1#
愛想がないから、滅多に喋らなくて、何時も教室の端で独りで座っていた。
クラスのはみ出し者みたいに見えるのに、何にも気にしてない風でちょっと不思議な奴だった。
告げ口してやったんだ。
「この間クラスの女子に陰で悪口叩かれてたよ」
「あら、嬉しいわ。私がいないところで私の存在を思い出してくれるなんて。どんな噂話だったのか是非聞かせて欲しいところね」
その日から何故か僕は薬が無くても毎晩ぐっすり朝を待てるようになったんだ。
2#
そいつは可愛くもなくて、背も高くなくて、何時も教室の端で頬杖ついてる奴だった。
ある日集団行動で同じグループの女子にそいつが「よろしく」と言った。返事は返ってこなかった。
話し掛けてやったんだ。
「ねえ、さっき絶対あの子に避けられてたよね?」
「別にいいのよ。人間誰だって応えたくない時はあるの。4、50年も経てば『お久しぶり』って笑い合える仲くらいにはなるわ。」
その日から何故か僕の右腕に巻かれた包帯が少しずつ減っていった。
3#
そいつは目付きが悪くて、鈍くさくて仏頂面で、何時も教室の端で気だるげに空を見ていた。
珍しく立ち上がったら、人にぶつかって「ごめんね」と呟いたのを僕は隣席見ていた。
相手はこんな事を言った。
「話し掛けないで。私はあなたが嫌いなの」
「優しいのね。好きの反対は嫌いじゃないのよ。私をわざわざ『嫌いな人』にするなんて、やっぱり人間も捨てたもんじゃないわ」
その日から何故か僕は教室の端でそいつと同じ空を見上げるようになったんだ。
fin#
気づいたんだ、僕には広すぎる世界
教室なんてちっぽけで。
僕の悩みもちっぽけで。
老い先長い人生で。
空は果てしなく青くて。
数十年経った今、僕が今日も空を見上げるのを君は知らないだろうけど。
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