「………雨か…」
空は黒い雲に覆われ、外は大雨にみまわれていた。
ベランダで座りながら、雨に打たれる景色を見て溜め息をついた。
「そんな所にいたら濡れちゃいますよ?」
ふと横を見ると、いつの間にかミクがいた。
先程までレン達と遊んでいたはずだが、この静かさからして昼寝でもしてるのだろう。
「…なら隣に座るなよ」
跳ねた雨が足を濡らしてるのにも関わらず、ミクは俺の隣に座った。
「元気ないですね?」
「………」
俺は答えず、雨が容赦なく降り注ぐ音しかしない。
「…雨は嫌いですか?」
「…嫌いだ………」
恐らく今の俺は相当、不機嫌な顔をしてるのだろう。
ミクの少し怯えてる様子と、寂しそうな表情からそれが窺える。
「そんなに嫌わなくても…」
そう言いながら、ミクは足元にできた小さな水溜まりを自らの足でパシャパシャと弾く。
「お前だって、雨は嫌いだって言ってただろ」
そう言いながら、向けていた視線を前に戻す。
「そりゃあ…洗濯物は乾きませんし、ジメジメしますし」
ミクは口を尖らせて言う。
「でも雨だって悪くないですよ?冷たくて気持ち良いし」
そう言って、相変わらず足で水を弾き続ける。
そんなミクを見て、少し羨ましいと思った。
子供の頃なら天気なんて関係なく、楽しく過ごせていたはずなのに。
「お前みたいに、能天気に生きちゃいないからな」
こういう時、口からは皮肉な言葉しか出ない。
普段は感情を剥き出した言葉なんて言わないのに、こいつの前だと上手く隠せない。
「誰が能天気ですか!マスターが後ろ向きなだけです!」
そう言って、ミクは頬を膨れさせた。
ミクの表情がころころ変わる様子は、見ていて飽きない。
もちろん、そんな事を言えばこいつは怒るだろうけど。
こっちとしては、褒め言葉のつもりなんだけど。
暫くむくれていたと思うと、ミクは立ち上がって部屋の奥に入って行った。
何気にタオルを用意してたらしく、ちゃんと濡れた足も拭いて。
俺はまた一人で、雨に打たれる景色を眺める。
もしかしたら天気一つで気分の良し悪しが変わる今の方が、子供っぽいのかもしれない。
「マスター」
そう考え溜め息を軽く吐いてると、後ろから声をかけられた。
振り向くとミクの両手には青とピンクのマグカップがあり、青い方をこちらに差し出していた。
それを受け取って中身を見ると、紅茶が淹れられていた。
湯気とともに香りが立ち込め、僅かながら気持ちがほっとする。
「こういう時は、温かい物を飲みながらお話でもしましょうよ」
そう言って、ミクはまた隣に座る。
拭いたばかりの足が雨でまた濡れるのも気にせず、彼女は言葉を続ける。
「雨が降ってるのなんて忘れるくらい、たくさんね♪」
そう言って、満面の笑顔をこちらに向けた。
その顔を見てると、落ち込んだ気分がどうでもよくなってしまった。
釣られてついつい笑うと、ミクはまた怒り出した。
「何笑ってるんですか!」
その表情がころころ変わる様に、笑いが止まらなかった。
どうにか笑いを抑え、ミクの頭に手を置き軽く撫でてやる。
「なんでもないよ。で、何の話するんだ?」
途端にぱあっと明るい顔をし、目を輝かせた。
「じゃあ、昨日見た野良猫がですね…」
そうやって長く、他愛のないたくさんの話をした。
大体はこちらがミクの話に相づちをする形だったが、それだけでとても楽しかった。
耳に入ってくる雨音でさえ、心地よいBGMに聞こえてきた。
いつの間にか雨は止み、雲の隙間からは陽の光が差し込んでいた。
けれどミクは雨が止んだのに気付いてはないらしく、夢中で話を続けている。
そんな彼女を見ているのが楽しくて、何も言わずに話に耳を傾けた。
これが終わるのは、ミクが雨が止んだのに気付いた時だろう。
何時気付くのかと考えつつ、まだ気付いて欲しくないと思った。
(キミが居れば、どんな日も楽しくなれる)
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kurogaki
A
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つまんない つまんない つまんない
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わかんない わかんない わかんない
B
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