『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:26


辺り一面雪化粧。そんな冬を感じさせる寒々しい景色の中、拍は1人窓際の席で勉強をしていた。休みの日は大抵家でか部活で楽器を嗜むか、図書館に行くかのどちらかである。冬休みも終わり、そろそろ期末考査が近付こうとしていた。
「あんれぇ、拍じゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だな」
その声を聴いて振り向くと、そこには留佳が立っていた。その手には拍じゃ読めそうもない洋書も数冊混じっている。
「留佳先輩。どうしたんですか、センターは確か終わりましたよね? 」
「あぁ、そうだ。まぁ別にセンターは推薦側から出された条件の為に受けただけで然程重要視していないから別にどうでもいい」
1月の半ば。世の受験生達の本番、センター試験が開催された。無論ジャマ研3年生達も全員それを受けたのだが、留佳と櫂人は元々推薦組で既に内定を貰えていたので、センターはそれぞれが必要だと応じて受けたに過ぎない。櫂人はすべり止めの為の受験だった。
「そんな台詞言えるのは多分留佳先輩くらいのものかと思いますよ」
「何を言う。櫂人の方が私より余程の自信家だぞ」
どっちもどっちだがと思わなくもない拍であったが、敢えて口に出す様な性格でもなく。そのまま笑って受け流した。
時間は15時を少し過ぎたところで、拍は買い物もあるからと席を立ち、留佳も用は済んだらしく共だって図書館を後にした。
「そういえばこんな時期じゃなかったか? 拍と会ったのって」
その昔、まだ入学して間もなかった頃。その日は休日で、拍は1人買い物に出ていた。その途中で擦れ違いざまにぶつかってしまった不良達に絡まれたのである。どうにもならないと怯えていたところに、留佳がその不良達の背後から思い切り蹴りを入れたのだった。結果的に不良達は留佳に一人残らずのされ、拍は助けられた形となった。後日学内で再会した際、留佳の強引な勧誘により、そのままなし崩し的に入部する羽目になったのである。
「そういえばそうですね」
さすがにあの時の不良達が可哀想でならないなと、拍は遠い目をして懐かしんだ。
「その後で突然部に誘われた時にはどうしようかと思いましたけど、思いの外今は結構楽しいかなぁ。皆とも仲良くなれましたし」
「お前はもう少しでしゃばれ。未来とまではいかないが・・・というかメンバー自体がアクの強い奴らばかりだからどれを参考にしろとも言い難くはあるが、まぁ少しはもっと前に出た方がいいぞ」
一番前に出ている留佳にそれを言われたらどうしたらいいんだと反論したくもあるが、留佳の顔を見た瞬間、拍は少しばかり、
―――・・・留佳先輩と比べたらそりゃぁ天地程も差はあるけれども
確かに留佳の言う通り、少し前に出てもいいかなぁと思わずにはいられない説得力を垣間みた気がした。
留佳程前にとは言わないが。

ーーーーーーーーーーーーーーー

淡々と時間が過ぎるのは早いもので、気付けば2月になっていた。
「「先パぁーーーイっ、センターおっつーーー」」
センターが終わり半月が経った頃、久しぶりに3年生達が部室に顔を見せた。芽衣子はまだ後期日程の受験が残っているらしく、まだ少し余裕がなさそうに見える。残る2人はすでに進路は決まっているので堂々としたものだ。未来曰く、『櫂人と留佳に関しては受験が有る無し関係なくどうであれ、しれっとした表情であるのだから気にかけたって無駄』とのことだった。
「Hi ! My sweets ☆」
久しぶりに会った双子に思いがけず和んだのか、留佳が勢い熱いハグを交わしていた。はしゃぐ凛に嫌そうにも藻掻く漣の対照的な様が見ていて面白い。
「櫂人先輩、お久しぶりです。センターどうでしたか? 」
久美が横から近くにきた櫂人に訊ねた。芽衣子は拍にお茶を聞かれ、手伝うと言って一緒に茶棚に向かった。
「一応希望のところはA~C判定もらっていたから落ち着いて受けるだけだったな。留佳なんか、面倒だからって科目受けれるだけ受けまくってたよ。さすがに俺は絞ったけど」
「けっ、バカイトのくせに」
留佳の拘束から抜け出した漣が後ろから吐き捨てる様に言った。櫂人は自分よりも小さい漣の頭を押さえつける様にぐりぐりと撫で繰り回す。それに抗う様に背を押し伸ばす漣。無言の2人を久美は目の前で止める様かどうか傍観していた。
「よぉ、お前達。今日はどうした」
騒がしくなり始めた部室に岳歩が顔を出した。その手には大きな紙袋があった。
「お前達が来ると一気に別の騒がしさが出来るな」
ちょうどその時、芽衣子と拍が全員分のお茶を持ってきて、一度座って落ち着く事にした。
「じゃぁ取り敢えずぅー。先輩方ーセンターお疲れ様ー」
未来が音頭をとって乾杯する。差し入れにと3年生達が持ってきたお菓子でお茶会になった。
「あと1ヶ月かぁ・・・寂しくなりますねぇ」
しみじみと久美が憂い顔で呟いた。
「その前に最後の期末もあるけどね。もう本当憂鬱だわ」
「芽衣子は別受験前の手慣らしだと思えばいいじゃないか」
「アンタみたいに図太く出来てないのよ、ワタシは」
3年は基本1月を過ぎた頃から自由登校になるが、寮生活者がいることもあって常に自己学習といった形で教室を開放している。そこにはちゃんと責任者として教師も足を運ぶ。なので基本教師が居る自習時間に近い感覚だ。生徒に乞われればその教師はそこで簡単な授業も行う事が出来る。期末考査も受験の関係で受ける者受けない者がいるが、基本本人の自由意志である。受ける人間のほとんどが受験が終わった者の最後の記念といった感じだったり、芽衣子の様に別受験の前の手慣らしで受ける者も居る。他には卒業に色々と足りない者が強制的に受けさせられる。
「まぁまぁ適当にやりゃいーじゃねぇか」
「先生が言う台詞じゃねぇなもう」
横で漣が呆れていた。
「そういえば岳兄ちゃん、センター受けたの? 」
「オレ? そら受けたさ。推薦取れなかったしな」
「え、そうなの!? 」
未来がとても意外そうな顔をした。
「ガッポイ何でも出来そーなのにねー」
「ガッポイ言うなっつってんだろ、杜草姉」
「でも本当何で取れなかったの? 」
久美も興味が出てそのまま続けて尋ねると、
「服務指導に毎回引っかかってたから」
文武両道を体現させた様な岳歩だが、その目を引く外見のせいで色々苦労したらしい。その結果、実力主義を標榜する性格になったともいえる。
「それはどうしようもないわね」
芽衣子が凄く納得した表情で微笑んだ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「なぁ、先生。その袋何? 」
櫂人が岳歩が持ってきた紙袋に眼を向けた。
「ん、これか」
机の上にドンッと置くと、双子が率先して飛びついた。中身を改めるとそこには業務用サイズの豆袋が入っていた。
「「・・・豆? 」」
「何処をどう見ても豆だろうが。それ以外他に何か見えるか? 」
疲れたと言わんばかりにお茶を啜って一息吐いている岳歩をよそに、メンバー全員が一瞬『?』な表情を浮かべた。
「・・・えっと、先生? これは、もしや節分の、豆? 」
「もやしの豆にでも見えるか? 」
「いや見えませんけれども・・・」
尋ねた芽衣子に続き、意図が解らず全員が豆に注視していた。
「さてと・・・」
岳歩がおもむろに取り出したるは鬼の面。何処に隠して持ってたんだと疑問に思ったが、誰ももう何も突っ込まなかった。
「おい、3年。お前らこれ付けろ」
「「「何で!? 」」」
「節分は厄を払うんだぞ。どうせだからお前らの受験で付いた厄払っとけ。メイは厄払ってツキ貰え」
「何なんですかその理屈」
「いいじゃないか斉藤。退屈でつまらん受験生活から解放されたお前達へのオレからの激励だ」
「ほほーぅ、先生もたまには面白い事を考えるではないか」
「常に面白い男だろ、オレは。でもさすがに草薙少佐の足元には及びませんな~」
「ならばその功を労って今なら大尉にRank upしてもOKだ。今なら私の腕とまではいかないが指先としてなら弟子入りさせてやる」
「謹んで辞退しよう。つうかオレはお前の中そこら辺の位置なんだな」
「Joke ! まさか。私は先生には頭が上がらん」
「よく言う」
「ちょちょちょっ。ちょっと盛り上がってるとこ悪いけど」
芽衣子が止めに入る。
「いいじゃないですか、芽衣子先輩。面白そうだし☆ 」
「めーちゃん先輩、諦めましょう。頭の足りない部長が乗り気です」
「レェーンきゅぅ~ん。なんなら鬼の衣装貸そうか~。鬼ぃ~のパンツーはロリぜーんかーいでぇ~」
「やっだなぁー、未来先パァ~イ。写真の撮り過ぎて目にまで腐ったフィルター付いたままなんじゃないですかぁ~」
「あー・・・もう。はいはい解ったから。止めなさい2人とも」
再び芽衣子が止めに入った。流れはすでに豆まき大会へと移行しつつある。横で意気揚々と面を受け取る留佳と、渋々面を受け取る櫂人の姿がそこにはあった。

ーーーーーーーーーーーーーーー

「Are you ready ? Ready steady go !!! 」
即席で作った折り紙の箱に各々豆を手にすると、留佳の掛け声で豆まき合戦が始まった。
漣が今だとばかりに櫂人に盛大に豆をぶつけまくっていた。未来と漣が便乗してそれに混じる。すぐに痺れを切らした櫂人が散らばった豆を掠めとると反撃を開始した。留佳は鬼である事を完全無視して芽衣子に豆をぶつけていた。芽衣子がそれに異論を唱え、拍と久美を巻き込むと留佳を攻撃し始めた。その光景から岳歩は1人離れ、飛んでくる豆をお盆でガードしながら豆をちまちま摘み食べている。
「ちょっ、先生! 言い出しっぺが何そんなとこでモソッとしてんのよ!? 」
芽衣子が切れ気味に留佳に豆を投げつけながら叫んだ。その声を受けて双子が櫂人から標的を変えて岳歩に豆を投げ始めた。しかし何ともないといった感じで器用に豆をお盆で防ぎ弾かれていた。
「もー、岳兄ちゃん」
「学校では先生と呼びなさいと言ってるだろう」
「はいはい。ほら、参加したらー? そっちこそ厄払いなよ」
「オレは常に自力で払ってるから今更する必要もねぇ・・・」
最後まで言い終わるよりも先に頭上からドサーっと豆が降らされた。突然の事に頭を振って豆を避け顔を上げると双子が満面な笑みでガッツポーズを見せた。
「やぁーい、岳兄ちゃん引っかかったー♪ 」
久美が双子の元へ駆けていくのを見てグルだと気付く。
「お前ら・・・」
封の空いてる豆袋の残りを掴むと、
「いい度胸だ。オレを嵌めた事を後悔させてやるからな」
1年達が楽しげな悲鳴をあげて逃げ回る。未来が便乗して岳歩に豆を投げるも躱される。悔しかったのか、横に居た拍の豆を奪うと再び攻撃を開始した。
「オレは鬼じゃねぇっつーの! 」
「何言ってるんですか先生。最適役じゃないですか」
「斉藤、それをお前が言うか。お前もそのカテゴリーに入っているという事を忘れるなよ」
「何で俺を巻き込むんですか」
「いやー、櫂人先輩も十分それですよ~」
未来の暢気な声が岳歩の意見を後押しした。
「・・・未来。お前は少しくらい歯に衣を着せたらどうなんだ」
「私程優しい女は居ませんよ♪ 」
そう言いながらも未来は櫂人に豆を投げつけていた。
「・・・てめぇ」
そこからはもうひっちゃかめっちゃかな状態で、鬼も何も無いただの投げつけ合いになった。
凛は留佳と共謀して岳歩に狙いを定め、岳歩は芽衣子を巻き込んで応戦していた。未来はいつの間にか戦線から離脱し、物陰からカメラを構えて激写している。
「こんな感じも久しぶりねぇ」
「そうですね~。あ、拍先輩、まだ豆あります? 」
「あ、はい、これ」
「頂きまーす」
漣と櫂人が荒れ狂う横で久美は拍と一緒に余った豆をちみちみと摘んでいた。この後の片付けをどうしようかと久美と拍は部員達をよそに相談を始める。
「「あーっ! もう面倒くせぇっ!! 」」
岳歩と櫂人の怒号が響く。その場の全員が息の合った偶然に思わず笑い声を上げた。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:26

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

すっかり元日からご無沙汰ってた
そして超不安だった、文字数
でも足りてくれたっ、有難う文字数カウンター!!!
はてさて
節分が近い事もあり、久美に恵方巻きを喰わそうかと思ったけれど、気付けばこんなわやくちゃぶりな展開になっていた
本当は1月中に3年だけでセンターな光景を書こうと思っていたのですが
・・・・・・・・・・・・・・・・・あれっ、自分・・・そういえばセンターの時の記憶が・・・無い。。。
確かに受けたはずなんですけどね
覚えているのは朝早めに会場に着いて中に入れる時間になるまで外で待っていた記憶、のみ
余程嫌だったとみえる。。。
受験に置ける不安要素なら幾らでも書けるんだけどなぁ・・・(でもそれを私がやるとネガくなるのでやめた
そんな訳で鬱憤ばらしの節分で(笑

閲覧数:73

投稿日:2013/02/01 20:03:52

文字数:4,990文字

カテゴリ:小説

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