ドアが閉まる音に飛び上がりそうになった。どうして良いか解らず本能的に来留宮先輩を見遣った。
「じゃあ、私これで。」
「つれないねぇ。」
「聞かせたくない話みたいですし。」
「ま、待って下さい先輩!こんな所に置いてかないで下さい!私が頭から食べられちゃったらどうするんです?!化けて出ますよ?!」
「俺は熊かよ。」
実際似た様な物だと思う。得体知れないし、頭赤いし、何か性質悪そうな気配がムンムンするし、そもそもこの人苦手、とか言ったら流石に失礼だよね…。なんて考えていたら無情にも本当に来留宮先輩は帰ってしまった。ドアの前で項垂れていると、後ろから近付いてくる足音が聞こえた。
「取って喰わないから武器は仕舞いなさい、緋織ちゃん。」
言うが早いか出際で両手首をあっさり捕まえられた。笑ってるけど一之瀬さん凄い力…それに隙が無い…。武道か何かやってたのかな?でなきゃかわせる筈無い。
「気の強い子は嫌いじゃないけど、高校生は圏外なんだよ…ねっ!」
「きゃあっ?!」
手首を返されてそのまま視界がぐるんと回ってソファに投げ飛ばされた。突然で受身も取れず背中から落ちた衝撃で一瞬息が詰まる。
「けほっ…けほっけほっ!」
「大丈夫か?!」
真壁さんが庇う様に一之瀬さんとの間に入って、抱き締めるみたいに咳き込む私の背中を撫でていた。心配そうな顔が涙で滲んでぼやけて見える。不本意だけど吃驚したのと怖かったのとで涙が落ちた。真壁さんは何も言わずにそのまま泣き出した私の涙を拭ってくれていた。
「おい、凰、手荒な真似するなら俺協力する気は一切無いけど?」
「悪い悪い、そんな怒るなって。それにいきなり武器出すそっちも悪いでしょ。」
しれっと言うと一之瀬さんは私の前に座って言った。
「知ってるんだよ?君このままだと18歳になったら旋堂家の本家の人に政略結婚させられちゃうんでしょ?旋堂さんはそれ止めようとしてくれてるみたいだけど。」
「なっ…?!何でそんな事まで?!」
「旋堂の髪から調べたら一発だった。あの人色々濃かったけど…。」
「何してるんですか?!」
文句を言いつつ私の心はざわついていた。小さい頃から言って聞かされてたんだから覚悟は出来てる。だけどやっぱり不安で逃げ出したい気持ちも、侑俐さんへの気持ちも消せないでいるから。
「ね、緋織ちゃん。君鈴夢の物になってみない?文字通り、身も心も全部。」
「えっ…?」
「響さんは君の気持ちに応えられないよ、解ってるでしょ?背負う物が大き過ぎるし、何の力も持ってない、でも気持ちは揺らいでる。このままじゃ2人共がんじがらめで苦しいだけだよ?」
一之瀬さんの声が呪文みたいに頭に響いていた。確かに私は侑俐さんを苦しめてる…駄目だって言われてるのに好きになって、欲張りになるのが止められなくて、でもそれは侑俐さんを追い詰める事になって…。
「悪い様にはしないよ?楽になったら?」
「でも…私…。」
落ち着いて…流されちゃ駄目、絶対何か裏がある!でも…!でも私侑俐さんを苦しめたくない…!どうしよう?どうしたら良いの?頭が働かない…待って惑わせないで…お願い待って…待って!
「悪趣味ですね、一之瀬さん。」
「おや…帰ったんじゃなかったんだ?」
「私も悪趣味なので全部聞きました。」
「来留宮先輩…。」
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