「初めまして,お嬢さん。」
私の前に現れた少年は,私に真意の読めない微笑みを向けた。
少年の背格好は私と同じくらい,いや,少年の方が少し高いか。
綺麗な金髪に海の底みたいに深くて,底冷えするような蒼さの瞳。
その片目には,黒い眼帯がされていた。
少年は,私ぼ廻りをくるりとまわってみせると,ステップを踏むようにして,
暗闇へと溶けていった。
「僕についておいで。」
私は少し戸惑ったが,素直に少年の背を追った。
何も見えない闇の中,少年の鼻歌とかすかに見える小さな光を
目印に,私は足を速めた。


どれほど歩いただろう。
相変わらずの暗闇の中を,私と少年は進んでいた。
もうそろそろ脚がいたくなってきた頃,やっと私達は暗闇を抜けた。


そこは,一面鏡の世界だった。
1つの鏡には,天国。1つの鏡には,地獄。
一つの鏡には,キラキラと光る宝石。もう1つの鏡には・・・。
「改めまして,・・・初めまして。いきなり『ついておいで』なんて言われて
驚いたよね,ごめん。僕は・・・,そうだね,『鏡の住人(ミラー)』とでもいって
おこう。」
少年・・・,ミラーは,先程と同じ,真意の読めない微笑みを・・・・,
鏡の中で造っていた。
私は微笑むミラーをよそに,鏡を1つ1つ眺めた。
歩く度に,綺麗な高音が響く。
躊躇いつつも,そっと鏡に触れる。
水の波紋のような模様が造られると,指先に冷たい水に触れたような
感覚が走った。
瞬間,私の体は鏡に引き込まれるようにしてミラーのいる鏡の中に入った。


「ようこそ,いらっしゃい。『鏡の世界(プリズム)』へ。」
ミラーはそう言うと,私の手を引いて,プリズムを案内してくれた。
鏡の内側から見る世界は,何もかもが新鮮で,美しく見えた。
様々な種類の花が咲き乱れる花畑,冬の寒空に瞬く星々,思わず触りたくなる
ようなふわふわとした雲,梅雨の冷たい雨が打ち付ける大きな川,青空高く舞う
鳥の姿・・・。
ミラーは,花を1本摘むと,私に手渡した。
「この花,本物じゃないんだ。鏡の中はすべて偽り。たとえ鏡に映るものが
真実だとしても,その瞳に映るのは偽り。そして・・・,いや,何でもない。
・・・次へ行こうか。」
ミラーの態度が気になったが,私は特に何も言わずに,ミラーの後を
追いかけていった。


プリズムを一通り巡ると,ミラーと私は適当に座り込んだ。
私は指先で,ミラーに貰った花を弄びながら,隣のミラーの
話に耳を傾けた。
「さっき,此処は偽りだ・・・,そういったろ?あの時言いかけたこと,君になら
言ってもいいかな。・・・僕もね,『偽り』なんだ。いつ消えるかも分からない,
不安定な存在。僕はいつも孤独で・・・,だからこの『プリズム』を造った。
でも,結局は此処も『偽り』だった。それでも僕が此処で息をするのは・・・,
見つけたから。・・・君を。」
ミラーは寂しさの混ざる瞳でそう言うと,私を見て微笑んだ。
初対面の刻のあの微笑みとは違う,微笑みを浮かべていた。
それからミラーは,いろんな事を私に話してくれた。時折,自嘲的な笑みを
織り交ぜながら。
自分が何故在るのかは分からないということ。
『プリズム』には,ミラーしかいないということ。
そして,
『プリズム』はもう滅ぶということ。
最後の最後に,偶然私を見つけ,声をかけた,らしい。
ミラーは,片目を塞いでいた眼帯を,静かに外した。
その瞳は,片目の蒼とは対照的な,燃えるような朱に染まっていた。
何でも,ミラーの両目が朱になったとき,『プリズム』は消える。
そう言ってミラーは,笑っているような,泣いているような,微妙な表情
で笑った。
その時,ついに『プリズム』が崩れ始めた。
見ると,ミラーの片目の真っ青な蒼が,うっすら朱くなってきていた。
「ついに,来ちゃったみたいだ。・・・ははっ,終わりなんて,案外
呆気ないな。・・・君にはお礼を言わなくちゃいけないね。
―――ありがとう。・・・もう此処も危ない。
この道・・・,来るときも通ったこの道を戻れば,元の場所に戻れる。
・・・ほら,早くお行き。」
ミラーは私を『プリズム』から出すと,哀しみを押し殺すような顔で笑った。
私がもう1度『プリズム』に入ろうとしても,・・・入れない。
何度やっても,・・・入れない・・・!
ミラーが私の目の前に歩いてくる。
たった1枚。
たった1枚の鏡。
ただそれだけの,変えられない距離が,まるで世界が違うとでも言わんばかりに,
私とミラーの世界を分ける。
「・・・ありがとう。此処に来てくれて。ありがとう。僕と一緒にいてくれて。
だからもう,―――泣かないで。」


刹那,私の視界が真っ暗になった。


「・・・ミ,ラー・・・?」
瞳を開くと,其処には見慣れた片割れの姿が見えた。
一瞬,ミラーの姿と交差する。
「・・・どうした,ねぼけてんの?」
いつもと変わりない笑顔で話しかけてくる片割れは,
間違いなくいつもと同じだった。
「・・・ん,なんでもない。」
・・・夢,だったのかな。
不意に横を向くと,大きな鏡が視界に入る。
其処には,こう書いてあった。

「 」

今になっても,不思議だったなぁ,とよく思う。
でも,叶うことなら,私はもう1度,ミラーに逢ってみたいと思う。
その時は,ミラーと思いっきり笑いたい。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

鏡の内側にあるモノ。

コラボうp用ー。
なんという残念クオリティ・・・。
自分のネーミングセンスのなさに吹いたワ^q^ww

閲覧数:187

投稿日:2010/10/06 17:20:05

文字数:2,209文字

カテゴリ:小説

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