バイトで出会った少年。
夏限定で募集していた喫茶店のバイトを、どうせ暇だから、と言う理由で受け、そこで同じように働いていた。
そいつ…―――レンのことを好きになっちゃったんだ。
バイトは今日で終わり。
どうしよう…。
【まだ終わったなんて、】
「リーーンっ!」
「っ?!」
呼ばれただけでかぁっと顔が火照るのが分かる。
名字が被るから、なんていう理由で名前呼びなんてズルい。まぁ、あたしも同じ理由(という建前で)名前で呼んじゃってるけど。
「え、あ、何ーー?」
「小皿一枚足んないんだけどー!」
「う゛…」
ヤバい。やっぱりバレたよ…。
あたしはレンの顔色を覗いながら、レンの元に行く。
「ご、ごめん…。割っちゃた…」
来るであろう衝撃に備えて目をぎゅっと瞑る。
「……ま、いいよ。俺からオーナーに話しておく」
へ…?
頭に温かな感触。どうやら撫でられているらしい。
「っ…あ、ありがと!」
咄嗟にお礼を言う。
……あぁ、やっぱりあたしはレンが大好きだ。
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
ふぅ…。
やっと終わったぁ~~。。
今日はお客さんが多くて大変だった…。
後は掃除と後片付けで終了。これも結構大変なんだけどね;
と、あたしがモップをかけ始めたその時、
ぱりん!
何かガラス物が割れる音がした。
振り向くと…
―――――風鈴が、割れていた。
それを見て、唐突に突きつけられる。
もう、夏が終わりなんだって事。
……もう、レンと仕事するのも最後なんだって事。
最後…か…。
もう、レンと会えないのかな…。
「…っう…そんなのっ、やだっ、やだよぉ……っ!」
頬を伝う生温かい液体はきっと…涙。
何も行動に移せないまま、泣いてるだけなんて惨めだなぁ、なんて。
そんな考えが相乗効果で涙を増幅させる。
ちょっと経ってから、あたしはなんとか涙を拭いきって割れた風鈴を片づけ始めようと、ガラスに手を伸ばす。
と、
がっしりとした手に腕を掴まれ、反射的にあたしは顔を上げた。
「っレン…」
あ、やばい。思いっきり泣いた直後だったよ。
そう思って咄嗟に下を向き直す…が、もう遅い。
「リン…?」
覗きこんできたレンの顔がドアップ。
「っ…!」
ダメだ。羞恥と困惑と混乱とその他色々のおかげで言葉が出なかった。
なのに今度は、謎の安心感でまた涙がポロポロと零れ出す。
「リ、え、何で泣いて、」
やだやだみっともない。早く止めなくちゃっ…!
そう思うのに、涙は止む気配を一向に見せずに溢れ続ける。
―――っう…あたし、こんな泣き虫だったけ?
「あー…その…、…ゴメン」
レンは女子の涙を見たのを悪いと思ったのか、そそくさと顔を遠ざけてハンカチを差し出してくれた。
あたしが有り難く受け取ると、レンは口を開いた。
「…え、と…、失恋でもした?」
…え、えー、、…どうしてそうなる。
しょうが無いからヤケクソで言ってやる。
「したよバカ…っ」
まぁ、告白も何もしてないけど。どうせ、今日いっぱいで会えなくなるなら同じだ。
「…相手はどんなヤツだったの?」
え、そこで更に傷をえぐるの?そんなんじゃ、女の子に嫌われちゃうよ。…あたしはならないけど。
「…かっこいいよ。イケメンで、金髪で。あぁでも、ちょっとアホ。」
「酷い言い様だな。仮にも好きだったんじゃないか?」
くくっと少しはにかんでレンが笑った。
「後、ちょっと口が悪い。―――でもね、とっても優しいんだよ」
そう言った後、ちょっと嬉しくなって――ちょっと悲しくなった。
そのまま勢いであたしは言葉を続けた。
「だけどっ、…ソイツに会えるのも今日で終わり。夏が終わるからっ!夏限定のバイトだからっ!好き、だけどっ!もう、…言え、ない……っ」
「……俺は、まだ終わったなんて思ってない」
「え…?」
「リン、」
レンの真剣な顔が近づく。
ちゅっ、
小さなリップ音。
「自惚れても、いいんだよな?」
火照った顔で口を閉開させながらレンを見上げると、
―――悔しいほどかっこいい顔で笑っていた。
うぅ…。……死ぬほど嬉しかったとか、絶対言ってやんない。
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