『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:23


12月24日、クリスマスイブ。
世間ではお祭りモード一色の中、3年生達は酷くシビアなことを考えていた。
「だから、誰も彼もがおまえみたいな自信家じゃないんだよ」
「だったら何だ? 大体それをお前が言うのか。お前こそ私以上の自信家じゃないか」
「おまえの頭の中には謙遜とか謙虚という言葉はないのか、それこそ何処ぞの機関に検挙されてしまえ」
「巧いこと言うな~。櫂人、おまえそれに磨きかけたらホストいけるぞ、ホスト」
そんな応酬が続くこと30分。芽衣子が口を開かなくなってから15分程が経過していた。事の発端は受験の話をしていた時に遡る。芽衣子の進路の話をしていた筈が、何故か横道にずれにずれ、なし崩し的に櫂人と留佳の口論に発展したのである。担任と相談した結果、芽衣子は学科はバラバラだが、幾つかの大学と専門学校を受けるだけ受ける事に決めた。櫂人と留佳は最初から志望校がはっきりしていたので滑り止めの事は気にもかけていなかった。それだけ受かる事に何の懸念も抱いていないらしい。だがそれ故にこの口論が生まれたといっても過言ではない。
「・・・話を振っておいて何なんだけど、そろそろ止めにしない? 」
「「引き下がれるかよ! 」」
口論はそこから全く関係のない議題で更に30分続いた。

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「そういや久美から話聴いてるか? 」
やっと一段落ついて3人はベンチに座って、缶コーヒーを啜っていた。
「あぁ、あれでしょう? 今日の14時に部室に集合っていう」
「まぁ大体想像付くけどな、今の俺らにゃそんなこと思い付く余裕もねぇし」
さっきまで受験どうこうと揉めていた者の発言とは思えない台詞が出たりもしたが、未来が中心になって週末休みの今日部員全員が部室に集合との連絡が回って来たのだ。冬休みに入ると櫂人が地元に帰ってしまう事もあり、それを考えての事だろうと3年達は推察した。
「それにしても、引退したってぇのにワタシ達よく部室に顔出してるわよねぇ」
芽衣子が呟いた。文化祭と期末テストが終わった後の部活動で正式に3年達は引退した。そして新部長には未来が付いた。副部長は2年の拍だと思われたが、選ばれたのは漣だった。というのも消去法なのだが、拍では未来の暴走を止めきれない事が理由の1つだった。それ以来も何とはなしに3年達は部室によく顔を出した。今まで日常だった事が急に無くなると感覚がおかしく感じる事もあって、気が付くと足が向いていることの方が多い。
「それだけ私達にとっては当たり前だったんだろう、何より私が貢献した事が多すぎて讃えて欲しいくらいだ」
「それは認めるが後世にまでそれを求めてどうする」
「伝説にするには語り継がれる事が条件なんだぞ、知らんのか」
「知ってるが継ぎたくはないな」
2人が言い合いになる前に止めると、芽衣子は立ち上がって近くのゴミ箱に缶を捨てに行った。
「ほら、そろそろ行くわよ。折角なんだから今日は後輩達に甘えましょう」
それに続いて2人もベンチを離れると連れ立って学校へと足を進めた。

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その頃部室では、
「ガッポイ~っ、だからそこじゃねぇっつってんじゃん! 」
「知るか。だったら自分でやれよ」
「何ソレ嫌味? それが出来たら頼まないよ」
漣は自分の手の届かないところへの飾り付けを岳歩に頼んでいた。後ろでは拍と凛がパーティーの準備を進めている。未来と久美は食べ物の買い出しに行ったきり。そろそろ戻ってくるだろうと当たりをつけて部室では時間に間に合う様に各々作業を続けていた。
「でも未来先輩、何で買い出し行ったんだろう? 」
「そうよねぇ。必要なものとか朝のうちに買い出して、足りないモノは無かった筈なんだけど」
「そういや此処に来た時に何でかしらねぇけどオレ採寸されたぞ」
「ボクもだよ」
言葉にした拍子にその場の全員がサァっと血の気が引いていくのを感じた。
「・・・おい、まさか。今日はオレも巻き込まれるんじゃあるまいな? 」
「知らないよソンナコト」
皆の脳裏に思い出されたのは春の仮装セッションテストの光景だった。
「たっだいまーーーっ! 」
その時、勢いよく開いた扉から未来が部室に入って来た。その場の全員がビクッと身体を竦ませたが未来はそれを見て訳の解らない様な顔をして見せた。
「ただいま~。あ、準備進んでるね」
何も知らずに久美が後に続き、皆の様子に気付いて尋ねたが、何でも無いと躱された。
時計を見るとすでに13時半を過ぎている。3年生達の事を考えると15分前には部室に顔を見せるだろう事を考え、そこからは全員で急ぎ準備を進めていった。時間は流れ、予想したよりも5分遅れて3年生達が部室に現れた頃には、部室は見事なクリスマスパーティー会場に変わっていた。

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『『 Merry christmas !!! 』』
紙コップのジュースで乾杯。そこからパーティはスタートした。
「やっぱりこういうことだったのね」
「めーちゃん先輩気付いてたの~」
「そりゃぁね。未来が言い出したって聴いてたから多分そういう事なんだろうなぁって」
「アタシも色々やったんだよーっ」
「はいはい、解ってるわよ。それにしても頑張ったわねぇ、この飾り付け。凛は何したの? 」
凛と芽衣子が話に花を咲かせている横で、留佳が久美にセクハラ紛いのハグ&キスを繰り返していた。
「あ、あのぉ止めなくていいんでしょうか・・・」
「放っとけ、吾妻。今止めたら石川のいいカモにされるぞ」
その言葉通り、その光景を嬉々として撮り続けている未来がいた。遠目に櫂人と漣がいつ止めるか考えている様子が伺えたが、さすがに己の身が可愛いのか手を出し切れずに見守っているのが現状だった。その光景を見ながら結局先程までの未来の採寸が何の問題も無く杞憂に済みそうだと岳歩は一人胸を撫で下ろしていた。
「おぉ、そうだ。未来、先日の件はどうなったのだ? 」
「あぁあれですか? むーろーんー♪ 」
抜かりは無いと言わんばかりに未来は教室の隅に隠していた段ボールを2箱担ぎ込んで来た。その瞬間、櫂人と漣は何かを察したらしく、既に逃げる態勢になっている。他にも何人か気付いたらしく、はしゃぐ未来と留佳をよそに空気はかなり張り詰めたものになっていた。
「じゃじゃーーーっん、今日だけ地味に遊んじゃえクリスマスバーーージョーーーン!!! 」
「「「どこが地味だよ!!? 」」」
男性陣全会一致の叫びが木霊した。未来が段ボールから開き出したのはサンタのコスプレ衣装だったからだ。
「ワ、ワタシは嫌よっ! 」
ガタッと椅子から立ち上がろうとした芽衣子だったが、後ろから凛に抱きつかれていて上手く逃げ切れず、その場でたたらを踏む感じになっている。それもそのはず、この企画の首謀者は未来・留佳・凛だったからだ。
「・・・おい漣。お前姉弟だろ、止めとけよ」
「それで止まる様ならボクだって苦労しないよ。櫂人先輩こそ留佳先輩どうにかしてよ」
「あれをどう御(ぎょ)せというんだ。俺は危ない橋は渡りたくない」
前回の事もあり、半ば逃げ切れないと解っているだけ、その場の全員が瞬間すでに色々諦めていた。

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「・・・~~~っだから、何でボクがこんななんだよーーーっ!!? 」
叫ぶ先にはミニスカサンタな漣がいた。その横で凛がお揃いのサンタ服を来て漣に抱きついていた。
「暖房付けてるっていったって寒いのよっ、それに何でワタシがっ!? 」
漣と同じく叫んでいたのは芽衣子、タートルネック型のヘソ出し・袖無しのコスチュームにミニスカート。拍は同じくミニスカートだが上はボタンで前を止める型のネックシャツだった。
「いんにゃぁ~、だぁーってぇ~。受験前の息抜きって必要じゃないですかぁ~」
「「こんな息抜きは要らないっ」」
「お前達は相変わらず頭が固いな。もう少し私みたいに人生を楽しんでみたまえよ」
「誰もアンタや櫂人みたいに図太くないのよっ」
「俺もかよっ!? つうか留佳、お前いつからこの案件に絡んでやがった」
櫂人はというと、未来の一存により男のサンタ服はつまらないとの事でトナカイのかぶり物を付けさせられていた。比較的着るものではなく、前のチャイナ服よりはマシだと思ったため、今回は素直にかぶった。久美はというと岳歩の後ろに隠れる様にして袖無しのタートルネックにショートパンツのサンタコスチュームに身を包んでいる。対する岳歩は物凄く苦い顔をして男性用のサンタ服の格好で椅子に座っていた。
「先生先生。留佳先輩と一緒にこのポーズして下さい! 」
「嫌だ」
「即答ですね。バラしますよ」
「ちゃんと払うもん払ってるだろう、守秘義務守れよジャーナリスト」
「利用出来るものは利用してこそのジャーナリズムですよ」
結局最終的には新聞紙を大量に詰めた白い袋を持たされて留佳との2ショットを激写されていた。撮られた写真を横から双子が覗いていたが、何処からどう見てもドSサンタが2人並んでいる様にしか見えない。
その時ふと曲が流れてきた。付けっぱなしにしていたラジオからのものだった。この時期特有のクリスマスナンバーをジャンル別紹介しているらしく、流れて来たのはレゲェのクリスマスナンバーでPeter Broggs『Twelve Days of Christmas』緩やかながら明るさの垣間見えるメロディで、今の状況を緩和するには十分すぎる効果があった。
「・・・まぁ、クリスマスだしね」
「・・・だな」
最初に妥協したのは櫂人と芽衣子だった。その言葉を皮切りにパーティはいつものジャマ研の雰囲気を取り戻し、時間は楽しく過ぎていった。

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その後、未来の注文を嫌がりながらも渋々受ける3年(留佳を省く)を横目に、双子が岳歩をいじって遊び始めた。それを面白がって久美が写メに撮っていた。その後ろで拍がちょうど留佳に飲み物のおかわりを手渡しているところだった。
「それにしても杜草姉、お前よくこの企画に乗ったな」
「ん~、だって漣のサンタ姿見たかったんだもん」
瞬間ガツンと凛の頭にゲンコツが入れられる。岳歩はイマイチこの双子の上下関係が解らないなぁと眺めつつ、火の付いてないタバコを口で遊ばせている。双子は岳歩から帽子を奪うと櫂人のかぶっているトナカイと交換して岳歩にかぶせた。
「ぷっ。先生何ソレ」
それを見て芽衣子が思わず笑い声を上げた。
「あ、めーちゃん先輩! 私と漣一緒に先生と撮って撮ってー」
そういって凛が自分の携帯を芽衣子に手渡す。芽衣子もよろこんでその携帯を受け取ると3人一緒に写真におさめた。撮られた写メを見て双子はえらくはしゃいでいた。
「・・・おい、杜草弟」
「普通に漣って呼べよガッポイ」
「ガッポイ言うな。割に合わん、オレのも撮れ」
「何でそんなにいつも偉そうなんですか」
「偉いんだよ、お前らよりは幾分かは」
ブゥたれた顔をしながら漣は岳歩の携帯を受け取ると、岳歩に焦点を合わせた。そして凛の横に居る芽衣子を巻き込むとそのまま写真に撮らせた。
「ちょっ、先生なんですか!? 」
「石川を真似てみようと思ってな」
「ワタシが弱み握られる側なんですか」
「他に何がある」
「っていうかコレ何の弱みにもなりませんよね」
「さぁどうだかな。おい、双子。お前達も一緒に映っとけ」
漣から携帯を取り返すと、岳歩は芽衣子と双子の3人ショットを携帯におさめた。

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ラジオからは続けざまにクリスマスナンバーが流れ続けている。曲はクリスマスの代表曲『Wish You A Merry Christmas』が聴こえ始めた。
「っし、そろそろかなぁ~」
そういって未来は別分けしていたバックから何やら取り出して来た。凛と久美に手伝ってもらって3つに分けたそれは綺麗に包装されたプレゼントだった。
「先輩達っ! 」
それぞれのイメージに合わせて色分け包装されたそれらを3年生達に手渡す。思いがけない事に3人は顔を見合わせてそれを受け取った。
「あ、開けてもいい? 」
未来達の了解を得て、芽衣子達は封を開けた。中に入っていたのはアルバムだった。これも3人のイメージに合わせて色別のアルバムにしてあった。
「わぁ・・・凄い量」
「よくこんなに撮ってたな」
「Amazing ♪」
写真は未来が今まで撮りためたやつを皆で選び、現像代は折半で作ったものだった。3人は見進めながら苦笑いをしたり思い出して笑ったりと、凄くうれしそうにアルバムを閉じた。
「お前の悪癖も役に立ったりするんだな」
「何ソレ、櫂人先輩酷ーーーい」
「まぁまぁいいじゃない。それにしても本当凄いわね、これ」
「さすがに私も驚いたぞ」
1・2年達は心底満足そうに微笑んだ。
「おい、石川。カメラ貸せ」
おもむろに岳歩が未来に声をかけた。全員を一カ所に集めると、
「ほーら、撮るぞー」
そう言った瞬間にはシャッターを切っていた。
「ちょっ、岳兄ちゃん。何のポーズもしてないのに撮らないでよ! 」
「グミッちゃんの言う通りだよ~、先生のバカー! 」
「まぁまぁがなるな。それにしても杜草弟、突っ込むのも面倒だったから放ってたが何の違和感も無く似合うな」
自棄になったのか乾いた笑いを浮かべてキラッなポーズを決めていた。
「じゃぁご要望通りに撮るぞー。ほーら、メリー・・・」
『『クリスマーーーッス!!! 』』
ラジオからはまた新しいクリスマスナンバーが流れ始める、それと同じくしてジャマ研に新しい思い出が一枚増えた。

to be continued...

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • オリジナルライセンス

『じゃまけんっ! ~望嘉大付属高校 ジャマイカ音楽研究会~』session:23

原案者:七指P 様
お預かりした設定を元に書かせて頂いております。
拙いながらではありますが、楽しんで頂けたなら幸いです

かなり急ぎで作った感が否めません、本当すみません
それにしてもどうしても私はコイツらを着替えさせて遊びたいらしい
年賀状制作の合間にどえらい勢いで打ち上げた回だったりします
ちなみにその年賀状のせいで別口のボカロネタがまた一つ増えました
挙句この企画ネタが2つ浮かぶ
毎回毎回書きながらすでに次の回の話を同時に構想するのは止めようよ・・・
年末までにまたもう1つ書きたいなぁ、でもそんな余裕があるかはどうかは自分の年賀状制作に全てかかっている
ここ1週間は多分死に物狂いです(やりたいことが多すぎて
1日早いですが Merry Chirstmas ☆

閲覧数:92

投稿日:2012/12/24 20:05:01

文字数:5,671文字

カテゴリ:小説

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