分に変わって、今度こそ、君に・・・

「***、***」

そうして俺の言葉に、笑顔に満足したらしい君は、"あの頃"みたいに笑って、俺にマフラーをかけた。

消えてしまう君に向かって、もう俺は、『そんなこと言わないで』なんて、『往かないで』なんて、言わないよ。

俺は、もう、大丈夫・・・

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ロスタイムメモリー【自己解釈】

※注意※
「僕」…アヤノが死んだ直後のふさぎこんでいたシンタロー

「俺」…メカクシ団入団後の、元気な?シンタロー

※注意2※
<動画中の「僕」がハサミを振りかざすシーンについて>
…ここでシンタローが死んだわけではないと解釈しました←

<動画中の時計の日時について>
…あれは繰り返しの日時ではなく、19xx年のものと20xx年の物であるという風に、解釈しました←

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投稿日:2013/04/02 23:37:03

文字数:2,176文字

カテゴリ:小説

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