3人は顔を見合わせた。
ドールがしゃべった。

「しゃべったねえ」
おどけた調子で、ミクさんが言ったので、思わず皆は笑ってしまった。

「しっかし。こうヘンな事が続くと、もう驚かないよ」
つぶやくミクさんに、レイムさんが聞く。
「このキーホルダー、しゃべる機能ついてるの?」
「いえ。おなかを押すと、“はっちゅっ”と声が出るだけだけど」

「でも、いましゃべりましたよね、確かに」
紙魚子さんはメガネのふちをつまんで、のぞきこむ。
「ミクさん、腹話術したんでしょ」

「しないわよ」
また3人は顔を見合わせる。
「空耳?」


●彼はこちらに来る

妙なことが起こったのに、なぜか、“怖い”感じはしなかった。
「とにかく、行きましょうか」

言うミクさんに、レイムさんは戸惑って言う。
「でも、この子が」
と、人形を指さして
「行くなって、いってるわよ」

「ちょっと、彼に連絡してみるか」
そういうと、ミクさんはまたスマホを出した。

すると、そのとたんに着信があった。
「誰かな。あれっ!」
そして話し始める。

「もしもし、あ、暦さんですか。はい。ええ、今、そちらにいきます。え?」
話す相手は、さきほど話に出たアララギさんのようだった。
「はい。え?ええ、いま、ニコビレにいます。あら!あ、そうなの?」

しばらく話をして、彼女はスマホを切る。
「なんか、彼、都合でいま、スタジオを出なくちゃ、ならなくなったんですって」


●包囲網を作ろう

ミクさんは、大きく目を開いて2人に告げる。
「それで、もしよかったら、このニコビレに来たいんですって。彼のほうから」
「ここに?」
「ええ、だから私、ここのティールームで、会うことにしたの」

「ほほう。てことは、予言したのか、この人形。貸しスタジオに行っても、無駄足だよ、って」
紙魚子さんは、面白そうに言う。

ミクさんは、不思議そうにカバンの人形を見つめた。そしてレイムさんに聞く。
「レイムさんも、会う?」
「うん。もし邪魔でなければ、ぜひ!」

ミクさんはうなずいた。
「よかった。あの人も、ツクヨミのこと、知りたいらしいの。“よく知ってるのは、ニコビレのレイムさんでしょう”って、言っていたわ、さっき電話で」

それを聞いて、紙魚子さんもうなずいた。
「そうか。私も、ちょっと作業を片付けちゃって、あとでティールームにお邪魔したいな」

そして、メガネの奥の大きな目で、ウィンクした。
「私たちと、その彼とで、作りましょうか。“ツクヨミ・包囲網”を」 ( ̄ー ̄)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

玩具屋カイくんの販売日誌(272) はっちゅーねの予言

ミクさんの人形、不思議な力があるみたいです。

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投稿日:2016/03/26 22:09:03

文字数:1,064文字

カテゴリ:小説

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