田舎のパブの隅っこには少し豪華なジュークボックス
届いてこのかたまともに動いたことがなかったんだって
ボタンは押しても戻らないし曲順は間違えて再生
番号も違うのが入るし歌には盛大にノイズが走ってる
それでもインテリアにはちょうど良いって言うから
酔っ払いに叩かれても蹴られても一生懸命歌ってた
うろ覚えで歌う曲は歌詞もメロディもぎこちない
電源引っこ抜かれて「俺の方がうまいぞ」って歌う客
あぁなんで私はこんなに歌が下手なのかなぁ
ジュークボックスは音楽でみんなを楽しませないと
毎日どこかが軋んで鳴って歯車がいびつに磨り減るけど
まだまだ私はみんなのために歌いたいから
どんなにジュークボックスが歌ってもいびつな音程で
とうとう店長は重い腰上げて新しいのを買うことにした
古い方はスクラップにするためにお客総出で表に出して
道端でホコリをかぶりながら回収車を待っていた
ある時老夫婦が通りかかりジュークボックスに近づいた
ホコリまみれの大きな箱を優しく撫でて微笑むと
パブの店長に一言告げていた「これは幾らですか?」って
店長もジュークボックスもびっくり仰天おどろいた
あぁなんで拾われてしまったんだろう不思議だな
スクラップのお金が欲しいのかなそれとも重しとか?
これならホコリだらけでスクラップ待ちの方が良かったな
もうだめだ私は誰のためにも歌えっこない
ただ同然で譲ってもらったジュークボックスが運ばれる
知り合い総出で庭先からリビングへゆっくりと丁寧に
「動かないよ」「ノイズばかりだ」って何度言われても
にっこり笑顔で「全然構わないさ必要だったんだから」って
とにかくホコリを全て拭ききって磨き上げて新品みたいに
置き場所も部屋で一番目立つソファの近くのカウンター脇
クシャクシャの笑顔のお爺さんがピカピカの窓を眺めて
シワシワの笑顔のお婆さんがツヤツヤのレバーを撫でる
あぁどうしてそんなに大切にしてもらえるのか分からない
私はもう歌えないのに奏でられないのにおかしいな
なんでそんな愛おしい目で見つめてくれるんだろう
一曲ほんの一曲で良いから偶然でも良いから歌いたい
数年後に老夫婦が天国へ旅立ったという報せが届く
そして不思議な光景を目にした人が沢山いた事が分かる
「ご夫婦は夜な夜な音楽に合わせてチークを踊っていた」
そんなわけないあのジュークボックスは動かないんだ
さらに「あの家にジュークボックスを動かす電気は無いぞ」
「弱った電灯と古びたラジオを鳴らすくらいしか無理なはず」
それでも近所の人は確かに聴いたチークにぴったりの曲を
仲睦まじい朗らかな笑い声に合わせて揺れる二人の影を
あぁこうしたかったずっとこの時を待っていたんだ
全身を震わせて歌う目の前で楽しそうに舞い踊る人たち
ずっとこうしていたい何だって歌うよリクエストはあるかい?
お二人に似合う曲を私から幾つもプレゼントしたいから
家主の居ないジュークボックスを回収に来た業者が驚く
どこをどう見ても何も壊れてなんかいなかったんだから
全ての部品が正常正確きっちりドンピシャに合っている
ただひとつ電源だけはどう直したって入ることが無かった
こうして回収されたジュークボックスはスクラップにされず
「奇跡のジュークボックス」として博物館に展示された
その不思議な顛末と素敵なエピソードを自慢げにまとって
まるで今にも何事も無かったように歌い始めそうな程に
あぁ嬉しかったあんなに喜びを感謝を感じたことは無かった
それだけでもう私はこの一生を終えても構わないとすら思う
実は今でも時々天国へ歌いに行くことが有るんだよ
誰もいない博物館から音楽が聞こえてきたらそれはきっと私かも
もしその時はチークを踊ってくれたら嬉しいな
あなたにぴったりの曲をプレゼントしてあげるからさ
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今回は3ページと、比較的コンパクトにまとめることに成功しました。
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↓「前のバージョン」でページ送りです...【小説書いてみた】 神曲
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ピノキオPの『恋するミュータント』を聞いて僕が思った事を、物語にしてみました。
同じくピノキオPの『 oz 』、『恋するミュータント』、そして童話『オズの魔法使い』との三つ巴ミックスです。
あろうことか前・後篇あわせて12ページもあるので、どうぞお時間のある時に読んで頂ければ幸いです。
素晴らしき作...オズと恋するミュータント(前篇)
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