『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:29
「よっし、コレで終わりか」
櫂人は寮の自室で引っ越しの準備を終えた。その時ちょうど携帯が鳴り取ると、
『もしもし、櫂人? 』
「何だメイか。どうした」
『いや確か今日退寮する日でしょう? 』
「あぁ、そういえばおまえもだったな」
『そう、それでね。ワタシ留佳達と学校で待ち合わせしてるんだけど、もし良かったら一緒に顔出さない? 』
誘いを受け、櫂人は電話を切ると荷物を持って寮を出た。此処も今日が最後だと思うと、つい振り返ってしまう自分に、櫂人は思わず笑みを浮かべた。坂を下り学校ヘを足を運んでいると、途中で留佳と拍と行き会い、
「あれ、櫂人先輩」
「何だ、お前も来たのか」
「メイに呼ばれてな。そういやぁ今日からだったか、おまえ達が女子会すんの」
「Yeah. お前も混じるか。何の問題も無いぞ」
「遠慮する」
「何だ。あの時のチャイナは似合ってたぞ」
「思い出させるなよっ! 」
拍が横でそのやり取りを笑いながら見守る。3人は揃って部室を目指して再び歩き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「あ、ちょっ! 拍先輩っ助けて!!! 」
部室に入った瞬間、飛び込んできたのは漣の悲鳴だった。
「きゃっはははー★ 未来せんぱぁーーーっい、手伝うー! 」
「っしゃぁー! 凛ちゃん横からそいつ捕まえろぉおぉーーー! 」
「いぃーーーやぁーーーだぁーーー!!! 」
既視感を感じる光景。未来が部長権限だと言って凛を味方に漣の捏造写真を撮ろうと躍起になっていたらしい。凛の手にはセーラー服が握られていた。
「Wao♪ 私も手伝うぞ! 」
「・・・変わんねぇな」
「~っ、ちょっバカイトぉおぉ! 止めろよ、先輩っ!! 」
「言ってることが無茶苦茶んなってるぞ。つかそれ言った後で助け求めるとかナシだろ」
「頼むっ、お願いしますっ、助けてくださいお願い!?! 」
漣の必死な形相にさすがに櫂人は哀れに思ったのか、3人を止めに入る。拍も手伝って未来と凛を宥めていた。
「こんにち、は・・・って、何これ? 」
その時久美が顔を出す。後ろには岳歩も続いていた。
「此処はいつでもお祭り騒ぎだな」
その手には近くの和菓子屋の紙袋があった。今日部員が揃うことを久美から聴いていたらしく、岳歩が気を利かせて買ってきたのだ。
「メイはまだ来てないのか」
「来てないみたい。あ、岳兄ちゃん、それ頂戴」
「先生な。ほれ」
そういって岳歩が久美に紙袋を渡すと拍の所へ駆けていった。2人でお茶の準備をし始める。漣がどうにか未来達の魔の手から逃れ、近くの椅子でぐったりとしていた。岳歩が近付いて櫂人に詳しいことを聴いている。
「ちぇーっ、漣のケェーッチ」
凛が漣の後ろから抱きつきながら苦情をだだもらしている。未来は懲りずのその様子をカメラにおさめていた。
「ごめーん、お待たせ」
そこにやっと芽衣子が現れて、部室はいつものジャマ研の姿を見せた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
留佳が櫂人と芽衣子が電話で連絡したのを知り、何故一緒に来なかったのかと投げかけた。芽衣子は退寮の際に後輩達に別れを惜しまれて少し話し込んでしまったとのことだった。なのでメールで櫂人に先へいく様連絡したのである。拍と久美が準備したお茶と和菓子が運ばれてきたところで全員近場の椅子に座った。
「お、桜餅」
「苺大福もある~」
「よもぎもあるよー」
留佳と双子が中身ではしゃぐ中、芽衣子が拍と久美を手伝ってお茶を配り始めた。まだ桜が咲いてない時期に花見気分でと未来が音頭をとっていつも通りのお茶会が始まる。
「あっ、今日良い物持ってきたんですよー♪ 」
そういって未来がおもむろにプロジェクターの準備をし始めた。プロジェクターはどうも映研からぶんどってきたらしい。ディスクをセットしてカーテンを閉めると再生ボタンを押した。
「うわぁー、なーつかしー」
最初に映ったのは
夏祭りの時の写真だった。スライド動画で進んでいくそれは、その時に使われた曲と一緒に流れていく。
「この時のおじいさん達、好い人達でしたね」
「たくさん貢ぎ物ももらったしな」
「留佳、せめて頂いたって言いなさいよ」
スライドは進んで普段の部活動の様子から学祭へと進んでいく。部活動の一環で作ったオリジナル曲『依存少女サタデーナイト』は岳歩が未来に渡されたデジカメの動画機能で撮られていて唯一の映像で残されていた。
「やっぱデジカメだと画像が少し粗いか・・・」
「未来ちゃん、あまり無茶はしちゃ駄目だよ~」
「大丈夫よ、拍っ。今度からはちゃんとハンディ使うからっ! 」
そういった問題でもないんだがと、横で漣が冷静に声を出さずに突っ込みを入れた。映像は進む。
「クリスマスもあーれはもうただの乱闘だよな」
「え、どちらかというと節分バレンタインの方が凄かったんじゃ? 」
凛と漣が最前列を陣取ってスライドを眺めながら呟く。久美が横から、
「でもあの時漣からもらったの美味しかったよ」
「・・・ドーモ。また何かあったら持ってくるや」
「やったっ。楽しみー♪ 」
そんな温かい光景を後ろから眺める3年達、それを台無しにする未来のシャッター音が隣から響く。
「お、これこの間のセッションじゃないか」
留佳が声を上げて映像に魅入る、それは卒業式に皆でやったセッションだった。
「へぇ、よく撮れてるじゃない」
「オレの腕がいいんだろう」
「先生、少しは謙遜しませんか? 」
「コレでも十分謙虚なんだがなぁ」
芽衣子が呆れてモノも言えなくなっている。曲に合わせて映像は終わった。すると凛の思い付きで、
「ねーねー、留佳先輩。折角だもん、最後に何かしよーよー! 」
「あ、いいね! ならセッションしましょうよ」
「ならグミッちゃん、また歌ってよ。学祭のやろーぜ、学祭の」
1年達が息巻く様に盛り上がる。つられてその場の全員が立ち上がり、各々が楽器を手にし始めた。
「で、オレは相変わらず撮影係なんだな」
「よろしくです!!! 」
未来に勢いよく押し付けられたカメラで岳歩は録画ボタンを押す。いつもの櫂人の合図でこのメンバーでの最後のセッションが始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
久美の歌が窓から零れて響いていく。学校に来ていた生徒達が足を止めて何処からか流れてくるその声に耳を澄まして立ち止まった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃっ、これで本当に最後ね」
「いーやーだーっ、めーちゃん先輩~~~っ! 」
「大丈夫だ。後で私の家で思う存分 hug するといいぞ」
「そーするーっ! 」
この後の女子会の相談をする中に未来の姿だけが無かった。拍が言うには、事前に裏で流していた噂の即売会を某所で行なうという。その為に未来は一足早く部室を去って行った。
「あれは部長だという自覚以前に俺達との別れを惜しむという概念も無いな」
「まぁそこが未来ちゃんらしいんですけど」
拍が困った顔をして笑う。さすがに櫂人もいつも通りの感じに諦めた笑いしか出ない。
「あ、ワタシちょっと職員室に用があるのよ。留佳、皆と先行ってて」
「OK. 迷ったらメールしろよ」
「解ったわ、有難う」
「じゃぁ、めーちゃん先輩後でねぇ~」
「はいはい。凛もちゃんと前見て歩きなさいよ」
同じく職員室に戻っていく岳歩と一緒に芽衣子はその場を去って行く。
「・・・あ、そうだ。バカイトになすり付けよと思ってた失敗クッキー部室に忘れた」
「漣、それは一応餞別のつもりか」
「まぁどうでもいいか。グミッちゃん、ボク凛と留佳先輩の荷物持ちで忙しいからちょっと頼んでもいい? 」
「え、あぁうん。別に構わないけど」
「おまえな。俺のって言うなら俺が行くよ。グミは留佳達と一緒に行きな」
「いいですよ、別に。それにあたしも忘れ物しちゃって、今度部室行った時に取りに行こうかなって思ってたんで。ついでだし行ってきますよ」
「なら一緒に行くか、さすがに悪いしな」
漣が見送る中、櫂人と久美は部室へと戻っていった。
「漣のバーカ、お人好しぃ~~~」
「そんな gentle な漣にお望み通り荷物持ちをさせてやろう」
「やだよ。ボクはちょっと寄る所があるから後は先輩達に凛の世話を任せますよー」
「漣君、何処か行くの? 」
「いや、そんな大したことでもないですけど。拍先輩も・・・この2人の世話・・・まぁ、疲れない様に」
「あ、有難う・・・」
そういって漣は久美達が去って行った方向へと歩いていった。
「何か約束でもあったんでしょうか」
「「・・・」」
きょとんとする拍の横で留佳と凛は顔をあわせて意味ありげな笑みを浮かべていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
櫂人と久美は部室に入ると、それぞれ目的のものを見つけて手に取った。
「それにしても漣のやつ、本当に失敗作ばかり入れてやがるな」
手にしたクッキーはジップロックに詰め込まれていて、コンビニの袋に粗雑に突っ込んであった。
「あはは。でも漣以外と櫂人先輩のこと褒めてますよ」
「それは素直によろこんで受け取っていい類いのものなのか判断が微妙なところだな」
思い出して笑う2人の声が部室に響く。
「じゃぁ行くか。グミも留佳達に早く追い付いた方がいいだろう」
「あ・・・はい」
扉に向かって足を進める櫂人と反して久美の足は止まった。気配が動かないのに気が付いたのか振り返って声をかける。
「どうした? 」
「・・・ぁ、あのっ。あたしっ・・・実は、その。ずっと櫂人先輩のことがっ・・・」
誰も居ない校舎に2人の存在だけが深く浮かび上がって響いた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「先生、これ」
そういって差し出されたのは綺麗に包装された小さな箱だった。
「ん? 何だこれ」
「お返し。先生これと一緒に入れててくれたでしょ」
別の袋に入れて渡されたのはバレンタインの時に芽衣子に貸したCDだった。
「そらどうも」
「それにしても先生もお返し大変なんじゃない? 」
「そこら辺はお前達と一緒だと思うぞ。ちゃんともらう時にお返しは出来ないがと前置いているからな」
「そりゃ返そうにも全員覚えられないもの。櫂人や留佳じゃあるまいし」
「覚えてないのか? 」
此処にも存外頭のいい奴が居たかと芽衣子は1人理不尽を覚えずにはいられなかった。
「・・・何で覚えていられるの」
「さておき。お前、どうすんだ? 」
「ん、何がです? 」
「斉藤だよ。今言っとかねぇと久美が横槍入れるぞ」
さすがの芽衣子もこれには言葉を失った。
「・・・何の話です」
「つか、斉藤のことだから久美はどっちにしたって振られそうだけどな。お前もそう思ってる所あんじゃねぇのか」
痛い所をつかれたらしい。芽衣子は苦い顔をして立ち止まった。
「・・・かといって、ワタシだって範疇外だってことくらい解ってるつもりですけど」
「なら諦めとけ。不毛すぎる想いは結局、行き場無いままナァナァに燻るだけだぞ」
思わなくもない1つの正解に迷っていた心が動くのを感じる。岳歩には下手に隠し立てるのは無理だと判断しての芽衣子の発言だった。
「そう簡単にいくようなら、ここまで長いこと片想いなんてしませんよ」
「なら塗り潰しちまえばいいじゃねぇか」
少し泣きそうな表情を浮かべる芽衣子は訳が解らないといった感じで岳歩を見やった、瞬間隣から近付く手の中に身体が埋もれる感覚を覚えた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
校門を出た所で久美は櫂人と別れた。その背を見送った後、久美は留佳達の後を追って歩き出す。
「グミッちゃん」
声をかけられて眼を向けた先に居たのは漣だった。
「漣、どうしたの? 荷物持ちで一緒に行ったはずじゃ」
「面倒だから逃げた」
「あっは、何ソレ」
笑う久美に漣はおもむろに頭を撫で始めた。
「え、あ、何。どうしたの? 」
「いや、別に」
「はは・・・漣、変なの・・・」
気付いた時には久美は声を殺して俯いた。その間、漣は黙ってずっとそうして宥めていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
少し落ち着いた所で久美は漣にお礼を言った。漣も何も言わずにただぶっきらぼうに返した。するとちょうどそこに芽衣子が早足でこっちに向かってくるの見掛けて声をかける。
「めーちゃん先輩! 」
「ふわぁっ!? へ、あ、あぁっ、2人とも。どうしたの!? 」
「え、あ、いや・・・。先輩こそどうしたの? 」
一方は泣きはらして赤い眼をしていて、もう一方はタコの様に顔を真っ赤にしていた。
「いやっ・・・何も・・・」
声が裏返ってることに気付きもしないくらいの動揺ぶりにさすがの久美も心配して少し冷静さを取り戻した。とにかく3人は留佳達の後に追い付こうとその場から移動した。その光景を遠くの窓から眺めている人物がいる。
「あれ、荒巻先生。こんな所でどうしたんですか」
「や、どうも。氷川先生もお疲れ様です」
「そういえばさっき芭桐さんが受験の報告に来てくれましたよ。何やら凄く動揺してたみたいですけど、すべり止めでも受かったことで安心したんですかねぇ」
岳歩は何も返さなかった。原因は解り切っているからだ。
「それにしても寂しくなりますね」
「いやぁ。まだまだこれから賑やかしくなると思いますよ」
「ん? あぁ、そちらは石川さんが居ましたっけ」
笑いながら氷川が返す。窓の向こうではちょうど久美達が角に曲がって姿が見えなくなった。
「えぇ、まだこれからですよ」
岳歩は1人、意味ありげな笑みを浮かべてそれを見送る。校門に並ぶ桜の木からは次を告げる花が誰にも気付かれない様にその姿を一輪見せていた。
the end.
『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:29
原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです
今回ばかりは誤字脱字よりも何よりも画面の前で祈ったこと
「頼むから文字数足りてくれっ!!! 」
有難いことに足りた、よかったっっっ
私のワガママにより前回の最終回フェイントからの最終回
雰囲気的には前回のものを最終回にした方が絶対に良いとは思ったのですが
・・・どうしてもね、これが書きたかったのね
えぇ、ワガママで出来たラストですwww
巧く書き続けられたかは解りませんが、もし見て下さっていた方々からしてどうであれ、楽しんで頂けていたら幸いです。
この企画のお話を最初に下さった七指さんには本当に感謝しております。
ここまで続けて書いたことは自分でもなかったのでいい経験になりました!
これを区切りにまた加筆修正したものに関しましては、原案者である七指さんにお渡し出来ればといった現状です。
拙いながら続けさせて頂きましたこのシリーズ
お付き合い下さいました皆々様に心からの感謝を込めて。
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じん
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I dont think i would be able to hide anymore
Falling in love with, just you
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木のひこ
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