開いた非常口。
帯人に抱き上げられた雪子は、キクの袖を掴む。
「行こうよ。キクちゃん」
キクはまた泣いていた。
「雪子ちゃん。ありがとう」
「え?」
きょとんとする雪子。その表情はとても可愛かった。
「雪子ちゃんと会えて、本当によかった」
「なに言ってるの…? ほら、早く行かないとッ!!」
「ごめんね…」
頭のなかで、エラー音が鳴りやまないの。
また、いつどうなるか、わからないから。
だから―
「さようなら。……帯人君、お願いね」
帯人はただ黙って、雪子を抱いて非常口のむこうへ歩いていった。
雪子は必死にもがいていた。
泣きながら、必死に私に手を伸ばして。
必死に―
必死に―
「嫌あぁああぁぁあ!!!!」
キクは静かに非常口を閉める。
閉める瞬間、扉の隙間から、見えた。
帯人の腕を振り払って、こちらに駆けてくる雪子の姿。
泣きじゃくりながら
必死に手を伸ばして
ごめん
バタン。
非常口を閉めると、キクは思いっきり扉をたたいた。
腕がもげるかと思うくらい、何度も何度もたたいた。
そして、ついに扉は変形してしまった。
もう二度と開かない…。
「キクちゃん!キクちゃん!キクちゃん!」
変形した扉が、ドンドンとたたかれる。
雪子の泣き声とともに、何度も何度も―。
キクは扉にむかって、言う。
「雪子ちゃん…。
私ね。たぶん、もう無理なの。限界なの」
「嫌!嫌だよ!キクちゃん、変なこと言わないで!!
みんなで一緒に遊ぼうよ!アイスクリーム食べたりしようよ!!
公園で遊んだりしようよ!」
もっと!たくさん!あるの!
キクちゃん!貴女に教えてあげたいことが!たくさん!!
世界はすごくきれいなんだってこと!!
なのに―
「ごめんね…」
キクは扉にもたれかかって、泣いていた。
息苦しいほど、涙があふれて止まらない。
「ありがとう。雪子ちゃん。
もっと はやく あなたに あいたかった 」
そう言い残し、キクは歩き出す。
もう少し、貴女の声を聞いていたいけれど。
これ以上聞いていたら、また暴走してしまうような気がするから。
帯人は何度も何度も扉をたたく雪子を、我慢できず抱き上げた。
雪子は「離して!」と泣き叫ぶが、そうはできない。
でも、雪子は何度も腕から抜けようとする。
「離してッ!!帯人ッ!!」
「……」
帯人は歯を食いしばって、階段を駆け下りた。
雪子の泣き叫ぶ声が、ただ力無く響いていた。
指先から、炎がゆっくりと私を燃やす。
回線が焼き切れる匂いがした。
もうエラー音も聞こえない。
私と同じ、赤い色。
マスターも、そういえば赤が好きだった。
……あ。
思いだした。
あの曲の名前。
マスターと聞いた、あの曲…。
「トロイメライ」
ふふ、と一人で笑った。
本当に曲名通り、夢のような日々だった。
「マスター…、今行きますから」
だから、許してくれますか…?
髪が焼ける。
同じ色した朱い炎に焼かれて。
もうなにも感じない。
もうなにも―
なにも―
最後の最後に
炎のむこうで
見覚えのある姿が見えた
なみだが頬をつたう
声がふるえた
わたしは
うれしくて
てをのばした
「マスター」
「おかえり」
さいごに
てに
あたたなか
なつかしい
かんしょくがした
そんな気がした
― た だ い ま 。
コメント2
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ご意見・ご感想
アイクル
ご意見・ご感想
泣いてくれるなんて!////
努力したかいがありましたぁ(〃ワ〃)
登場人物のところの指摘、ありがとうございます。
ちゃんとしっかり訂正しておきました。
今度から気をつけます;
それでも誤字脱字があったら、また教えてくれると嬉しいです^^
2008/12/24 22:31:39
まにょ
ご意見・ご感想
この回、すごく感動しました!!
キクがかゎぃそうで、泣きました。でも、最後に・・
よかったね、キク。
でも、たったひとつ・・・。
登場人物紹介のところで、雪子が「帯人のボーカロイド」になってる---
それはそれで、面白いかもしれないけどw
すみません、口はさみました))
2008/12/24 16:17:32