「あの…コレ、もらってくださいっ!」
差し出されたのは、かわいく綺麗に飾られた小さな箱。
まだいたのか…と、心の中でため息を吐きつつ、
「俺に? ありがとう。」
顔には出さずに笑顔で受け取った。
そう、今日はバレンタインデー。
期待と不安で男女両方が浮足立つ、
年に一度の恋愛デー。
(ま、俺には関係ないけど。)
そんなことを思いながら校門を抜け、
ようやく帰路につく。
今日は早く帰らなくてはいけない日だったのに、
思わぬ足止めをくってしまった。
(やべっ… もうこんな時間かよ…)
約束をしたわけではないが、
たぶんもう来ているだろう。
長年の勘が俺を急かす。
駆け込むように玄関に入ると、
見慣れたローファーが1足。
はやる気持ちを抑え、深呼吸をし、
リビングのドアに手をかけた。
ガチャ
「あ、おかえりーカイト♪」
「…ただいま。」
そこにいたのは、ソファーでくつろぐ制服姿の少女。
「遅かったねー。なに? 告白でもされてたのー?」
「メイコには…関係ないだろ。」
「えー? ふふっ。」
彼女の名はメイコ。
一つ年上のお隣りさん、いわゆる幼なじみだ。
昔から親同士も仲が良かったため、
今でもお互いの家を行き来している。
そしてその彼女が今日、俺の家にいる理由は。
「おい、ひとん家のキッチンで何してたんだよ?」
「もちろんお料理♪
だって今日はカイトの誕生会でしょ?」
そう、俺の誕生会。
いつからか、毎年2月14日にはうちと隣の家族が集まり
みんなでパーティーをするのが恒例行事になっていた。
実際パーティーなんて言えるものでもなく、
“俺の”というほど主役にもなれない。
第一、俺の誕生日は14日ではなく17日だ。
しかし…
“仕事で急がしく、なかなか顔を合わせられない
両家の親が、休みを合わせて仲良く大騒ぎをする日。
一日休みにすればチョコも用意できて一石二鳥!
さらに、俺の誕生会も合わせて一石三鳥!”
という親たちの議論の結果、
気がつけば今までずっとそうしてきた。
でも、今俺はそういう意味で聞いたんじゃない。
「そうじゃなくて…。何か探してたんだろ?
何探してたんだ?」
「え、うそ…。なんでわかったの?」
「なんでって…。なんとなく違う気がしたからな。」
「…ほんとになんとなくだけ?」
「は? まだなんかあんのかよ?」
「いや! ないよ!」
「…意味わかんね。」
今夜は親に付き合って、激しく気力と体力を
消耗するだろうと考え、部屋に戻ろうとドアに手を伸ばす。
「あ、カイト待って!」
突然かけられた声に少し驚きつつも、
立ち止まって振り返る。
「なに?」
「え、いや、えっと…。」
引き止めたくせにその先の言葉が続いて来ない。
いつも、遠慮なんて言葉を知ってるのかと思うくらい
ずけずけとモノを言うコイツには珍しく、
なかなか目が合わないまま沈黙が続く。
「なぁ…」
不思議に思った俺が声をかけようとしたとき。
ガチャ
「「ただいまー!」」
俺の両親がリビングに入ってきた。
「あ…! お帰りなさい! お邪魔してます。」
弾かれたように言葉を口にし、ちらっと俺を見たきり
メイコは母さんと一緒にキッチンに入ってしまった。
(なんだったんだ…?)
疑問を残しつつも、ここにいてもしかたないと
思い直し、部屋に戻った。
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