【A】
陽光の差す緑の丘で
あなたは少し息を弾ませて
黄金色の画布に筆を踊らせ
大きく輝く虹を描いた
【B】
その幻想的な油絵が表す
見たこともない鮮やかな彩りは
わたしを何度も鋭く穿ち
色の数だけ深い傷をつける
【サビ】
色褪せた自画像に少し黒を挿し
「ホンモノのわたし」と題してみたけど
あなたは極彩色の虹を足し
愛と名付けた額縁に収めた
その強い執着にも似た憧憬は
本物のわたしの姿を隠す
桃色の泥濘にひとり揺蕩う
わたしはただの灰色の生物
--------
【A】
夕日が照らす緋色の海辺で
あなたはひとつため息をついて
白銀のオルガンに指を走らせ
美しく響く讃歌を弾いた
【B】
その魅惑的な調べが奏でる
初めて聴いた佳麗な旋律は
わたしを何度も激しく揺さぶり
音の数だけ深く傷を抉る
【サビ】
古ぼけた五線譜に休符だけ置き
「ホンモノのわたし」と題してみたけど
あなたは荘厳な讃歌を書き
愛と名付けた楽章を綴った
その強い偏執を孕んだ陶酔は
本物のわたしの姿を歪める
狂疾な鼓動に合わせて踊る
わたしはただの無機質な人形
--------
【C】
夕闇が水平線を覆う頃
あなたは昇る月を追っていった
ひとり残されたわたしの肩に
色のない雨が静かに落ちる
--------
【サビ】
残された台本の台詞を並べて
「ホンモノのわたし」を演じてみたけど
それを見る者はもう誰もおらず
名も無い劇の幕は閉じた
不揃いな思いを含んだ残光は
「ホンモノのわたし」の影だけ残す
プリズムのように眩く煌めく
それは二度と開かぬアルバム
星光照らす夜道に駆け出す
わたしはただのひとりのわたし
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