私には、幼なじみがいる。

控えめに笑う彼は一つ年下で、よく互いの家に遊びに行っていた。

彼は優しく、おとなしく、私がよくからかっていた。

彼の性格故にその本心を知ることもなく、私が社会人となっても、近すぎる関係は続いていた。



「やあ少年、今年もお困りの季節がやってきたようね」

「ねえめーちゃん、毎年それ言ってるけど飽きないの?」

「風物詩みたいなものじゃない?それに『困った!』ってスタンプを毎年送ってきてるのはカイトでしょ」

「風物詩だとしたら、今年で終わるのを祈るよ」



バレンタインならチョコレート、クリスマスならプレゼント、ゾロ目で十一が揃う日はあのお菓子、のように各季節の風物詩というものがある。

私たちもそれぞれのシーズンで企業の戦略に踊らされているとは思うけど、ほどほどに楽しくおいしく過ごせたらいいでしょ、というのが私の考えだ。

十月はハロウィン、その日になると私は彼の家にお決まりの文句と引き換えにお菓子をもらいに行くのだ。



「だってカイトはさ、自分がなんでこんなにお菓子をもらうのかわからない、って言ってるじゃない。バレンタインもあとなぜかホワイトデーとハロウィンも、クラスの子からお菓子をたんまりともらうんでしょ?」

「本当に意味がわからないけどね。僕何かしたかな」

「天然人タラシかもしれないわよ」

「えっ何そのこわいワード」

「それ以外に考えられないじゃない」

「知らないよそんなの」



この年下の幼なじみは、学校では男女問わず人気者らしい。

人気の理由は単純で、彼が優しく、他者が困っていたら手を貸して、自らが苦労を引き受ける生き方を周囲に気に入られているからだ。

目の前で誰かが転んだら迷わず助け起こしに行く。床に散らばったものを集めている人がいたら、当然のように拾うのを手伝う。

その人の良さに引き寄せられるように、イベントが近づくとみんなが手持ちのお菓子をおすそ分けしていった結果、放課後には紙袋を抱えて帰るカイトの姿が目撃されるようになった。



「余らせると悪いから、めーちゃんも好きなお菓子あったら食べて行ってよ」

「遠慮なくいただいてる私が言うことじゃないけどさ、多分カイトにしかあげない子もいるだろうから、あんまりそういうの言わない方がいいわよ」

「僕にしか?どういうこと?」

「あんたバレンタインに置き換えて考えてみなさいよ」

「えっ友チョコかな。あっ、誕生日?」

「……あんたはそうだけど、普通はそうじゃないわよ」



カイトのことを好きな女の子はたくさんいるだろう。

カイトは優しいけど、それだけじゃない。

一度決めたことは曲げない芯の強さは、きっと誰にも負けない。



「鈍いけど、そういうところが憎めないんでしょうね、みんな」

「めーちゃんは僕のことを語るとき、いつも『みんなそう』って言うけどさ、学年が違うのにどうしてわかるの?」

「ただの先輩と後輩ならなんとも言えないけど、家がすぐそこの幼なじみを十三年続けてると自然とわかるでしょ」

「そういうものかなあ。僕はそう思わないけど」

「じゃあ何?」

「幼なじみってさ、便利な言葉だよね」



鞄から出したお菓子を丁寧に机に並べながら彼が言った。

まあ確かに、長い付き合いとはいえ、異性の友達の家にしょっちゅう遊びに行くことを、簡単な言葉で片付けている自覚はある。



「確かにねえ。でもカイトはカイトだし、そばにいると落ち着くし、やっぱり幼なじみだから、が一番じゃないかな」

「そんな幼なじみの僕の好きなところ、試しに言ってごらんよ」

「えっ、そんな急に……優しくて、困ってるところもかわいくて、姿勢もいいし。大人しいというよりは、おしとやかなところとか?」

「へえ、僕のこと、そんな風に思ってたんだ。……違うよね」



すっと顔を上げてこちらを見つめる彼から、いつも浮かべていた笑みがわずかに影を潜める。

いつもの調子でからかっていたつもりが、何か彼の中のスイッチに触れたらしい。



「『みんなが言ってた』と『知り合いの話なんだけど』っていうのはね、自分が思ってる、自分が経験したってことの裏返しなんだよ」

「な、なに急に」

「僕が優しいって?そうだろうね。きみのためを思って行動しているんだから、きみがそう思うのは当然だよ。それにめーちゃんがいつも僕の横顔を見つめているの、気づいてたよ。ねえ、僕のこと、好きなんでしょう。ずっと見ていたいのなら、気がすむまで見ていていいよ」

「ちょ、カイト」



彼が静かに距離を詰めてくるのでその度に居場所をずらしていたら、知らない間に壁際まで追い詰められていたらしい。

わずかに浮かべている笑みがいつもの彼らしくなく、それはまるでターゲットを追い詰めた狩人のような笑みで。

逃げ道を塞ぐように壁に手を付き、私の顔を覗き込む。

あれ、こんなに手、大きかったかな。

こんなに、彼の視線は、高かっただろうか。



「大人しいどころかおしとやか、ねえ。そんなの耐えられないんだ。僕は、きみを、愛してる。そろそろ気がついてもいいんじゃない?」



太陽の光に透ける、夜の海のような髪色。

微笑みに隠れて伺えなかった、情熱を宿した瞳。

彼を形作る全てに惹かれるように見つめていたのは。

『みんなカイトが好き』そんな言葉で隠していたのは本心。ああ、確かにそうだ。



「……こんな悪戯は、ちょっとまだ早いよ」

「あ、ごめん、怖かった?」



即座に腕を離してオロオロする彼。

先程までの余裕はどうしたのか。ギャップがありすぎる。

でも、私がそれに弱いことも、きっと彼はわかっているのだろう。



「嫌だとは言ってないでしょ?でもまあ、これ以上悪戯されると心臓がもたないから、お菓子で勘弁してね」

「うーん、誤魔化された気がする」

「誤魔化してないもん。ほら、よく見て見なさいよ」



やり場をなくしたらしい彼の手のひらに載せたのは、ラッピング袋に詰められた二つのマカロン。

面食らったような顔でじっと袋を見た後、おそるおそるというように彼が言う。



「めーちゃんが作ったの?めーちゃん、お菓子作りは苦手だって昔から言っていたじゃない」

「そう。だから練習したの。上手に作れたらびっくりするだろうなって思って。それに、私を愛してるっていうなら、その……私の愛も受け取ってよね」

「とても嬉しいよ。ありがとう」



リボンを解き、少し歪なマカロンを口に入れた彼は、いつも以上に柔らかく、おいしそうに笑った。



「うん、甘い」

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【カイメイ】恋とはどんな味でしょう【ハロウィン】

こんばんはゆるりーです。
お菓子を食べる二人が見たいので書きました(三日ぶり三回目)。
あと純粋にきゃっきゃしてるだけのカイメイは書いたことがなかったので。
マカロンおいしいですよね。ハロウィンっぽくはないかもしれませんが。

カイトの告白のセリフの一部を、プロポーズのボードゲームで作成したものを使用しています。
創作のお題のようになるので、書くのがとても楽しかったです。

閲覧数:256

投稿日:2019/10/31 23:49:14

文字数:2,759文字

カテゴリ:小説

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  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    キヨリリ!がくルカ!カイメイ!ジェットストリーム幼馴染ハロウィンを仕掛けるぞ!
    (※作品一覧でここのところのハロウィン3部作の冒頭を見た感想)


    優男もイケメンも演じられるとか昔から思ってましたがカイトの万能性ヤバいですね?
    カイト万能細胞。
    そしてこれはん゛ん゛っいい少女漫画!
    少女漫画のワンシーンですねわかります!
    これはコミカライズ待ったなしですね…

    2019/11/05 09:00:49

    • ゆるりー

      ゆるりー

      ジェットストリームで思わず吹いてしまいました(土下座)
      全部書き出しを揃えて違う話を書いてみたい!と思っていたので、気付いていただけて嬉しいです!

      カイトさんのすごいところはどんなものも演じきってしまうところですよね!(ボカロ全部に言えるかも)
      細胞……細胞?
      コミカライズを全力でお待ちしています!

      2019/11/17 00:54:20

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