「世界の卵……ね」

 神威はにやけて、廊下を初音の方に向かって歩き出す。

「さっさと寄越しなさい」

「なあ、ムーンリット・アート」

「! ……なぜその名前を! あなたには伝えていないはずなのに!!」

「ムーンリットシリーズとは、はじめはひとつの卵だったそうだ」

 神威が言う言葉に、初音は冷や汗を覚える。

「それから初めに『器』が完成した。器は七つのカミを造りあげた。憤怒、傲慢、嫉妬、怠情、強欲、暴食、色欲。これは後の七つの大罪とも呼ばれることで有名なものだ。さらに、器からひとりの男女が誕生した。名前はアダムとイブといい、彼らは楽園とも呼ばれる神の箱庭で平和に暮らしていた。しかし……そんなものが平和へ続くこともなかった。彼らは器を七つのカミの知らない場所へと隠した。……さて、僕の言いたいことは解るかな」

 初音は――もう何も言えなかった。

「……仕方ないね。いってあげよう。ムーンリットシリーズは卵から始まった。そして君はその後継者――、読み姫だ。読み姫ならば――書き手がいてもおかしくないだろう。そして、その卵も」

「ま……さか!」

「おめでとう。ここまでたどり着いたのだな。僕の名前は……ムーンリット・ゼロ。またの名を、ハンプティ・ダンプティと呼ばれているよ。ようこそ、ムーンリット・アート……いや、アリス」


 ◇◇◇


 VYシリーズとカイトが戦っているその頃。

 ルカとレンは作戦会議を開いていた。

「このままだと訳が解らないことになる。話を聞くだけでもいい。とりあえず城に戻るしかないね」

「ところがそうも行かないらしい」

 そう呼び止めるのはレイジンだった。

「レイジン、どうかしたの?」

「それがだな、今シシリアル帝国が要する最強の傭兵『VYシリーズ』がこの街に来ているって情報を得てね」

「VYシリーズが……?! ここはスクヴァトス王国で、なおかつ機械都市よ?! そんなことが可能なの……!!」

「可能なのじゃないか? たぶん城ではお偉方がどうするか裁断なされると思うが」

「……リンがそんな英断できるとは思えないんだけど。まさかカイト兄さんとか来てたりしてないよね」

 レンは呟いて、水を一口飲んだ。

 今、この状態でほんとうにカイトとVYシリーズが戦っているとは……知る由もなかった。


 ◇◇◇


 場所は変わって、再び初音と神威。

「……アリス? なんかのコードネームか何か?」

「君がムーンリットシリーズで一番最後に定義されたからだ。君の他には『三月兎』、『帽子屋』、『ハートの女王』、『ジャバウォック』、『チェシャ猫』、がいる。なに、難しいことではない。この中の数人にも君はあっているし、いずれ会うことにもなるだろう」

 神威は先程から訳の分からないことを言っているからか、さすがの初音もちんぷんかんぷんになっていた。

「……まあ、解らなくてもいい。まずは任務を達成してくれ」

「任務?」

「あれ、聞いてない?」

 神威はすこし焦ったような表情で、初音に訊ねる。

 当然ながら、初音は知らない。

「……解った。僕から言おう。この世界は、どんな世界かってことを」

 神威は不敵な笑みを零して、そう言った。






つづく。

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  • 非営利目的に限ります
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「Quest V」その11

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!

「初音がムーンリット・アートでカミサマかと思っていたが神威が実はその上の存在だった……!」

な……何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった……!
頭がどうにかなりそうだった……。幻書だとか夢オチだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。


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next[2013/01/19予定]

12話までを収録するpixiv版3巻を19日に投稿予定です。

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投稿日:2013/01/15 23:31:18

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カテゴリ:小説

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