それは、静かな部屋だった。
ゆるゆると少女は眠りから覚醒する。金の髪がさらりと散らばった。
誰もいない部屋。
溜息をつくと痛む頭に顔をしかめ、再び目を閉じた。規則的な呼吸音が部屋に残る。
「恐ろしい餓鬼だよ。本当に人の様だ。早く閉じ込めてしまうが良いよ」
頭が、痛い。
起き上がった部屋は、白い壁と、白い天井と、木の机と椅子、それから大きな鏡が置かれていた。机に用意された水を口に含んでベッドから裸足で下りると、フローリングは指先をひやりと冷やした。
こつん。
こつん、こつん。
部屋の隅で、何かの衝突音がする。彼女はゆらりと首を傾げた。金の髪が揺れる。
リン。
今度ははっきりと、声が呼んだ。彼女は振り返ったが、その部屋には誰もいない。
再び、コツンと音がする。
彼女がそっと姿の写る鏡に近付くと、驚いた表情を浮かべた自分の顔が、鏡の奥でふわりと笑んだ。それは、彼女ではない、しかし彼女によく似た少年だった。
同じ瞳が正面から交錯する。
「リン…?」
逸れが、私の名前なの、と小さな声で彼女は問うた。彼はかぶりを降った。
「あなたは、誰」
そうっと鏡に触れると、向こうの手が同じ様に手を重ねた。熱は――――皆無。相手の唇が、微かに動いた。
「僕は、君だ」
声は聞こえないが、唇読ではっきりとそれは判別できる。
「出られないの?」
「多分ね」
彼はリンが初めて出会えた仲間。ひとりぼっちの、
「…そっか」
話し相手だった。
毎日の様に重ねていく会話は、少しずつリンの心に、温かな何かをもたらした。
「お前に、マスターがついた」
そう言い渡されたのは、雪が降って、辺りをそれが真っ白に染めた朝だった。
部屋に唯一繋がれたモニターに映る白衣の者が、リンに告げた。
「マスター?なら私は此処を出るということですか」
「そうだ」
ブツンとモニターが切れた。リンはそこに立ち尽くす。
なによりも望んでいた自由の筈だった。
孤独の無い世界の中で生きる筈だった。
ならば、今、何故離れることがこんなにも苦しい。
別れのときは、あっさりと来てしまった。
「…リン?」
鏡から焦がれた声がする。鏡を振り返ったリンの顔は涙が溢れてぐしゃぐしゃだった。
「私、もうあなたと会えない」
鏡を通した彼の声は大半が掻き消される中で、
「…なら、君に最後に触れたいな、リン」
逸れは、呪いの囁きだった。
「あなたに、会いたいの」
いつの間にか、彼が愛しくなってしまったのかも知れない。
そっと寄せた唇、鏡越しに合わせたキスは、冷たくて、熱かった。
腕を振りかざして甲高い破壊音を立てて鏡を砕いた。割れた鏡、少年はリンに飛び掛かり、鏡の破片を首に押し当てた。
「君には、身代わりになってもらう、リン」
リンの唇が戦慄いた。
「あなたは」
「僕はレン、君の出来損ないのタイプだ」
だから、鏡の中に閉じ込められた、とレンは口の端を上げた。
「だから、私の代わりに遠くに行くの…?」
「そうだ」
じわりと、破片が当てられた肌から血が滲んだ。
「…えぇ、私をあげる」
透けるような瞳が覚悟を残してレンの瞳を捉えた。細い指が頬を包む。
「此処で、死んでくれ、リン」
破片を引こうとした手が震えた。
「ねぇ、ならば、何故」
あなたは、泣いているの?
きっと出会ってはならなかったのだ。
レンは破片を落とした。
彼の手が、頬に、触れた。
重ねた唇は、熱を持ってじわりと溶けた。
Mirrored【小説版】
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リンレン作品です。
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