どうやら、火事の火は消えたらしい。
人々のざわめきで、それが伝わった。
私は、夕食の荷物と、その子を抱え家に向かった。
雪は降り続いている。
家に着くと、荷物とその子をソファーに置いて、急いで暖炉に火をつけた。
暖炉の火が大きく燃え上がり、辺りがオレンジ色に明るくなったその時、
その子は、ビクッと一瞬怯えたようになったが、大きく見開い瞳は、暖炉の上のある物に釘付けになっていた。
その、ある物とは母の形見のカラクリ時計であった。
クマの形の置き時計は、小さい頃の私のお気に入りだった…
3時になるとクマさんが、「おやつはクッキー♪とか、パンケーキ♪とかキャンディ♪」などと、
日替わりでパターンが変わるから、小さい頃の私は、3時が楽しみで、クマさんの声が聞きたくて
背伸びをして暖炉の上から時計を取ろうとして、よく母に叱られたっけ…。
母が亡くなってからは、もう動かないカラクリ時計…
ふと見ると、その子は両手をいっぱいに伸ばし、欲しそうな仕草をしていた。
私は壊れたその時計を、そっと渡した。
すると、その子は両手でクマを抱きしめ、頬擦りしている…!?
(マゴジャ…ワシノ、カワイイ…マゴジャ…)と言いながら…
ああ…なんという…そうなんだ…!!
「キミは、あのおじさんが造った人形なのね!!」
ひと目でこのクマの時計が、おじさんの作った時計だと判るほど…。
どれほど大切にされ可愛いがられたか…
自分のシャツを着せ、毎日のようにその子を抱きしめ、「わしの孫じゃ」と言いながら微笑む
おじさんの姿が、浮かんだ…。
独り身の私には、どれほどおじさんにとって大切な存在だったか痛い程伝わってくる。
涙が止まらない…。つぎつぎ涙が溢れてくる…。
その子の瞳も、頭の雪が溶けて滴が流れ落ちたのか泣いているように見えた。
涙を拭いながら、夕食の支度をしようと立ち上がった時…!!
暖炉の火とその子の千切れた足と焦げたような匂い…
「もしかしたら…」「ああ…もしかしたら…!!」
冷たくなったおじさんの体を温めようと、この子は…。
みよう見真似で自分の足を燃やしたのでは…!ずっと寝込んでいたおじさんの家には、暖炉の薪も無かったのでは…。
人形のこの子に、おじさんの死を理解出来る筈もなく…。
キミも独りぼっちだね…私は思わず、その子を抱きしめていた。強く…強く…。
(マゴジャ…ワシノ…カワイイマゴジャ…)
その子は何度も呟きながら、体を前後に揺らしクマを抱いていた…。
窓の外は雪が降り続いている…。
私は、イブの日を1人で過ごさずに済んだ、ステキなプレゼントを神様とおじさんに感謝した…。
遠くで、教会の鐘の音が響いていた…。
まるで、返事をしてくれたかのように…。
ー おわり ー
「マゴジャ」 最終回
絵本のようになったら良いなぁ…。
人形は小さなレン君をイメージしています。
独り暮らしのお姉さんはルカさんですw
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