何もかもを放り出した午後。
私は赤信号の為、止まりながらいろんなことを考えていた。


───行き先はどうしよう。

───ちょっと私服はマズイかな……。



そうしてるうちに信号が青に変わってしまった為、迷いごとを無理矢理振り払い、足を進めた。


いつもの背伸びしたヒールじゃちょっと踏みだしにくいから、赤いスニーカーを履いて。
少しラフに、ピンクの「阿吽」って書いてあるフードを付けて。



さぁ、バレないように行こう───。










<如月アテンション>










今日は週末だからか、若い女子とかも商店街に来ていた。


私は彼女達の会話から漏れる「如月モモ」という単語を聴きながら、路地裏を抜ける。
ここに来たの、いつぶりだろう……。なんだか胸がドキドキちゃいそうだ。


───そんなこと思っていたら。


ふいに、風が吹いたらフードが脱げちゃって。
すぐさま観衆目線になってしまい、一瞬周りがシーンとなる。


「こ……こんにちは……」


私は頑張って笑顔を作りながら挨拶をする。
そしたら皆、なんかのスイッチが入ったかのように興奮していった。


「───如月モモちゃんだ!!」
「───嘘! 本物じゃん!」
「───ちょ、サインサイン!! この自然Tシャツにサインをしてもらおうっと!」


───マズイ。


私はそう思うよりも早く、ダッシュしてその場を逃げた。


やっぱ、いつも通りの週末になってしまった。
私は走りながら深い溜息をついた。





何を隠そう、私は今売れっ子アイドルの如月モモだからである。
だけど散々だなぁ、辞めたいなぁ、と思ったことはいくらでもある。


ライブ会場では「満員御礼!」なんて言うけど、実はブルーだったりする。
うん、心の中で泣いてるよ。正にオワタ。/(ToT)\


私は後ろを振り向いてみる。
なんとそこにはたくさんのファンの人達が。
思わず私は目を瞑りながら走った。


───こんなの散々だなぁ、逃げたいなぁ。


すると、目の前がフェンスで行き止まりになってしまう。
ヤバイぞ。これヤバイぞ。何度も言うけどヤバイぞ!!
後ろにはファンがいるからムリだし……。


(こうなったら……!)
私はフェンスをよじ登る。
そして「ええいっ!」と飛び降りた。
見事着地成功。パチパチ───じゃなくて!
顔を上げると、目の前には私が写ったたくさんのポスターが。


若干引いてると、さっきの集団がやってきたので私はまた走り出した。
「もう、私を見ないで!」という言葉を、ポケットにしまって。





♪  ♪  ♪





「はぁ、はぁ……」


なんとかさっきの集団を撒くことは成功した。
私はそこらへんに座り、自動販売機で買ってきたコーラを飲む。


それにしても疲れた。





猫のシッポ踏んじゃって、おかげでしばらく猫にフードの裾を噛み掴まれて。


木の上で集団を撒こうと思ったら、木の枝が折れちゃってそのまま落っこちちゃって。


そろそろ撒けたかなー、と思って後ろ振り向きながら走ったら、電柱に無様にぶつかっちゃって。
……うん、さすがにそれは凹んだわ。





昔からなんでか、私は人目を惹いていた。
なんかそれももう、慣れ始めてしまいそう。


私は思わず、飲み干したコーラを地面に叩きつける様に捨てる。
そしてらコーラがいろんなところに跳ね返って───私のデコに当たった。


「……」


……何気に痛いって、どーゆーことよ……。
私はなんかムカムカしてきて、


「あぁ、もう! (いろんな意味で)いやな体質だなぁ!!」


と叫ぶ。
そしたらバランス崩しちゃって、段差からズレ落ちた。


「うぅ、痛ぁ……」


───だけどそんなこと、人前では言えもしないけれど。


私は青い空を見つめながら、そう思った。





♪  ♪  ♪





私はまたさっきの路地裏に戻ってきた。
そこでコソコソと周りを伺うと、思った通りというか、やっぱりパニックに変わっていた。


「モモちゃん見つかった?!」
「ううん、まだ!」

「あっちにはいないか?!」
「よし、それじゃあ次はあっちを探そう!」

「くそ、モモちゃんどこだ……。是非この自然Tシャツにサインをぉぉぉ!!」


……なぜだろう。
一番奥にいる自然Tシャツの人の声が一番よく聞こえる……。


───もうアイドルなんて辞めちゃいたいよ……。


私は大通りのパニック状態を見ながら、また深い溜息をつく。


「まさかこんな事になるとは……」


私は消え入りそうな声で呟いた。





あの日の馬鹿な私は、見知らぬ人に「君、アイドルならない?」と言われたのだ。


私はそのとき、「微生物」と書かれたTシャツを着て、スポットライトを浴びながらステージで歌い踊る夢を描いてしまった。


───うん、超いい!!


私は一分足らずで、彼の誘いにのったのだった。





「散々だよ」も言えやしない、アイドル生活。
歓声が溢れちゃうけど、


「これそんな良いですか……?」


私にはつまらないよ。解らないよ。


「散々だなぁ、消えたいなぁ」
そんな言葉は声にならずに。代わりに、


「嫌だ。涙が出ちゃうよ……」


そんな言葉で、ポケットを埋めた。───そのとき。





「───おい」


突然呼ばれて、私はハッと我に返った。


「お前、なぜ泣いている?」


私の目の前には、フードを深く被った人がいた。
私は素直に答えた。


「……こんな生活が、嫌になってきたからです」
「『こんな生活』? その『阿吽』と書かれたフードを着る生活がか?」
「あ、いや、それじゃなくて……」


まさかここで「阿吽」を指摘されるとは思わなかった。


「私……アイドルなんです」
「アイドル?」
「はい。私、今最近話題の売れっ子アイドルなんです」
「…………」
「あの、どうしました……?」


急に黙り込んだので訊いてみると、その人はあぁ、と言って、


「いや、別に。どうしてこの僕が、お前を知らなかったんだと思っていたんだ……。それで、考えたらそういえば僕はニジオタであって、ここは三次元
だったな」
「はぁ……」


……この人の言っている意味が、いまいち理解できない。


「それで、なんで売れっ子アイドルなのに嫌なんだ?」
「はい。なんかだんだん疲れてきちゃって……。外に歩くのも、フードを被って出掛けなきゃいけないし、フードがとれたら皆一気に私を追いかけ始めるんです」
「ふーん……」


その人はまるで他人事のように(実際そうなんだが)言うと、しばらくまた何かを考え込んだ。
そして、


「それなら……お前も来るか? メカクシ団に」
「……へ?」


そんなことを急に言われ、普通の人なら「メカクシ団って何ですか?」とか訊くのだが、私はすぐに「行きたいです」と言ってしまった。
例の単純思考だ。
だけど、今回はなんだか後悔しなさそうに気がした。


「そうか。……それでお前、名前は?」
「如月モモ、といいます」
「ふぅん、モモか。……ちなみに、僕の名前はキドだ」
「キドさんとキド君、どちらで呼んだほうがいいでしょうか?」
「……僕は、女だ」
「えっ!? ……すみません」
「まぁいい。よく言われるしな」


いやいや、よくないですから。


「さぁ、ついてこい」
「はい、キドさん」
「キド、と呼べ」
「あ、はい。キド」


───これが、私と彼女の出会いだった。





♪   ♪   ♪




それから、私はメカクシ団に仮として入団した。


「───んにしても、キドもバカだよなぁ」


焦げ茶のフードの人───カノが、鼻で笑いながらいった。


「ここが三次元だってこと忘れるなんて、バカにも程があるぜ」


……気のせいかな。
キドからブチッって音が聞こえてきたような……。


すると、キドは一歩踏み出し、


「火竜のとび蹴りぃぃぃぃぃ!!!!」
「ぐはぁッ!?」


───彼の顔面にとび蹴りをした。


しかも彼は見事にそれをくらった。


っていうか、某ファンタジー×バトルマンガ(&アニメ)の主人公の技の名前をパクったよね?! しかも「火竜」関係ないし!!


「火竜の腕ひねり」
「ぐぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!!! 悪かった、キド! だから離してくれ! 腕が、腕がァァァァァ!!!!」


キドはまたもやパクり技で、彼の左腕を曲げた。
私はその光景を見て苦笑いしか出なかったが、


───来て、良かったな。


と、思った。





♪ ♪ ♪





───数日後。


キドはかわいい女の子を連れてきた。


「マ、マリーと申します……よ、よろしくお願いいたしますぅぅぅぅぅ」


マリーは緊張しているのか、ちょこっと涙目になっている。
私は彼女に話しかけてみた。


「マリー。私、モモっていうの。よろしくね!」
「は、はいぃ! モモモモモモモさん!! よ、よよよっよっよよろしくお願いします!」


さっきよりも緊張してません?!


「えっとねマリー。『人』を十回手に書いてそれを口に飲み込むと、緊張がほぐれるんだって!」
「人、ですか?! 私には出来ません!!」
「……あのねマリー。『人そのもの』を飲み込むんじゃなくて、『人』って字を手に書いたものを飲み込むんだよ!?」
「……え、そうだったんですか?! すいません。緊張しちゃって、ところどころが聞き取れなかったんです」
「……そ、そう」





それで、ようやく打ち解けたのか、マリーがこう言ってきた。


「私、ハーブティーを作るのが得意なんです」


ということで、私達3人と、マリーの分のハーブティーを淹れてきてもらった。
それで数分後。


「出来ましたー」


マリーが4つのハーブティーをお盆に載せて戻ってきた。───が。


彼女は途中でつまずき、宙を舞ったハーブティーが───私の顔面にくらった。


数秒の静寂。
私はその静寂が耐え切れなくなったかのように、口を開け、絶叫した。


「あ……熱いイイイイイイイイイイィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!」
「わああ!? すみません、この雑巾d───」


マリーが雑巾を急いで持ってきたが、またつまずいてしまい、私の顔面にヒットした。


「「…………」」


キド達はあまりの出来事に口しか開かないらしい。


「わぁぁぁ!!?? すみませんんんんんんんんんん!!!!」


マリーは涙目で私に謝る。


「あ……あはは……」


私はというと、もう笑いしか出てこなかった。


「マリー、謝らなくてもいいよ。それにしてもあなた、ドジっ娘なんだね」
「ふぇ?!」


マリーが更に困惑しているのを見て、私はまた笑った。





♪   ♪   ♪





そして。


私は今、ライブ会場にいる。
決意したんだ。メカクシ団の皆を見て。


───こんなんじゃ、もういけないと。


たくさんの歓声が聞こえてくる。
私は一呼吸した。


夢見てた風景に、気づいたらもう出会っていたんだ。
「散々」なら変えればいい。


私が「もう一回アイドルをやってみるよ」といったら、メカクシ団の皆は「一人じゃないよ」と言ってくれた。
……うん、そうだね。私は一人じゃない。メカクシ団の皆がいるから。


そうしてるちに、私が登場してくるところになった。
観客が、私の名前を呼んでいる。


さぁ、かっこつけないような言葉で。行こう。





「皆────ッ! ちょっといなくなっちゃってごめんね! 今日は心配してくれた皆の為に、たくさん歌っちゃうよ───っ!!」
『イェ─────ッ!!!!』


───あぁ、なんだかいけそうだ!


私は今までにないほどの笑顔をつくった。





「心臓が弾けちゃうほど~♪ 溢れ出しそうなので~♪ 奪っちゃうよ!?~♪」
『奪っちゃうよ~!?』


あとこの曲でライブは終わる。


私はちらっと、観客席の端のほうを見た。
よかった。彼女達はまだ残っている。


私はラストスパートに、あの阿吽フードを羽織った。
彼女達に、伝えたいことを伝えるため。


伝えたいことを詰め込んだ、そんな「夢」からもう目を離さない。


私は左腕を掲げてめいっぱいマイク越しに叫んだ。


「皆ァァァ! ラストスパート、行くよォ───ッ!!」
『キャ─────ッ!!』


さぁさぁ、明日もスキップで進もう!!





♪   ♪   ♪





後日、私は例の路地裏に来ている。
阿吽フードを着て、しかしフードは付けていない。


私はある人物と待ち合わせをしている間に、あのポスターを見ていた。


───今まで一番、輝いているなぁ。私。


そんなことを思っていたら。


ある人物がやってきた。
彼は赤いジャージを着て、ケータイを見て何かを喋っている。


私はやっと来たか、と思いながらも、笑顔で彼の元へ走っていった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

如月アテンション【自己解釈】

9時に起きるつもりが、11時におきてしまった雪りんごです。
1時から書き始めてたのに、気づいたら6時前になってたww
なんかもうサブタイトルつけるのメンドくさくなったので、やめました(ぇ


↓アナタは隠れじんさん、見つけられましたか?
[http://www.nicovideo.jp/watch/sm17930619]

閲覧数:11,039

投稿日:2012/06/11 18:27:13

文字数:5,426文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • 友愛@in不可

    友愛@in不可

    ご意見・ご感想

    か、隠れじんさんだと!?

    動画を見直さなくてわ;;;

    2012/05/30 22:58:15

    • 雪りんご*イン率低下

      雪りんご*イン率低下

      ウチの小説の「自然Tシャツ」という単語があるところに、隠れじんさんがいますw←

      2012/05/31 18:03:29

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました