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ニギメの国の戦争賛成宣言が行われる前の話である。
その頃私はカイさんに夢中だったのだ。
人間界で戦争が起きようとしているという話は聞いていたが、
それは私の中では意識のかなり遠くの方で存在しており、
それよりも私はカイさんに夢中だった。
戦争が恋愛に負ける状態が私の中では起きていた。
事の重大さから言えば、勿論戦争の方が大きなことだが、それさえもどうでも良くなってしまうほど、
私はカイさんに夢中だったのだ。
そんな中、ゲンジさんが私を突然二人きりで話がしたいと誘ってきたのだ。
私は先に店に着いて彼を待っていた。
カ・ラ・ン
店のドアベルが鳴り、人が入ってくる。ゲンジさんだ。
どこかいつもよりも元気がない気がするのは気のせいだろうか。
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人間もたまにくるお店だったので、特に周りのニギメは驚いた風もない。
ゲンジさんはどっかりと椅子に座っていつもどおり、話し始めた。
しかし、どこか的を得ない話が続き、私と二人だけで話す必要性を感じさせる話題にはなかなか
入らなかった。
私から切り出すことにした。
「あの、2人だけで話すからには何か特別な話があるんでしょう」
それまでしていた、人間界のくだらない話を切り上げて、
「あのだな、その、海は人間でお前さんは、若娘の妖精さんだ。つまりだ…その…」
「あのう!お話が見えないんですけど!私と2人だけっていう事は何か重要なことがあるんでしょ?」
「妖精と人間じゃ結婚できないだろ!」
「出来るわ!」
私は怒りを抑えきれず机を叩き付けながら言ってしまった。
私は怒りを抑えきれず机を叩き付けながら言ってしまった。
机を叩き付(つ)けても此処(ここ)は、ワカメの国だから水の抵抗で、音は鳴らせなかった。
が、私の意気(いき)は通じた様(よう)だ。
ゲンジさんは吃驚(びっくり)して居(い)た。
「ゲンジさん、勉強不足ですね!女の妖精は人間の男性と結婚できます!」
私は切(キ)れながら説明した。
そして私はバッグを持って喫茶店を出た。
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一方、周りのニギメはしょうがなく戦争に加冠していった。
ワカメの国の妖精は平和を愛することで有名だったのに、戦争に巻き込まれていった。
しかし、私はその頃戦争どころではなかった。
カイさんは戦争に賛成だった。
カイさんも軍人に憧れていた。
それでカイさんは軍人になるから僕達は離れなくてはならないと言ってきた。
私は戦争なんて、カイさんと私には何の関係もないと思っていた。
しかし、カイさんは軍人に憧れていたのだった。
そんなことがあるとは思わなかったが、カイさんは私と一緒に暮らすことよりも軍人になる道を選んだ。
しかし、人には恋以外にもやりたいこともある。
彼だって私ばかりに構ってばかりではいられないのだ。
それは心の奥では分かっていた。
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そうして、ついにニギメの国の戦争賛成宣言が行われた。
ニギメ国は人間界との行き来を封じた。
人は夢を見ないようになり、人々は戦争に夢中になった。
戦争に夢中にならされた。
ニギメ国では失業者が増えた。
人間界とのやりとりによって職業が成り立っていた民が多かったからだ。
私もその内の一枚だった。
私は人間をニギメ国内え案内するツアーガイドの仕事をしていたから、もろ失業してしまった。
妖精にとって仕事がなりという事はかなり良くない。
ヨーロッパなんかの家付き妖精なんか仕事が無くなったら、ろくなことをしない。
仕事がある内が華なのだ。
ニギメの民も言ってみれば妖精である。
仕事を失えば、ろくな事をしないだろう。
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だから妖精の国、夢の国が戦争に加担するなんて駄目に決まっている。
私はそれに気付いた。
でも、そのとき日本人皆が何となく戦争をしなくてはみたいな雰囲気だったから、
よく分からない一種の魔法にかかっていたのだ。
妖精が人間に魔法を掛けられるなんて後にも先にも無い。
なんなのだろう、一種の強迫観念のようなあの戦わなくてはならない、お国のためにというのは。
私は、カイさんに恋をしていた。だから戦争の以上さに気が付いた。
私も恋をしていなかったら、もしかすると洗脳されて戦争に加担していたかもしれない。
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カイさんは妖精の国が戦争に加担することを良いとは思っていなかった。それが普通だ。私もそう思った。
でも、あの時は一種の錯乱状態で、人間も妖精も訳が分からなくなっていて、死神や悪魔のやり放題だったのだ。
とにかく、そういう状態だったのだから仕方が無い。
周りからみたら恐らく私の方が変だったかもしれない。
私は以前あのキューピッドの矢に刺されてしまって、恋に落ちていた。
だから戦争という罠にひっかからなかったのだ。
お国のためにという観念に引っかからなかった。
他の妖精は人間界からの「お国のために」魔法によってほとんど皆大人しくなってしまった。
妖精が大人なんて、本来あるべき姿ではない。
それくらい日本の「お国のために」魔法が強かったのだ。夢の国の妖精もやられてしまう程に。
22ワM
私は、結果的に言うと恋路を突っ走っていたからこそ戦争に巻き込まれずにすんだ。
何もかも私は良い方に向かっていた。私だけ。
そのときは、私だけ違う方向へ向かっているようで少し違和感もあった。
でも、例え私が間違っていたとしても私はその間違った恋路を突っ走る気でいた。
暫くすると、人間はよい夢を見なくなった。それはつまりワカメの国の存在自体が消えているという事を指していた。
国はどんどんと消されて最後には消えてなくなった。
そのときにニギメの国の国土と一緒に存在が消えてしまった妖精も少なくない。
多くのニギメの妖精は妖精である筈なのに現実世界にばら撒かれてしまった。
妖精は現実世界では存在しにくい。
居住区がどんどんと減っていく中、私は最後まで残っていた。
王様の城も無くなって、私は最後の最後まで粘っていたが、ついには国土が全て消失した。
そして現実世界の海へ放り出されたのだった。
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妖精の様な儚い存在以外に確固たる、形になる物が必要だった。
カイさんがくれたあの石、意志が其の役割を果たした。
私の妖精で或るが故(ゆえ)の脆い体に実体を与えてくれた。
其れはただの石だった。
ただの意志だった。
どこにでも転がってる石だし、何処にだって発生する意志だ。
誰かを守りたい。
誰かが好きだ。
誰かを愛している。
ただそんな何処にだって有り得そうな意志だ。
しかし、私にはもう分かる。其の意志、詰まり、気持ち、恋心がどの位強力な気持ちかが。
カイさんに出会う迄は私にとって恋はただ単に恋だった。
其れがカイさんと出会ってから、其の“恋”が自分自身の実感として理解出来た。
気持ちは複雑で理解仕切れないとか言う人も居るけれど、其んな事は無い。
あ!此れだ!と、はっきり分かる。
ああ、此れが恋なんだと、はっきり分かる。
数字の1、2、3と、はっきりした物と同じように“気”も確固たる物として理解出来る。
有耶無耶(うやむや)にすれば有耶無耶になるが、人の気持ちは理解出来る時は理解出来るのだ。
最後
ワカメの妖精は水に関する魔法が得意だ。
今日も私はカイさんの顔の形に空の雲の形を変化させて見る。
散歩の途中、水溜りの前で水を空に放つ。
水を水蒸気にする事くらいお茶の子歳々だ。
水蒸気は、遠い遠い空へと上っていく。
其して雲と成る。
其の形は、カイさん、貴方。第7章終わり
ワカメの国 第七章 矢を刺されたニギメ ソドム・ヨリポッドの物語page4
第7章のテーマ:恋愛,戦争
彼女は海光郎に恋をした。
しかし、彼は第二次世界大戦で死んで仕舞った。
彼女は、彼に貰った石(意思)を頼りに人間界で暮らし始める。
出会った男性と結婚し、子供を設けた。
其仕て、其の娘は貝塚浮世である。
詰まり、貝塚浮世の母方の御婆さんが貝塚美津代(ソドム・ヨリポッド)である。
※小説「ワカメの国」は現在「KODANSHA BOX-AIR新人賞」に応募。結果→選ばれませんでした。
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【Links】
・「ワカメの国オフィシャルサイト」URL[http://book.geocities.jp/wakamenokuni/index.html]
・「ワカメの国電子小説」URL[http://book.geocities.jp/wakamenokunipdf/index.html]
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