***

201*7月25日午前7時40分。
未来と親父と俺、3人でちゃぶ台を囲みながら朝食をとる。
冷めたトーストを食べながら、氷が溶けて薄くなってしまったコーヒーを口に入れる。

未来は今はただ無表情のままトーストをかじり黙々と口だけを動かしている。
親父は早々に食べ終えると、ニコニコとした笑顔を作ったまま、コーヒーを片手に窓辺に寄りかかり外を眺めていた。
部屋の入口とは反対側にあるその窓はそそこ大きく作られており、高さは立った人間の膝上から頭の先くらいまである。
足を崩しながら寄りかかるとちょうど窓のへりに肘が置ける。
ちなみにベランダはない、錆びた手すりがあるだけだ。

町は不自然なくらいに静かだった。
アパートの近くには交通量がそこそこ多い道路がある。
住宅密集地の中を走るその道はセンターラインがなく、車同士がギリギリすれ違うことができるかどうかというような狭いものだが、抜け道になっていて、朝など、時間帯によっては頻繁に車が通るのだ。
けれど今はその音もあまりしない。

部屋の隅で首を振っている扇風機の風が時おり、体を撫でてくる。
落ち着いてくると、これは現実なんだ、という気持ちがはっきりとしてきていた。
ただ、それを受け入れようとすると思考が止まる。
あまりに現実離れした出来事に、脳が全くついてこない。
他の2人もそうなのか、いつもの騒がしさはなく静かだ。

電源を入れたテレビの画面には『しばらくおまちください』というテロップだけが表示されている。
チャンネルを変えてみても、殆どがこの状態だ。
平日だから、この時間帯は本当は朝の報道・情報番組が流れてなきゃいけないのだけど。
一部、放送されているものもあったが、それは生放送のニュースなどではなく、録画したものを流している番組とかだ。

携帯電話も通じない。
固定電話はないので使えるのかわからない。

ノート型パソコンを出してインターネットも見ていたが、アクセスが集中しているのか繋がりが極端に悪く、利用者が多いと思われるサイトに関しては接続が全く出来ない状況だ。
ブックマークに登録してあった幾つかのものは見れたが、普段と変わったところはなかった。
ニュースを扱うような場所でも、これといった記事は見当たらない。

ただ掲示板などの書き込みが出来るようなところでは、ある同じような言葉が投稿され続けていた。


『突然、少女になった』


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【小説】俺と70億の鏡音リンちゃんと激しく降りそそぐ流星群(9)

ある日、突然、世界中の殆どの人間の容姿が少女(鏡音リンちゃん)になってしまった。
姿も声もDNAも全て同じ、違うのはそれぞれが持つ記憶だけ。

混乱に陥る人間社会の中で、姿が変わらなかった数少ない人間の一人・悟(主人公)は…というお話し。

閲覧数:69

投稿日:2011/08/14 21:16:45

文字数:1,014文字

カテゴリ:小説

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  • 日枝学

    日枝学

    ご意見・ご感想

    お、続き投稿お疲れ様です! 最速で読ませて頂きました(笑
    読んでて思ったのですが、ぶっ飛んだ設定の中でとても現実的な描写が素晴らしいですね! ぶっ飛んでいるだけの作品はよくありますが、ぶっ飛んだ設定の中で現実の人間がその設定を現実に起きたらどうなるのかを書けているのは、面白さが何倍も違うと思います。それが出来ているこれはとても良いと思います!
    こういう描写が出来れば、どんなフィクション作品でも読み手をそのフィクションの中に引きこむことが出来そうで良いですね。
    良かったです! 続き、楽しみにしています。暑い中熱中症にならないよう、適度に無理せず頑張ってください!

    2011/08/14 21:26:12

    • リンちゃんの使い魔

      リンちゃんの使い魔

      あ、メッセージのお返しなんていう機能があったとは…。
      仕組みをいまいち理解せずに、普通に返信してました。

      すいません。

      2011/08/14 22:31:15

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