桜
私は今日、入籍した。
相手は、大手企業に務めている若い人だった。
若いのにしっかり者で、人柄も良く、
なんでも気が利く人だった。
プロポーズは、海が一望できる海辺の街でされた。
無理を言わず、昔ながらの亭主関白という訳でもなく、家事も文句一つ漏らさず卒なくこなし、
私に、理想の夫像を見せてくれた。
ことある事に、素直に褒めてくれた。
私の無理な我儘も全部受け入れてくれた。
裁縫が得意な彼は、暇さえあれば編み物をして、
出来上がる度にプレゼントしてくれた。
夫婦生活でストレスになる事はあまり無かった。
彼は、私のルールに忠実だった。
飲み会も滅多に参加しないし、煙草も吸わないし、
悪態もつかないし、浮気もしなかった。
周りからは仮面夫婦だとか、妬まれることが多かったけれど、彼のお陰でさほど気にならなかった。
そして、結婚一年目の秋に、
彼に出世したことを告げられ、
記念祝いとして数万円もする綺麗なイヤリングをプレゼントしてくれた。
翌年の夏頃、子供を一人産んだ。
元気のいい女の子だった。
子供の名前は、恵美にした。
育児の事は、彼と二人で相談して、
細かく役割を分担しようと決めた。
彼も、私の意見に同意してくれた。
彼との夜の営みも一段と激しくなった。
日が経つにつれ、彼の顔立ちも綺麗になった。
肌のケアや、普段の態度にも気を使っているようだった。
それから半年後。
私達家族は、温泉旅行に出かけた。
向かった先は、京都で人気の観光地だった。
私達は、和気あいあいと観光を楽しんだ。
社長に就任した彼は、いつも以上に気前が良く、
家族サービスも怠らなかった。
その年に行われた夏祭りにも行った。
私は、彼と娘と共に浴衣を拵えて外へ出た。
天気も良く、祭り会場も賑わいを見せていた。
彼は娘に、射的を教えた。
彼は、なんでも器用にこなすので、
娘も彼を好いていた。
空高く舞い上がる花火を見上げながら、
また三人で一緒に来ようと彼は呟いた。
……………………………
そして、私の誕生日。
私と彼は、高層ビルの最上階にある高級レストランでディナーを楽しんだ。
ディナーでは、ローストビーフを食べた。
デザートに、レアチーズケーキが出てきて、
これもまた絶品であった。
娘は、友達の家に泊まっていた。
だから、食事が終わると同時に二人でホテルへ向かった。
誕生日プレゼントとして、
レディースの腕時計を貰った。
君ともっと素敵な時間を過ごしたい。
生まれてきてくれてありがとうと、
彼は言ってくれた。
そして、夢のような一夜を過ごした。
………………………………
私達は歳を重ね、娘は大学を無事に卒業し、
彼の勤めている企業に就職した。
娘は職場の同僚と結婚し、親元を離れていった。
家では、また彼と二人きりになった。
昔に戻ろう。
彼はそう言い、私をそっと抱き寄せた。
END
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