夏も終わりかけた頃。海にはクラゲが大挙して押し寄せてくる。
・水くらげ、
・電気くらげ、
・カツオノエボシ、
・キクラゲ・ ・ ・(違うだろ)・
etc.
そんなある日。
「いや~ん。クラゲがいっぱいいる~。これじゃ泳げないよ~。」
ゆかりは友達の大島つむぎと海水浴に来ていた。
「・・・いっぱいいるね~。」
大島つむぎが少し遅れて相槌をうつ。ゆかりたちはあまりのクラゲの多さに
海に入るのを躊躇していた。
海の中にはクラゲがあちこちで日の光を浴びて白っぽく漂っている。ゆかり
たちを含め海水浴に来た客は誰一人海に入ろうとせず、砂浜から海を見ていた。
「折角海に来たのに、こんなんじゃ泳げないね、つむぎちゃん。」
「そうだね~。刺されたら痛いもんね~。・・・それに、大きいよ。くらげ。」
ゆかりは、『確かにね…。』とつぶやいた。砂浜からでも波に乗ってやって
くるのが十分に見て取れるほどの大きさのクラゲ。
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| クラゲ大量発生のため遊泳禁止 |
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仕方ないので帰っていく人、砂浜の端でバーベキューを始める人・・・、
その他↓。
「折角来たのにつまんないね。つむぎちゃん。」
「・・・。」
つむぎは、微笑ましげに海に漂うクラゲを眺めていた。
「つむぎちゃ・・・ぎゃっ。」
ため息混じりにつむぎを呼ぶとほぼ同時に、いきなり後ろから肩を叩かれた。
「ねぇ彼女、僕と一緒にくらげに刺されな~い?」
ゆかりはびっくりして、勢いよく振り返ると
「よっ、ゆかり。」
「えっ・・・?」
そこには見知れた顔が。
やはり泳ぎに来たのだろう、水着にTシャツを着た沼田玲が立っていた。
「なぁ~んだ、玲ちゃんか。…って、なにすっとぼけたこと言ってるのよ!!」
「なぁ~んだ、はないだろ。それにどこがすっとぼけてると?。」
「声の掛け方の問題よ。誰が好き好んで一緒にくらげなんかに刺されなくちゃ
いけないのよ。」
「かけてくれるんならもっと気の利いた言葉にしてよ。ブツブツ。」
↑ この辺はやや小声である。
「・・・?ところで、今日は一人で泳ぎに来たのか?」
「ううん、つむぎちゃんと一緒だよ。」
「えっ?」
「ほら、そこ。クラゲ眺めてる。」
ゆかりの指す方をみやると、今の一件を気づいた風でもなく、ぼ~っと海を
眺めている大島つむぎの姿があった。
「さっきっからあの調子。」
「なんか、お前と対照的で全然存在感ないな。」
「・・・。」
「つむぎに比べてお前は、ドタバタで騒がしくて、存在感のかたm…うわっ!」
振り上げられるバックを見て、逃げに入る玲。
「誰がドタバタ騒がしいおてんば娘ですって~。」
「わ、よせっ。それにおてんば娘なんて言ってないぞ。」
玲が逃げ出し、ゆかりがそれを追いかけようとした瞬間。
「ほら、あそこ~。大きいクラゲ~。」
今迄の騒ぎは耳に入っていなかったのか、海を眺めていたつむぎがのんびり
とした声を出した。そして、後ろを振り返り・・・
「あれ~、玲ちゃんも来てたんだ・・・。」
「・・・;」
二人一気に脱力。
ゆかりと玲は顔を見合わせて軽く苦笑し、つむぎのそばへ寄っていく。
「ほらほら、あそこ。大きなクラゲだよ。」
見るとゴムボート並みの大きなクラゲ。
「あんなのに刺されたら・・・死ぬな。」
「どこから来たんだろ?あのクラゲ。」
「大きいね~。」
海水浴場に悠々と浮かぶ巨大なクラゲに浜辺からの視線が集まる。
「あ、ほらほら、あそこにも大きいのがいる。」
ゆかりが指差す沖の方から大きなクラゲが一匹?ゆっくりと漂ってきた。
「あっちの方が大きいねぇ。」
これはつむぎ。
今度のは今迄見ていたものよりも一回り程大きい。2匹?の巨大なクラゲは
すこし首を振る程度はなれて、悠々と海を漂っている。
「・・・んっ?」
しばらくして、玲がぎょっとして元のクラゲを指差して…
「なんかあれ、さっきより大きくなってないか?」
その声にゆかりが反応する。
「えっ?・・・あ、本当だ。」
後から来た方のクラゲの大きかったのだが、いつのまにか、元いたクラゲは
それよりも大きくなっていた。
「あれ~ぇ。」
・・・と、隣でつむぎも素っ頓狂な声を上げる。
「どうしたの?つむぎちゃん。」
「クラゲがモコッって・・・大きくなったぁ~。」
「はぁっ?!」
見ると、クラゲがさっきよりも大きくなっている。今しがたの大きくなった
元からいるクラゲよりも大きい。
「一体何なのよ・・・このクラゲ。」
ため息交じりでゆかりがつぶやくと・・・。
「こっちのも大きくなったぞ。」
と、玲の声がする。
「・・・。」
もこっ・・・
・・・モコッ
もこっ・・・
・・・モコッ
片方のクラゲが大きくなると、もう片方のクラゲがそれに増して大きくなる。
競う合うかのように交互に大きくなってゆくクラゲ。
「だぁ~、なんなのよこのクラゲはっ!!」
玲は騒いでいるゆかりを横目に。
「あのくらげ、大きさでも張り合ってるのかな。」
クラゲはもう優に10mを超える大きさになっている。海岸から驚く人、人、
人、をよそ目にクラゲは、もこっ、モコッ、と巨大化を繰り返していった。
「かわいい。」
つむぎの声に、ゆかりと玲が驚いてつむぎへ振り向き。
「あんなのが・・・」
「かわいいのか?」
「うん。」
いつものことながら、つむぎの妙な趣味にゆかりはあきれている。
「あんなに大きいクラゲが~?」
「うん。でも、このまま大きくなっていったら・・・どうなるんだろうね?」
「さ、さぁ・・・。」
巨大化したクラゲが陸に上がってきて街中を暴れ回るのを想像し、ゆかりは
「ひえ~っ」と小さく声を上げる。
「ま、まさか、あのまま陸に上がってきて、街中で暴れたりしないわよね。」
「んなアホな。陸に上がってきても水がないからすぐに干上がっちゃうって。」
相変わらず冷めている玲。
ぞのとき、
ズザザザザッ・・・
はじめにいた、巨大化したクラゲがゆっくりと浮き上がってきた。
「わわわっ。」
ゆかりが後ずさる。
傘の縁が現れ、それがさらに持ち上がって触手が現れ…クラゲがその触手で
立ち上がるかの様にそびえ立った。その高さは優に20mを超える。
つむぎはそれをほほえましそうに見つめている。
次の瞬間、クラゲは・ ・ ・
っ と 空に浮き上がり
わ
ふ
「きゃーっ。」
一目散に逃げ出すゆかり。
しばらく走って、砂浜を駆け上がり振り返ると・・・。
く
ら
げ
|
クラゲはそのまま空高く昇っていくところだった。
そして、
く
ら
げ
| ク
ラ
ゲ
ヽ
もう一匹のクラゲも先に飛び去ったクラゲを追うかの様に飛び立っていった。
しばらくして、ゆかりはあっけにとられながら玲とつむぎの元へ戻ってきた。
「あぁあ~、飛んでいっちゃった~。かわいかったのに~。」
残念そうにつむぎが言うのが聞こえた。
(・・・かわいい・・・か?)
二人ともあえて口には出さず。
「まったくあのクラゲ、一体なんだったの?」
あきれたようにゆかりがこぼすと、玲がそれに応えて
「きっと月にでも行ったんだろ。」
「???」
「だって、クラゲって ”海月”って書くだろ。クラゲ同士の意地の張り合い
だったのがエスカレートして、本物の月と勝負しに行ったとか。」
「なんだよそれ。」
巨大クラゲがいなくなり、静けさを取り戻した海だったが・・・。
「結局泳げないじゃないのよ~。」
ゆかりの声は海に漂う比較的大きなクラゲの間を抜けていった。
~END~
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