次の日、私とネルはヴィータリエ貴族学院に来ていた。
此処は、その名の通り、貴族の通う学校だ。
私は久々に『彼女』会いたくなったというのもあるが、何よりも心配な人物が居るのだ。
「ねえ、ミク様」
「何?ネル」
「此処、私も入って良いんですか?」
ネルは心配そうに言う。
それは当然であろう。ネルは従者だ、他の貴族から見たらネルの存在は目障りなのだろう。
実際、此処に来るまでの道でも通りすがっていく貴族達の目は鋭かった。
「良いよ、私が居るし大丈夫だよ。ネル」
「…はい!ミク様が一緒なら、きっと大丈夫ですね!」
ネルは、笑顔で言った。本当に私と一緒に居るのが好きなんだ。
そして、私達はヴィータリエ貴族学院に入った。
暫く歩いた先の教室から、誰かの声が響いた。
「貴方、私の従者でしょう?何故私に逆らうんですか?」
「だって…リン、貴方は…」
「黙りなさい!貴方が私を呼ぶ時の言い方。前にも言いましたよね?」
「…リン…様…」
「宜しい。で、私のペンのインクが無くなってしまったの。買ってきてくれるかしら?とても綺麗な物にして頂戴ね」
「でも、リン様。ミレイオーン夫人は…」
「主である私の言葉ではなくて、お母様の言葉を貴方は聞くのですか?」
「…」
この会話は、とても私には信じがたかった。
それも、こんな社会のせいであろう。身分なんて、無ければ良いのに。
「(ミク様!何ですかあの人は!)」
「(一応…私の従兄弟…)」
彼女はリン=フィルシア=ミレイオーン。
ショーン家とは血縁のある家系だ。
私と彼女は幼馴染で、昔から仲が良かった。
だが、昔のリンは従者であるハク=オンジャウを大事にしており、とても仲が良かったはずなのだが…。
私が知らないうちに、何かがあったのだろう。
「分かりました…リン…様…」
そう言って、ハクは教室の外へ出て行った。
「全く、従者とありながら主の言葉にたてつくとは、身の程を知りなさい」
ハクが出て行った後にリンは呟く。
この学校は、従者は必ず着いてくるようになっている。
従者の居ない者は居ない。
従者は主の玩具。
従者にとって主の言葉は絶対。
逆らえば処刑される所もある。
こんな社会で良いのだろうか?あの人達の人権はどうなるのだろうか?私はそれが気になってたまらなかった。
私がこんな性格だからなのであろう。学校に居る時は私に従者は居なかった。
学校の人達は最初こそは私を仲間はずれにした。だが偉大なるショーン家の娘は従者など居なくたって何でも出来ると先生は私に言った。
それ以降、周りの人達は私を『優等生』というあだ名で呼んだ。
その通り優等生だったからなのであろう。
私の事を妬む人達も出てきた。だが、その人達は私には敵わなかった
大貴族の娘だからという事だけで、私は社会に無理矢理認めさせられていたのだ。
卒業後、私に初めて従者が出来た。それがネルだったのだ。
「あ、お姉様!」
リンが私に気付いたみたいで、此方へ来た。
咄嗟にネルは私の後ろに隠れた。
ネルはリンを警戒しているようだ。
「リン」
「お姉様、如何したんですか?」
リンは私に尋ねる。
それは、私が数年前に見たリンではなかった。
まるで別人の様だった。
「ちょっと…ね…。すぐに別の所に行くけど…」
「そうですか。なら、私の所へ来ませんか?」
「ちょっと、ミク様は忙しいんですよ!それに、もう宿は取ってあります!」
ネルはリンにイライラしているのか、敵意を向きだしながら言った。
「従者如きが、私に話しかけないでください!」
そう言って、リンはネルの頬をはたいた。
「あら、すみませんお姉様。お見苦しい所を見せてしまって」
リンは笑顔になって言う。
その笑顔は私にとっては怖いものだった。
「リン、さっきの言葉はどういう事…『従者如き』って…」
「あら?その通りの意味ですよ?この世の中では普通ではないですか、従者は主の玩具。従者は主の道具。従者と主が仲良くするなんて、ありえない事なんですよ?そんな事をしていたら皆さんに笑われます」
リンは、これが一般的と言う。普通だと…。
こんなの、社会の方が狂っていると言うのに…。
「リン…昔は、ハクとあんなに仲が良かったのに…」
「そんなの、子供の時の小さな夢ですよ。子供の時は、誰も皆そうですよ?大人になれば見方が変わるものです」
「貴方はまだ子供よ…そして、私も。まだ大人にはなりきれてないのにね…」
私は言う。でも、リンは
「そう思ってるのは、お姉様だけです。ではもうすぐ授業が始まるので」
そう言って、リンはペンを買って来たハクの所へ行った。
ハクの表情はかなり怯えた様子だ。前まではこんなんじゃ無かったのに。
「ネル。あまりリンを恨まないであげて…きっと、リンにも何かあるから…」
「…分かりました」
私は、ネルに呟いて今日は学院を後にした。
************************************
「リンって人、絶対逃げましたよ!あの時はまだ授業時間まで10分くらいありましたよ!それに、リンって人とハクって人は昔仲良しだったんでしょう!何であんな風になってるんですか!もう私、頭が追いつきません!」
宿に戻るなりネルは言った。
それもそうだろう、私も正直言って頭の中がこんがらがっている。
「そうだね…二人の事が気になるね…」
「でしょう!」
「だから、明日は学院も休みだし、明日リンに話をしに行こう。ネルはそれで良い?」
「はい」
そう言って、ネルはベッドに倒れた。
「寝るんなら、風呂入ってからにしてね」
「は~い!」
ネルは風呂の方へ行った。
ネルが言った後、私は考えていた。
『ハクさん、こんにちわ!』
『あ、ミク』
『リンは?』
『リンはね…もうすぐ学校に入学だから、準備に忙しいの。ミクも、来年で卒業でしょう?』
『うん!従者が来るんだ~』
『へえ。私も、ずっとリンと一緒に過ごせて居たら良いな~』
『私、卒業したら本邸の方に行くからリン達とは暫くさようならになるね』
『ですね…。私はリンと一緒にずっと待っていますよ』
数年前にハクと交わした会話。
この時リンとハクはとても仲良しだった。
思い返せば、あの時は楽しかった。
リンは何故、あのように変わってしまったのだろう…。
「ミク様!風呂開きましたよ!」
「あ、ネル…うん、今から入る」
何時の間にあがっていたのか、ネルの言葉に私は答える。
「はあ…リン…ハク…」
リンは、何故あの様に…。
私は不安を抱えながら風呂に行った。
明日、ちゃんとリンと話そう。
次回予告
ミク「今回はリンが出てきたね」
ネル「でも、何だか嫌味な感じですね…」
ミク「そんな事は無い筈なのに…」
ネル「次回は暴走するリン…精神崩壊でしょうか?」
ミク「そして、ある者が出てきます」
ネル「次回【ケース3:変わり行く少女】お楽しみに!」
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