「・・・・・」
土手の近くの緑色のベッドにねっころがるレン
青い空をまっすぐ見上げている
しかしなぜかその表情は浮かないものだった
―――ボクは一人じゃない―――――
現実世界で言えば午後3時を回ったころ
仮想世界の土手に一人きりのレン
リビング型共通ファイルでは窮屈だろうとマスターが作ってくれたものだった
この空間ならばエネルギーを消耗せずに現実世界そっくりの空間で遊ぶことが出来る
ミク姉やリンそれにこのパソコンにいるすべてのVOCALOIDはみんな喜んでいた
レンもたしかにうれしかった
・・・この世界がインストールされたころは
「はぁ~・・・」
浮かない顔から本日5回目となるため息が生まれる
外はこんなに明るいのに気持ちだけモヤモヤしてる
まるでほんとうにくらいところにいるようだ
VOCALOIDは歌うために作られたもの・・・
しかし人の声を元にされたことで姿は人と同じにされた
その際、さらに人間に似せるためにもともと歌うためにあったもの
つまり声や発生技術、その他うたうために必要なもののほかに人にある色々なものも一緒に作られた
その一つが“心”だ
心というプログラムをVOCALOIDに入れたことで歌に気持ちがこめられるようになった
明るい歌は明るく歌い、悲しい歌は悲しく歌うようになった
しかしかわりに心というものに大きく作用されるようにもなった
明るいときは明るく振舞い、悲しいときは悲しく振舞うようになった
・・・今のレンはその“心”に振り回されているんだろう
なんで急に嬉しくなくなったんだろう・・・
レンはずっと考えていた
現実とほぼ一緒の世界、自分たちだけの遊び場
夢のような場所が与えられたって言うのに
なんでなんだろう、急にモヤモヤがうまれて正体がわからない
なんだか楽しくない
そんな風に色々考えて苦しんで
またため息をつこうとしたとき・・・
「やっほーレン!」
明るいリンの声が聞こえた
どうやらリンも一人のようだ
「どうしたの?そんなとこで」
「あぁ、ちょっとね」
適当な言葉でごまかす、本当にたいしたことじゃないし
「そっか」
「リンこそどうしたんだよ。さっきまでミク姉たちと遊んでたんだろ?」
「うん!でもみんな疲れたって言って戻っちゃった」
「ふ~ん」
「で、たいくつだったから散歩してたらレンに会ったってワケ」
「なるほど」
・・・・・・・・
会話がやむのと同時に強めの風が吹いてきた
いくら仮想といったって時間は動いてる
しばらくの間沈黙が訪れる
風が土手の二人の間を縫っていく
・・・・・・・・
気持ちいい、自然にレンはそう思った
かすかに心が軽くなったような気分になれた
「・・・・隣にいっていい?」
「散歩はいいのか?」
「うん。結構歩いたから疲れちゃって」
「そうか」
そういってリンも草の上に寝転がる
「う~ん気持ちいい~」
隣で伸びているリンに一つ聞いてみる
「なぁリン、オマエ嘘ついただろ」
「え!?・・・いや、私は別に・・・」
「だってお前疲れたって言っただろ?」
「・・・言ったけど」
「エネルギー消耗がない世界で何が“疲れた”だよ」
「へへへ、バレた?」
「バレバレだよ。ってことはミク姉たちも別の理由だな」
「うん・・・」
急にリンの言葉がとまる
なにか重要なことを言うときのような顔になるリン
レンもそれに気づいて黙り込む
「レンってさ、最近落ち込んでるけどなんかあった?」
「いや、べつになにも・・・」
「嘘だよ!だって最近のレンぜんぜんあかるくないもん!」
「ホントに何も・・・」
「さっきだって遊びに誘ったのにどっかいっちゃってさ、みんな心配してるんだよ!?」
「え!?じゃあミク姉たちが帰ったって言うのは」
「・・・レンのこと、探してたんだよ?でも全然見つからないから」
「じゃあ遊んでたっていうのは・・・」
「嘘だよ、みんなでずっとレンを探してて遊ぶ暇なんかなかったよ」
「・・・・・」
知らなかった・・・
みんなにそんなに心配をかけてたなんて
自分ひとりで勝手に悩んでそれで迷惑までかけて・・・
沈黙しそうな場をまた引き裂いたのはリンだった
「レンは・・・一人じゃないんだよ?なんかあったら言ってよ?わからないじゃん」
「・・う・・・った」
「え?」
「ボクだって、できればそうしたかったさ、でもどういったらいいかわからなくて」
「わかるよ」
『え?』
そこにはメイ姉、カイ兄、ミク姉、ルカ姉の4人がいた
「みんな、どうして・・・」
「決まってるじゃない、アンタが心配でみんなここにいるのよ」
「レン君が元気ないのに私たちだけ遊ぶなんてなんかズルイと思ってね!」
「鬼ごっこでもやろうと思ったんだけど一人でも多い方が楽しいしね」
「悩みがあるならいってくださいよ。心配になるじゃないですか」
順番に思いを打ち明けてくれた
こんなに心配されてたなんて・・・
「一人でなにか抱え込むなんて、レンらしくないよ♪」
隣にいるリンが笑う
前を見れば上の兄弟がレンを見ている
笑えない、笑えないよこんなドッキリ・・・
でも・・・嬉しい
心に雨が降る、モヤモヤした雲から雨が降る
嬉しい、心からそう思ったら
なんだか・・・
「あれ?レン、泣いてる?」
「ゴ、ゴメン!別に泣かせる気は」
「ミク、空気読みなよ・・・」
「へ?」
頭に響くみんなの声
いつの間にか忘れてたけどいろんな人に囲まれてたんだ
マスターやリン、ミク姉たち・・・
一人だと思ってたからつまらなかったんだ、モヤモヤしてたんだ
やっと気づけた・・・いや思い出せたのかも
―自分の本当の気持ち
「はは・・・・」
「レン?」
「あははははは!バカだなぁボクは!」
「え?」
「こんなことで心配かけるなんて・・・」
「あの~レン?」
「・・・あ、何?」
「もう大丈夫なの?」
「うん!みんなのおかげだよ!」
「そっか」
「うん、もう大丈夫!」
「それでこそレンだよ!」
「え?」
「明るいレンが一番好き!」
「うわっ!」
そういってリンが飛びついてきた
周りにいたみんなの視線が恥ずかしかったけど・・・
これも大切にされてる証拠だよね?
またあとでみんなと一緒に話をしよう
それからちゃんと謝らないと・・・
・・・でも今は
「カイ兄!」
「ん?なんだい?」
「鬼ごっこ・・・するんだよね?」
「え?あ・・うん、そうしようかな」
「私も!」
「リンもやりたい!」
「ワタシも久しぶりにやろうかしら」
「負けませんよ!」
「決まりだね!」
「よし!じゃあ鬼決めようか・・・最初はグー!・・・」
『じゃーんけーんポイッ!!』
レンの心の雨はやんで今は虹がかかっていた
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