「あ……乗り遅れた…」

最悪だ。今の電車を逃したら、また少し待つようになる。
今日は運が悪いみたいだ。
溜め息が出そうになった瞬間、内側から何かが刺してくるような頭痛がした。
思わず頭に手を当てると、

『明日は雨が降るよ。』

急に耳元で声のような音が聞こえた。

「誰…?」

呟いて周りを見渡す。
誰もその声が聞こえていないかのように視線を下に向けている。

「…気のせい、か。……耳鳴りだったのか?」

耳鳴りにしてはハッキリとした言葉が聞こえた。
まるで啓示のような何か…
考えているうちに、待っていた電車が来た。

「まぁ…気にしてても仕方ないか。」

僕は考えることを止めて電車に乗り込んだ。













「今日は、一日快晴でしょう。」

髪の長い女の人が図を使いながら、変なマスコットと一緒に今日の天気を説明していた。
天気予報を聞きながら、昨日のことをふと思い出した。

「そういえば、『雨が降る』って言ってたよな…」

でも、テレビ画面には晴れのマークが映っている。
少し考えて、

「よし、傘持って行くか。」

ちょっとした好奇心で、昨日の声を信じてみることにした。






毎朝乗るバスの中にも電車の中にも傘を持っている人はいなかった。
昨日の声は、僕にしか聞こえていなかったってことか?
でも、これで雨が降らなかったら昨日の声は何だろう?幻聴?……病院行き決定だな…











「嘘だろ…?」

放課後に校舎を出ると、雨が降っていた。
しかも、まるでバケツをひっくり返したような大雨。

「うわぁ…天気予報外れてるじゃん。」

「傘なんて持ってきてないよ…」

周りから不満気な声が聞こえる。
そんな中で、僕は少し得意気な気持ちになった。
それと同時に確信した。
あの時の声はきっと“未来予知”。
誰も知らない、僕だけが知っている“未来”。








『明日はバスに乗るな。事故があるから。』


次の日、バスは横転事故を起こした。
バスに乗っていた友達も運転手も皆巻き込まれた。
でも、僕は大丈夫。
あの声のおかげでバスに乗らなかったから。












これから、どんな事があっても大丈夫。
僕にだけ聞こえる未来予知がある。
僕は何の危険も無い最適な温度で生きていく。

―イカサマライフゲイム
雁首そろえたジョーカーは嗤う。
やがて可能性は消え去った。


















『明日デートに行くな。』

ポツリと声が聞こえた。
今までと何かが違う声に寒気がした。

「――何でだよ…」

しかし、声はもう聞こえない。
未来予知だけを残し消える、今までと変わらないこと。
それでも、少し腹が立って手元にあった小さな箱を叩きつけるように投げた。

「くそっ…!!」

未来予知は一度も外れたことが無い、本当のこと。
腹が立っても、僕は未来予知を信じるしかない。
携帯を手に取り、彼女に連絡しようとした時ふと気づいた。
さっき投げてしまった箱は、明日彼女にプレゼントしようとした物が入っていた。

「はぁ…どうせなら、全部あの声が教えてくればいいのに。」

そうすれば、こんなミスしなかったのに。
そんなことを考えながら彼女に電話をする。
3回コールが鳴った後に彼女の声が聞こえた。

『こんばんは、グミヤ!!どうしたの?』

「えっと…あの、実は…明日急に用事が出来て映画一緒に見に行けなくなったんだ。…ごめん。」

『えっ!?……約束したのに。』

泣きそうな声。
電話越しでも、彼女の落ち込んでいる姿が想像できた。

「……本当にごめん。」

『私、楽しみにしてたんだよ?』

「来週、一緒に行こう。」

『…………うん。』

「じゃあ、またな。」

最後にそう言って電話を切った。
これできっと大丈夫。











「何で……?」

誰かが言っていた。

『あの子は、独りで帰りのホームから足を滑らせ―――』

そんなの知らなかった。
だって、あの声は何も言ってなかったじゃないか。

それでも……未来予知は訪れる。

―イカサマライフゲイム
雁首揃えたジョーカーは嗤う。
やがて、感情は消え去った。
導きのままに生きていく。












気づいてしまった。
“未来予知”に隠れた代償。
笑うことも泣くこともなくなった自分の心。
突然消えた愛した人。
楽しみも不安もない日常。
たくさんの大切な物を失った。

でも、もうあの頃には戻れない。
さよなら、愛しき日々。
――戻れないのは、僕だけでいい。





















目を覚ますと、部屋に黒い服を着た女の子が立っていた。

「――お前、誰だ?」

目の前に立った女の子は、僕の質問には答えずに微笑みながら、

『明日君はどう頑張っちゃっても死にますよ。』

と、いつも聞いていた“あの声”で僕に最後の通達―未来予知―を告げた。
女の子は嗤いながら、消えていった。

「………あぁ、死ぬのか。」

呟いた自分の声がゆっくりと、頭の中を回っていく。

どうしても死んじゃうのかな?
もう、どうしようもないのかな?
何で死ぬんだろう?
やっぱり、苦しいのかな?

たくさんの疑問が浮かんでくる。
久しぶりの不安と感情。
大切な物が帰ってきた。

「お帰り、感情。」

死ぬほどの不安が愛しくて、僕は嗤う。

これは、イカサマライフゲイム。
ジョーカーを引いたら終わり。
たくさんの代償と引き換えに手に入れる未来。
それは、きっと――――――


「明日雨は降るかな?」











ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

イカサマライフゲイム

『イカサマライフゲイム』の自己解釈です。
途中まで書いていたのを一気に書きました。
一部夜中テンションで書いたやつがあるから、ちょっと危険かもしれないww

閲覧数:380

投稿日:2012/06/24 19:41:48

文字数:2,344文字

カテゴリ:小説

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  • 禀菟

    禀菟

    ご意見・ご感想

    おぉかっけぇ!!
    彼女さんかわいそすぎる…(泣)
    デート断られた上に死ぬなんて…泣きっ面に蜂だ!!

    あ、ラブストーリーは突然に夏よろしくね!

    2012/06/24 23:40:26

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