ガラッ
「おはよールカ!」
教室に入ると、いつものようにめぐみが笑顔で私にあいさつしてくる。
「おはよ・・・ちょ、ちょっとゴメン」
めぐみの前を横切って、『ある人物』の元へ行く。
「レーン」
「お、おはよルカ」
私から話しかけてきたのに驚いたのか、レンの声は上ずっていた。
「レンの好きな物って何?」
「え・・・えぇ何だよ、急に・・・・」
「いいから、何?照れないで教えてよー」
レンの頬をつんッとつっつく。
「んー・・・んーと・・・えぇー・・・・バナナ?」
「そうなの?ふーん・・・じゃあ、黄色いものが好きなの?」
「ま、まぁ、そんな感じ」
「分かった、ありがと」
レンに手を振り、めぐみの隣へ戻る。
「へぇ、意外と話すんだね」
「まぁね。カイコに話さなきゃいけないし」
携帯を取り出し、カイコにメールする。
『レンに好きなもの聞いたら、黄色いものが好きだって言ってた!』
送信。
パタン、と携帯を閉じ、スカートのポケットに入れた。
「カイコちゃんに送ったの?」
携帯を覗き込んでいためぐみが言う。
「うん」
「ふーん・・・いいの?」
「何がよ」
「別にぃ～?」
めぐみがにやにやと笑う。
ヴーヴー
携帯が震える音がして、ポケットに手を突っ込んだ。
「あれ、あたしの携帯だ」
「あ、そう?」
「うん。ちょっとゴメン」
めぐみの携帯だったらしく、めぐみは電話に出た。
「もしもし?あっ・・・おはよ!」
いつもとは違う、めぐみの明るい声が響く。
「・・・うん、え!?今日会えるの!?嬉しい!!」
今までに見たことのない、めぐみの眩しい笑顔。
誰からだろう・・・
（引っ越した友達・・・とか?）
「じゃあね、バイバイ!」
携帯を閉じた後も、めぐみの笑顔は絶えない。
「友達?」
「ううん」
「誰から?」
「えっ・・・・」
めぐみの顔から、笑顔が消える。
「何そ・・・」
「あ!授業始まる!じゃあね!!」
そう言うと、めぐみは時計を確認するフリをして教室を出て行った。
（私に言えないことなのかな・・・）
「何か、最近めぐみおかしいよね～」
「ほんと、何か、冷たくなったっていうかさ～・・・」
思わず聞き耳をたてる。
「彼氏でもできたとか?」
「え～・・・だったら、とっくにウチらに言ってるでしょ」
「言えない事情でもあるんじゃない?」
「いや、でもぉ～・・・」
確かに・・・
（彼氏なら、私に言ってくれてもいいのに・・・）
「てか、めぐみちょっと太ったくない?」
「そうそう!お腹の辺りね～幸せ太りとか?」
「そんな幸せなの～!?ずる～い!!」
「ね～・・・」
幸せ太り・・・
私は逆にやつれたかも・・・色々ありすぎて。
でも、何も気づかなかったなぁ。めぐみのお腹・・・
え?
（お腹?幸せ?彼氏?）
うん?
いやいやまさか・・・
（私にも言えない・・・?）
でも・・・
（誰にだって言えないことの一つや二つ・・・）
そんなワケないじゃない!!
首を横に振り、席に着いた。
もし・・・
（もし、私の思ってることが本当だったら・・・）
さっきのめぐみの笑顔と声、笑顔の消えためぐみの顔がぐるぐると交互に、脳裏に浮かぶ。
（馬鹿みたい）
めぐみがそんなことするわけないじゃない。
私は自分の考えを馬鹿らしく、無理矢理思って次の授業の準備をした。
もしも・・・という疑いを、少し胸に秘めながら。