それは、一つの因果の向こうの話。相反する二つは常にお互いを寄り添い合うように過ごしている。
それを、塗り替えようとしたひとりの少女の話。
「――ポツリ」
「……見えた? 今、ひとひらの花びらが地面に落ちたの」
少女は笑う。何故、笑っていられるのかは誰にもわからない。先刻、命の終わりを告げられた少女は、咲き乱れる桜を眺めて笑っていた。
「花が綺麗なのは、その短い命を精一杯咲かせているからなんだ。私も、少し落ちるのが早い一つの花びらだったのかもしれない」
ひとひらの花びらを指先に器用に乗っける。直ぐにこぼれ落ちた薄紅の雫は、涙のように地面にゆっくりと吸い込まれる。
「……何で、笑っているの」
「今更、命が無くなる事を後悔しても遅いでしょう? 私は、後悔したくないの。前だけを見て、生きていたいの」
「……私は、あなたに死んで欲しくなんかない。ずっと、生きていて欲しい」
「ごめんなさい。“死”を選ぶのは、私のわがまま。最後のわがままくらい、聞いて欲しいな」
ゆっくりと、透明の花びらを身に漕がす。今まで、こんな少女の表情を見たことがあるだろうか? いや、無い。
だって、儚くて、強くて、とても綺麗だったから。少女の瞳から溢れる雫も、笑っている口元も、どちらにも嘘がなくて……。
望まれた死のように思えてしまったから。
「ねぇ、希望を……頂戴」
「希望?」
「うん。私が、後悔をしたくないから。あなたが聞いてくれるかも知れない……私の最後のわがまま。聞いて欲しいな?」
一樹の桜の下を、ゆっくりと歩いてお互いの手を取り合う。瞳を見つめ合う。一人は希望を望み、一人は絶望を選んだ。
希望と絶望は常に隣り合わせ。二律背反の片方だけを掴むことは難しい。だからこそ、片方だけを望む。希望の静葉はとても小さく、相反する絶望はとても大きい。
きっと同じ大きさだと思うのに、同じようには見えない。だって、希望は新芽で、絶望は成長しきった姿だから……。希望はいつか、絶望に変わる。分かっていたはずだったのに、知りたくないと目をそらしていた。
「そう……。最後の願いなら、聞いてあげる。一時の希望を」
「ありがとう」
知ってしまっている事実はそこにある。少女の言葉の奥に隠された中に、希望はいつか絶望に変わるという言葉が含まれていた事を知っている。
少女の命がもう長くないことも知っている。それを変えることができるなんて神様くらいしかいないだろう。もし、朽ちること無い希望があるとしたらアスクレピオスの杖くらいしかないだろう。
絶望を希望に変える。もし、そんなことが出来るんだとしたら……。
「……いずれ枯れる木も、一つの枝から蘇る。ねぇ、そう考えれば“死”も“希望”に繋がるんじゃない?」
「ううん。私は貴方といたいだけ」
「……ねぇ、見えた? 今、ひとひらの花びらが地面に落ちたの」
結果は変わらない。定められた運命のレールを、ゆっくりとしたペースで走る列車。終点は変わらない。いずれ“生”という列車には終わりが来る。
でも、生あるうちは、風景が違ったように見える。一つの心のあり方で、絶望のなかに希望を見つけることができるかもしれない。
「手、繋いでてくれる?」
「……うん」
結果は変わらない。最後に手を握っていて、胸元で静かに瞳を閉じても。
でも、絶望のある終わりにはしたくない。
「おやすみ」
「おやすみ」
最後の言葉だけ無駄に悩みました。
「ありがとう」「さよなら」「おやすみ」
ですが、まぁ流れてきにありがとうはなしだったので
「さよなら」or「おやすみ」に。
婉曲的表現で、悲しい物語を書きたくなっただけ。ていうか、反語って目立ちますよね。文章的に。
~だろうか? いやない。うん、中学生とかが繰り返す理由がわかる。何か、厨二ゴコロをくすぐる何かがある。
さて、真面目な説明。
桜の下にいる少女二人ですが「主人」と「従者」です。で、主人の死となりますが、主人と従者と言っても古くからの知り合いでお互いに気兼ねない親友のような存在だった……という感じでしょうか? そこまで表現しなかったのは、したくなかったからです。
敬語→タメ口とかでそういうふうに表すことも出来ますが、そういうの好きじゃないんです。
希望と絶望は背中合わせ。幸せな事があったら、きっと背中合わせに悲しいこともある。
そして、幸せは刹那の中にある。ほんの一瞬の幸せを貴方は見つけられますか?
少女達の希望は、一瞬でした。
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