昼休みに、いつものように3人で教室で昼食を食べていたときだった。
「明日はバレンタインかー」
蓮がバナナジュースの紙パックのストローを口に離してからそう呟いた。
きょとんと呟く僕らに、レンは無邪気な子どものように目をキラキラさせた。
「去年みたいに女子からチョコをたくさん貰ったせいで、グミにあらぬ疑いを掛けられちまったら面倒だよなー、ホント! 非リア共が俺みたいなリア充を『爆発しろ』とか言うけどよ、実質俺みたいなリア充もチョコをたくさん貰いすぎても困るしな」
「そう言ってるわりに嬉しそうだが」
蓮のほぼ自慢に近い愚痴に、目が死にかけている岳がお弁当の箸で蓮を指してツッコミを入れた。
「愛からチョコ貰えるんだから嬉しいに決まってるだろ! 不器用なのにわざわざ手作りでチョコ渡す愛マジ俺の天使!」
ちなみに愛は上記から分かるように蓮の彼女で、ゲームオタクなところが痛いと僕は思うが、蓮曰く「ああああああああああもう愛ってなんであんなに可愛いの! ビビリだけどゲームになると強気になるところとか、マイペースで怒られそうになったときは上目遣い使ってくるとかもう何なの! ネコなの! 天使なの! ああ元から天使だったあああ! そう! 愛はこの地に舞い降りた天使なのさああああああ! 頭を優しく頭撫で回したいそしてずっとここにいさせるようにその羽をもげたいと思う俺はヤンデレなのかああああああああああ! もう愛が天使すぎてイキツラァ」らしい。(ちなみにそのあと岳が愛用のハリセンで蓮の脳天をぶっ叩いた)
「あーハイハイそうですか。とりあえずお前は刺されればいいと思う」
岳は飽きたように再び弁当を食べ始めた。
しかし、蓮の「なんだよ! お前だってるかから貰うんだろ!」という言葉に、「ぶっ」と食べていた卵焼きを噴き出してしまう。
僕が黙って水のペットボトルを差し出すと、岳は「悪ィ……」と言ってそれを勢いよく飲み始めた。
だが、またもや蓮の「あ! るかじゃん!」という言葉に、「ぶはっ」と盛大に噴き出した。
しかもちょうど前にいた僕は、岳の噴射に諸にかかってしまう。
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙が流れる中、一人蓮だけは、教室の床で笑い転げていた。
「アヒャヒャヒャヒャwwwww学校が違うるかがここにいるわけないだろwwwwwwwwヒャーヒャヒャヒャヒャヒャヒャwwwwwwwwもういっそ明日告れば?wwwww『お……俺、お前のことが幼馴染じゃなくて女として好きなんだ』──」
「黙れぇ──っ!」
ついに耐えられなくなったのか、顔を真っ赤にさせた岳がハリセンを取り出し、綺麗に蓮の脳天を「スッパーン!」と叩いた。
僕もとばっちりを受けた恨みで蓮の脇腹を足で踏みつけると、今度こそ蓮は撃沈した。
そして蓮終了のお知らせを知らせるかのように、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったのだった。
*
その日の放課後、僕らはカラオケに行った。
昼休みの事件以降、さすがの蓮もこれに懲りたのか、岳にそれ以上詮索するのをやめた。
ちなみにるかは岳の幼馴染である。
蓮は、岳はるかが好きと断言しているが、その本人が顔を真っ赤にして全否定している。
そんな岳は、誰がドリンクを持ってくる係になるかのジャンケンで負け、只今1階のドリンクバーで僕らのドリンクをいれている。
すなわち2階のこの部屋には、今は僕と蓮しかいない。
4人用のこの部屋は、テレビ側を北、ドア側を南とすると、東と南の壁にコーナー型の赤いソファが置かれており、西は踊れるスペースがある。
蓮はテレビに一番近いところ座り、僕はちょうど東南のソファの真ん中──角のところに座っている。
『いいか海斗ー! 俺の美声に惚れんじゃねーぞ!』
「蓮、うるさい……背丈に見合ったボリュームにしてよ」
『今さらっと暴言吐いただろ!」
蓮はいつにも増してハイテンションだ。
アレか、密室だとテンションがどうにも上がっちゃう体質なのか。
蓮は『フン、今に吠え面かかしてやるぜ!』と曲のスタートボタンを押し、密室内にジャジャジャジャージャージャンと音楽が流れ始めた。
ちょうどそのとき、3人分のドリンクを持った岳が帰ってきた。
「『絶望/性:ヒーロー/治療/薬』か……そういえば蓮ってダン.ガン.ロン.パ好きなんだっけ?」
岳はノリノリで踊っている蓮がさっきまで座っていた場所の前のテーブルにバナナジュースを、僕の前のテーブルにウーロン茶を置き、自分のコーラを僕の左隣──つまりドアに一番近いところに置いて、ようやく席に座った。
「あー……どうりで何か聞いたことあると思った……。僕、あんまりゲームに詳しくないし」
「俺も。まあ、ゲーマーな彼女と一緒にいれば、自然とゲームに詳しくなるだろ」
「確かに……」
「俺は、『赤心性:カマトト荒治療』のほうが好きだけどな」
「僕は『Ba/tt/e/ry』派かな」
「スズム関係ないだろそれ。何でジャニーズなんだ」
『おーい! 次は誰が歌うんだー?』
岳と話しているうちにいつの間に歌い終わったらしい、蓮が『早く歌えよ』とマイクで急かした。
すると岳が「じゃあ俺が歌うわ」とテーブルの上の別のマイクを手に取る。
手馴れた操作で曲を選ぶと、さっきとは違う音楽が流れ始めた。
残念ながら僕が全く知らない曲だったため、テレビ画面を見ると、「ワールズエンドダンスホール」とあった。
歌手の欄に「初音ミク・巡音ルカ」とあるからどうやらボカロらしい。
「マジかよ岳の奴……コレ歌うのか」
僕の右隣でバナナジュースを飲んでいた蓮に訊いてみた。
「ねえ、蓮。コレってどういう曲なの?」
「早口で、しかもかなりの高音で歌わなきゃいけない曲だよ」
「……明らかにそれ岳が歌える奴じゃないよね?」
「でも見てみろよ、余裕で歌ってるぜアイツ……恐ろしいな」
蓮に言われた通り見てみると、確かに岳はいつもなら想像できない高音で、早口で噛まずに歌っていた。
しかも冷や汗一つかいていない。
僕はどうやら岳という人物の認識を改めなければいけないようだ。
岳の歌に圧倒されていると、蓮が「この曲終わったら次海斗だから、先に決めとけよ」と曲を選ぶ機械を手渡してきた。
僕も適当に歌える曲を選び、送信ボタンを押す。
その様子を黙って見ていた蓮が、唐突にこう言ってきた。
「なあ……お前、好きな人とかいないの?」
──機械をテーブルの上に置こうとした僕の手が滑り、機械が「ガンッ」とテーブルの上に落ちた。
「…………」
一瞬壊れたかと思って機械をタップしてみて、フツーに起動することに安堵する。
だが、蓮は俺の一連の行動に、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「へぇ、いるんだ~。ついに海斗にも春が来たっていうことか~。俺は嬉しいぞ!」
「な、何様なんだよ……! 岳が殴りたくなる気持ちがよくわかるわ……!」
「うん、でもホントに殴ろうとするな! それは下手したら殺人になるから!」
機械をぶんと持ち上げるが、ちょうど歌い終わった岳に腕を掴まれとめられてしまう。
僕は仕方なく機械をテーブルの上に戻して殴るのやめると、代わりに岳に泣きついた。
「岳……! 僕、今ホントに蓮が死ねばいいのにって思うんだ!」
「気持ちは分かるが、そんな理由で殺人はやめろよ。俺は蓮なんかのために海斗に人殺しになってほしくない」
「岳……!」
岳のイケメン度に思わず抱きついたそのとき、突然ガチャリとドアが開いて、バイトと思わしき緑髪の女の子が出てきた。
「お待たせしましたー! トロピカルパフェでーす! ……あ」
ピシャリと、僕ら4人は同時に固まった。
どうして頼んでもないパフェが来るのか、そしてよりによって何故このタイミングなのか。
狭い部屋の中で気まずい雰囲気が流れる。
長い沈黙の末、最初に口を開いたのはバイトの女の子だった。
「す、すみません、注文、隣の部屋でしたー!」
蓮が苦笑いを浮かべた。
「そ、そっか。君は新米なのかな? と、とにかく次は気をつけてね!」
「ハイ! それでは失礼しましたー!」
そのまま部屋を出ようとする彼女だったが、直前で僕らのほうを見て、
「お幸せに……」
と恍惚そうな表情で告げると、パタンとドアを完全に閉じた。
何かヤバイことを悟り、僕らは一斉に離れた。
再び気まずい雰囲気が流れる中、僕の選んだ「Ba/tt/e/ry」のイントロが響いた。
*
僕の家は蓮と岳とは反対方向にあるので、途中で二人と別れ、一人で蓮があのとき言っていたことを思い出していた。
「好きな人、かぁ……」
そう呟いたときだった。
「海斗君!」
背後から澄んだ綺麗な声で呼ばれ、僕はドキンと胸が高鳴るのを感じながら後ろを振り向くと、僕より少し背の高い綺麗な女性──芽衣さんがいた。
温かそうなワインレッドのトレンチコートとブラウンのロングブーツの間から見える白い太ももを、恐らく絶対領域と呼ぶのだろう。
でも犬のデフォルトの絵がプリントされたトートバッグを持っているところが少しだけ子どもっぽい。
実際彼女は僕より子どもっぽい性格で、いつもは大人ぶってるくせに時々その表情を見せては、僕を引っ張りまわしているのだ。
僕の家の隣に住んでいる、僕より一個上で音楽大に通うお姉さん──それが芽衣さんなのである。
「芽衣さん、今日は珍しく早いんですね」
「今日は早めに練習が終わったのよ」
芽衣さんはサークルでバンドを組んでいて、そこでギターを担当している。
今は大きな大会に出場するためにメンバー全員で必死に猛練習しているらしい。
そのせいで芽衣さんの帰りがいつも遅いとオバサンが心配してたのを僕は思い出した。
「明日のバレンタインのためにチョコを作りたいので今日は早めに帰りたいですって言ったら即OKされたのよ。私の組んでるバンドって私しか女子がいないから、皆が『俺にチョコくれ』ってせがんできてねー。ホント、女子って大変よねー」
「それじゃあ……そのバッグの中身は全部チョコなんですか?」
「うん。バンドのメンバーにあげるトリュフの材料がね」
そう言って芽衣さんは、僕にトートバッグの中身を見せた。
チョコがざっと数えても20枚はあり、生クリームとココア、卵、グラニュー糖、バター、薄力粉に粉糖があった。
……あれ?
「これ……トリュフだけじゃないですよね? この材料から見て……フォンダンショコラとか?」
すると芽衣さんは「うっ」とリアクションをとった。
「さすが海斗君だね。材料だけで何を作るかわかるなんて」
「まあ、家が料理教室ですから」
「そうだよ。私、トリュフとフォンダンショコラを作るの」
「……フォンダンショコラは誰にあげる予定なんですか?」
「えっ」
僕がそう言った途端、一瞬だけ芽衣さんの頬が真っ赤に染まったのを僕は見逃さなかった。
「えっと……友達よ、友達!」
嘘だ。
さっきの反応から見て、ただの友達ではないことは明らかだ。
だけど僕はそれを言及することが出来なかった。
「と、とにかく! 私、今日はチョコを作らなきゃいけないから……バイバイ!」
「あ……さ、さようなら……」
家が同じ方向にあるのに、どうして先に帰る必要があるのだろうか。
しかし、僕はそれすらも言うことができず、だんだん小さくなる影を黙って見送った。
「……誰にあげるんだろう」
そんなことをどうしても気になってしまうのは──
「……僕、だったらいいのにな」
そんなことありえないと分かっていても、どうしてもそれを期待してしまうのは──
僕が、芽衣さんのことを好きだからなのだろうか。
【カイト誕】フォンダンショコラ【カイメイ】
2ページ目に続きます。
ギリセーフ
兄さん愛してるよ兄さん
忙しいのでここまでしかかけませんスミマセン
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2014/02/18 18:39:52