8月31日『初音ミク』の誕生日。
今日はネットのあちこちがそれを祝う作品で溢れている。

「さて、次はどの動画見よっかな?……お、『【ミクさん】ネギケーキつくってみた【おめでとう!】』かぁ!サムネはなかなか美味しそう!」

かくいう私も『初音ミク』だ。
いつもはマスターの作った曲にあわせて、時には一人で、時には同じパソコンにインストールされている『KAITO』と共に歌っている。
が、今日は朝から一人ネットの海で『初音ミク』の誕生日動画を漁っている。

「あ、こっちの動画カイトとミクのデュエット。……いいなぁ」

うちのカイトは今日は朝からマスターに呼ばれていった。
誕生日なのにこの仕打ち…と思わないでもないが、なんでもマスターが友人と共同制作の歌をつくるための歌録りらしい。どうしても今日中に仕上げる必要があるとかで、相手方の都合もあるし仕方ないといえば仕方ない。

「『おめでとう』は日付変わってすぐ言ってもらったけど、ほっとかれるとやっぱ寂しい……」

ネットを見れば『初音ミク』を祝う作品や言葉はそれこそ山程ある。
勿論、それらは沢山いる『初音ミク』のうち一人でである私に対して向けられたものでもあるし、見ていて嬉しいとは思う。

「でも、やっぱり『私』を祝って欲しいっていうのは欲張りなのかな?」

「そんなことないよ」

「え?」

振り返ると、見慣れた青い姿がそこにあった。

「カイトさん?今日は夜までかかるって……」

「うん、多分そのくらいかかると思ってたんだけど、マスターが頑張ってくれて早く終わったんだ。だから、ミクちゃんを迎えにきた」

「迎えに?って、わわっ!どこ行くの!?」

頭上に?を浮かべる私の手を引いて、カイトさんはファイルの間をどんどん進んでいく。
そして着いた先……

「お、早かったなミク。さっそくで悪いけど、これ歌ってくれ。カイトと」

顔を合わせるなりマスターにこう言われ、頭の上の?が増える。

「……え?だって今日はカイトさんの歌を録るんじゃ」

「ま、いいからいいから。ほら、MIDIと歌詞のデータ送っぞ」

「あ、はいっ!」

急いで受け取ったデータを読み込む。

「じゃ、とりあえず調声なしで一回通しな。いくぞ」

「はい。ミクちゃん大丈夫?」

「うん、どうにか」



イントロが流れ曲がはじまった。

歌いだしは私から、途中でメインがカイトさんに変わり、サビはハモり。
曲はマスターの好きないつものロック調ではなく、ポップス調の可愛い路線。歌詞は少女と青年が出会えた喜びを歌うもの。

無調声の歌声が二つ、部屋に響く。



「……よし、とりあえずはこれでオッケーな」

「あ、はい。でもマスター、なんで急に?」

「あー、まぁ。一応これ、俺からの誕生日祝いなおめでと。うpは間に合わんかったけど。ごめんな?」

「ううん、嬉しい。ありがとマスター!」
私がそう言うと、マスターは少し照れ臭そうに頭をかいて笑った。

「作曲担当のダチが昨日になってデータ送ってきたからギリギリになったんだけどな」

「え、ならマスター。今日中に仕上げなきゃいけない友達との動画って……」

「うん、これ」

「じゃあ、曲の感じがいつもと違うのは……」

「うん、友達が作った。しっかし間に合ってよかったよ本当」

「僕も本業以外を手伝わされた甲斐がありますよ」

そう言いながらカイトさんは私の頭を撫でた。

「今日は朝から放っておいちゃってごめんね。改めて……ミクちゃん、誕生日おめでとう」

「ありがとう…」


他の誰でもない、私の為の歌とおめでとう。
それを大好きな人たちからもらえた私は、今この瞬間、世界で一番幸せな『初音ミク』だ。






ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

『初音ミク』の誕生日

すごくおそくなったけど、ミクさん誕生日おめでとう!

当日中に投稿できずにリアルが忙しくタイミングを逃しに逃して、遅刻にも程がある誕生日祝いとなりました。
ごめんよミクさん。

閲覧数:197

投稿日:2011/09/20 14:19:20

文字数:1,556文字

カテゴリ:小説

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    ご意見・ご感想

    遅刻ですか、お仲間ですなww ←1日遅刻

    こんばんはスコっちさん、読ませて頂きましたー。
    そういやミクって、自分の誕生日をどう見てるんでしょうね。ユーザーの数だけミクがいて、その1人1人が自分の誕生日をどう見ているのか……考えてみるとなかなか面白いものです。
    でもやっぱ、自分の家のマスターや他の住人に祝ってもらうのが一番嬉しいですよね!
    関係ないですけど、最後のシーンでカイトに頭なでてもらって喜ぶミクの姿がオートで脳内ビジュアル化され、改めて「ああ、俺ってやっぱカイミク派なんだ」としみじみ実感しましたw

    今回もごちそうさまでした! 次回も楽しみに待たせて頂きます。
    ついでにTwitterの方でも、またよろしくお願いしますね!

    2011/09/21 20:56:16

    • スコっち

      スコっち

      >時給さん

      どうも、時給さん。毎度感想ありがとうございます。

      ボーカロイドって、一人のキャラクターとして認識されつつも、同じキャラクター内でバラバラに個性を持ってる面白いとこだと思うんですよ。
      だからキャラクターとしての「初音ミク」も自分ではあるんだけど、「一人のミク」としての意識が強くても面白いかなーと。
      この話、本当ならミクとマスターしか出さなくてもよかったんですけど、自分の趣味で無理矢理カイミク的描写を入れたんですよw
      カイミクはいいものです。うん。

      では、返事が大分遅くなってしまってすいませんでした。

      2011/10/14 17:25:53

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